81話 2回戦、始まるよ!
「来ていたのですね、監督」
「そりゃそうよ。娘の公式戦だもの」
試合30分前、斡木クラブの主将である高峰が球場に足を運ぶと、友希の母親である自分のチームの監督が既に観客席に座っていた。
「仰いましたか? 華園さんのストレートについて」
「言っていない」
「友希さんも可哀相」
高峰はわざとらしく悲し気な表情を出したが、友希の母親は気にする様子は全くない。
「高峰、お前だって言わなかったのだろう? 理由は同じだ。河咲女子の2年生も、ハマスタへ行くのは最後のチャンスだからな」
「分かっていても簡単には打てませんが。分かっていなければ、絶対に打てない。そうは思わなくて? 恵美」
「……そうっスね」
高峰の後ろに隠れていた柴谷がひょこっと顔を出す。
その後に、飲み物を買いに行っていた霊山も到着した。
「……今日は自由とは言ったが、お前ら3人とも暇なのか?」
「まさか。恵美たちが行こうと言うので仕方なく、あたくしの貴重な時間を削りに削り、切り詰めて来たのですわ」
「誘ってきたのは高峰だけどなー。そういうことにしておくかー」
観客はそれ以外にもたくさんいる。
相模南の生徒も、1回戦の劇的な勝利の効果か、人数を増している。
無論、外部チームとは違い相手も高校の部活なので、河咲女子高の生徒たちもいる。
「じゃ、行ってくるよぉ」
「ニノ先輩、後攻! 後攻をお願いしますね!」
先攻後攻を決めるじゃんけんを前に、友希が後攻を祈願する。
「任せておきなってぇ、こういう運は強いんだからさぁ」
「……これはフラグね、間違いないわ」
「雨音のそれもフラグというやつじゃな。ニノさんと雨音のフラグ、どちらが強いのか見物じゃの」
「いや、ただの運だと思うけど……」
小鳥遊の突っ込みも虚しく、真中は熊捕を睨みつける。
それを見て熊捕は小さく口角を上げた。
そんな1年生を置いて二宮が歩いていくと、すでに相手のキャプテンである華園百合は待っていた。
「……よろしく、二宮さん」
「よろしくねぇ。気軽にニノって呼んで欲しーなぁ。華園さんは、下の名前なんだっけ?」
「百合、よ」
「じゃあユリリンだねぇ。悪いけど後攻は渡さないよぉ」
「……悪いけれど。試合前に、仲良くなんてならない。あなたが先の試合で怪我したのは、知ってる。私たちは、あなたを狙う。いや、狙わざるを得ない。右打ちの練習ばかり、してきたから」
「全然、悪くないってぇ。オールカモン、だよぉ」
少し遅れてきた主審が促し、じゃんけんが始まる。
結果、華園が勝って相模南は先攻になった。
「ありゃ、負けちった。うーん、見栄を張ってきたんだけどなぁ」
「それが。あなたの、素なのかしら。……改めて、よろしく。ニノさん」
ほどなくして審判の合図により両チーム全員がセンターラインを境界に2列に並ぶ。
「礼!」
「「よろしくお願いします!」」
挨拶を終え、双方のベンチに戻る。
先攻の相模南は、ベンチの前でバットを振りながら相手ピッチャーの華園の投球練習を見る。
だが1番、2番の小鳥遊と二宮はそれだけではない。
キャッチャーの動きを、間近で見る。
1回戦の見学でも目にはしていたが、間近で見るとよく分かる。
ピッチャーへの返球1つをとっても。
「雨音ちゃんの言う通り、華園さんのクイックが秀逸なら、1回戦よりも盗塁は厳しそうですね」
「みたいだねぇ。あたしは怪我もしちゃってるし……まあそれを逆手にとって油断してるスキを突くのもありだけどぉ」
キャッチャーの二塁への送球は、ストライクど真ん中。
守備のチームとして1回戦を勝ち上がってきた司令塔のだけはある。
スコアボードを見上げ、キャッチャーの名前を確認する。
胡蝶。
体格は普通。
ショートで銀髪の華園に対比するように、長く艶のある黒髪がキャッチャーマスクの後ろからはみ出ている。
友希に言わせれば、整った顔立ちなので顔は見覚えがあるが、そこまで印象に残っている選手ではないという。
だが、高校に入って伸びる選手なんていくらでもいる。
「それよりも、まずは出塁、ですね」
「ずっきーにまかせたよぉ」
小鳥遊が打席に入り1球目。
「ストライク!」
小鳥遊はストレートを見送り、審判のストライクコールが響く。
(コントロールも、球質も、確かに一級品だ。でも、打てない、とは僕にも思えない……)
2球目。
……それは失投だと思った。
インコース真ん中の、初球より少しだけ遅いストレート。
打ちに言った小鳥遊は、完璧にそれを捉えたと思った。
―――球が、バットに当たるまでは。




