狂っているのは……
無意味だと思わないか?
彼は確かに、そう私に聞いた。
なにが?
問い返した私を、彼は少しだけ鬱陶しそうに見た。
自分で話しかけてきたくせに、と思う反面、彼の性格を考えればこんなものかと思う自分にため息が漏れる。
何でこんな面倒な人を夫にしたいと思ったのか……若さとは本当に恐ろしい。
そして、未だ離縁の一つも口にできない程彼を愛しているという事実がさらに恐ろしい。
なぁ……
もう一度、彼は「無意味だと思わないか?」と私に聞いた。
その無意味、という意味が「女王の夫」という彼の立場なのか、それとも、この国や世界の存在か……私にとってはどれも無意味ではないけれど、彼にとっては無意味なのかもしれない。
どこか乾燥している彼の、その心を愛したのだから、別に不快ともなんとも思わないけれど……普段無表情に近い宰相達が眉間にシワを寄せるくらいには、他人を不快にさせる効果が彼の言葉にはあった。
無意味だと思うなら、どうしたいの?
少しかさついた頬に触れる。
女王の夫というのは、女王の為の盾であり、剣だ。
見目麗しいのも良いが、自分のみなりをあまり気にしない彼の方が今代の女王にはあっている。
壊したい
ポツリと呟いた彼の目に映る狂気。
立場上許せない私だけれど、いつかこの座を誰かに引き渡すとき、まだ彼が傍にいて、壊したいと思うのなら……
そうしましょうか?
驚く彼の瞳に映る私の笑顔。
ああ、一番狂っているのは「女王」なのかもしれない。