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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第一章 仲間集め
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7話 ライバル登場、かもね

「では友希さん、申し訳ないですが、一度わたくしの家に寄ってからにしますわね」

「大丈夫ですよ! なんだかわくわくします」


 二宮と一之瀬は、幼馴染だけあって、家が近い。

 直前で友希と一之瀬は他の2年生と分かれ、一之瀬の家に着いた。


「こ、これは……」


 一之瀬の家は豪邸だった。

 友希の家からそう遠くない立地にあり、こんな目立つ豪邸を今まで知らなかったなんて、と思う。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 門の手前で待っていたのは、ガタイの良い黒服の男。


「そちらの女性は、お嬢様のご学友でしょうか?」

「ええ、そうですわ。わたくし、少し準備がありますから、客室の方へ通していただけません?」

「承知いたしました。では、こちらへ付いて来てください」

「あっ、はい」


 豪勢な部屋に通され、ふかふかのソファーに座らされる。


「……」


 よく分からないが高価そうな絵画が何枚も壁に飾られていたり、机にしても質の高そうな肌触りを醸し出している。


「では、お嬢様はすぐ来られるということですので、少々お待ちください。お口に合うか分かりませんが、こちらをどうぞ」


 黒服の男は、地元で有名なケーキ屋の中でも人気の高いショートケーキ、そして香り高い紅茶をセットで机に置いた。

 ぱたん、と部屋から出て行った黒服の男を見届け、フォークに手を付ける。


「だ、駄目だ。美味しいはずなのに味が分からないんだ……。まるで、オーシャンズが大型連勝した時のような気分……」


 無心で食べ続け、紅茶を喉に流し込む。

 不思議な空間の中、10分ほどで一之瀬は戻ってきた。


「お待たせしましたわね。それでは、行きましょうか」


 一之瀬の来ている服も、友希にはさっぱりわからないが、高級そうな見た目をしている。

 これからこの人と一緒に街を歩くと思うと、制服とはいえ自分が浮いてしまいそうで不安になった。


 時刻は3時を回ったところ。歩いて、大型のスポーツショップへ向かう。

 友希もよく通うスポーツショップだが、店に来るたびにテンションが上がる。


 スーッと深く息を吸うと、新品のスポーツ用具の、決していい匂いではないけれど癖になる様な香りが鼻腔をくすぐった。

 まるで子供の様に、友希は野球用具コーナーへ駆けて行く。


 すると、そこには非常に身長の高い女子高生がいた。

 160㎝を超える友希よりも頭半~1個分くらい大きい。一之瀬も長身だが、それよりも高かった。


「あ、あのヘアピンって……」


 その長身の女子高生が長い黒髪に付けていたのは、友希と同じヘアピンだった。

 ハマスタでしか販売されていない、オーシャンズファンのみが付ける、黄色い星と青い波を模ったヘアピン。


「すいません! あなたもオーシャンズファンなんですか?」


 テンションが高くなりすぎたのか、友希は思わず声をかけていた。


「ええ、そうですよ。あなたも……そうみたいですね。その制服は、相模南女子高?」

「はい、そうです! よく分かりましたね」

「高校は違いますが、地元ですからね。でも確か相模南には、野球部はなかったはずでは……」

「今年から作ったんです。それで、野球用具の買い出しに来た次第です」

「あら、そうなんですか。では私たちと同じですね」


 友希は『同じ』というワードの意味を考える。


「もしかして、あなたも野球部を立ち上げたんですか?」

「そうです。まあ私たちの高校には、元々野球同好会というのはありましたけどね。去年、立ち上げました」


 こんな偶然があるものなのか、と友希は変な感動に包まれる。

 その間に、一之瀬が会話に入って来た。


「もしよろしければ、野球部を発足させた時に、これは買ってよかった、という物を教えて頂けないでしょうか?」

「……色々ありますが、ピッチングマシンですね。立ち上げたばかりだと碌に投手をこなせる人も少ないですし、かといってバッティング練習で多投させ続ければ怪我してしまいます。あと、変化球の練習にも有効ですし。上手く使いこなせれば、守備の練習にも使えますよ」


 ……確かにあれば有用だ、と友希は思う。

 投手は今のところ投山と、打撃練習程度なら小鳥遊がいる。

 だが、肩は消耗品だし、打撃練習に制限が出てしまう。

 しかし。


「でも、変化球も投げられるようなピッチングマシンって、高くないですか?」

「まあそうですね。でも、信頼できる方から中古で買えば、高校生でも手が出せない額じゃなくなりますよ。私たちは20万円で譲り受けたので、部員一人頭2万円弱くらいでしたかね。バイトのシフトを増やせば、すぐに買えますよ」

「20万……!」


 高校生にあがりたての友希にとっては、途方もない数字だった。

 今まで財布に入れた最高額は、諭吉さん2人。

 それでさえ盗まれるのが怖くて、ポケットの中の財布をずっと握りしめていたのだ。その十倍ともなれば、もはや街中を歩ける気がしない。


「……そうですわね。では、購入することにしますわ。ありがとうございます」


 だが、一之瀬は即決した。

 友希は先ほどの豪邸を思い出し、一之瀬の金銭感覚に納得する。

 元プロ野球選手の母を持つ友希の家もそれなりに大きいのだが、桁が違った。


「じゃあ、一応私の連絡先を教えますね。言いそびれてましたが、私は翔和(しょうわ)高校の海乃葵(うみのあおい)と言います。困ったことがあればいつでも連絡してください」

「ありがとうございます! えと、私の携帯は……」


 連絡先を交換して、友希は嬉しそうに携帯を見つめる。


「三咲ってもしかして……。これはとんだ偶然ですね、とても嬉しいです。じゃあ、私はこれで。容赦はしませんが、試合で会うことを楽しみにしてますよ」


 海乃葵はそう微笑みながら告げると、購入品をレジへ持って行った。

 友希は、神奈川の女子高校野球の公式戦結果を携帯で検索する。


「うわ、すごい。創立一年目で一回戦突破してる。しかも今年の春は、二回戦を突破して準決勝までいってるんだ! 二年生なのに県ベストナインに選ばれてるし!」

「……俄然、やる気が出てきましたわね」

「にしても、ピッチングマシンなんて、部費で賄えるんですか?」

「そこは、なんとかしますわ」

「……もしかして、自費で払うつもりですか?」


 友希の問いに、一之瀬は少しだけ詰まる。


「ええ、わたくしが好きで始めた部活ですから、わたくしが道具を揃えるのは当然ではなくて?」

「でも、私だってそれじゃあ気が済みません!」


 確かに一之瀬の家は豪邸だった。きっと余りあるほどのお金があるのかもしれない。

 けれど、それに頼ってしまうのは、何かが違う気がした。


「……お金のことにお困りかな?」


 すると突然、後ろから声をかけられた。

 友希たちが振り返って見ると、そこにはスポーツショップの制服を着た、黒縁の眼鏡を掛けた人当たりの良さそうなおじさんが、にこやかな顔で立っていた。


「て、店長?」


 一之瀬は、ばつの悪そうな顔で店長と呼んだおじさんを見る。

 友希が目を凝らして見ると、確かにネームプレートの所に店長という文字が刻印されていた。


「もし良かったら、君も一之瀬さんと一緒にここで働かないかい? 君のことをよくここで見かけるし、野球の事が好きなら、良い職場だと思うんだけど」


 店長の言葉に、友希は驚いた顔で一之瀬を見つめた。


「優美先輩って、バイト、してたんですか?」


 あんなに大きな豪邸に住んでいるのに、バイトをしているというのは、友希には不思議に思えた。


「……ええ。部としての財産はともかく、わたくしが使うグローブくらいは、わたくしで働いて買いたいと思いましたの」

「まあ、時給はそんなに高く出来ないんだけどね。でも、ここにある売り物なら、定価より安く買うことができるよ」


 いつの間にか店長が持って来たバイト募集のチラシには、時給950円という文字と、社員割引付きという文字がポップに描かれている。

 店長の言う通り、神奈川県のアルバイトとしては決して高い時給ではなかったが、それでも友希にとっては非常に魅力的に映った。


「ちょっと店長、友希さんにバイトをさせる訳には……」

「いえ、働かせて頂きます! 私も、自分で使う道具くらいは自分で買います!」


 一之瀬は、止めようと思った。

 だが、それも自分の我が儘なんじゃないかとも思う。

 それに、アルバイトの人数が足りずに、いつも火の車でシフトに入る店長を思うと、さらに引き止め辛くなる。


「……わかりましたわ。わたくしに止める権利はありませんものね」


 一之瀬がそう言うと、友希よりもむしろ店長が胸を撫で下ろした。


「いやー、助かるよ。ホント、週一でも夜だけでも入ってくれればいいから。履歴書持ってきてくれたら採用するから。親の同意書も忘れずにね」

「はい! よろしくお願いします!」


 友希は何度も何度もお辞儀をする。

 これで良かったかしら、と一之瀬は深く考えないようにした。


「じゃあ、僕は仕事があるから」


 店長はひらひらと手を振って、持ち場に戻っていく。


「じゃあ、買い物を続けましょうか」

「はい!」


 ボール、ヘルメット、ロージンバッグ、などなど。

 一之瀬はいいと言ったが、備品についても友希はいつか返すと譲らない。


「……友希さんはプロ野球選手になるのが夢でしたわよね? でしたら、その夢が叶ったら、返してもらうことにしますわ」

「それ、とってもカッコいいですね! 絶対に返して見せます!」


 結局、ピッチングマシンについては友希の母親に相談してから購入することとなった。

 友希が携帯を覗くと、小鳥遊から6時頃に家に向かうとの連絡がきている。


「ニノに任せていると、みんなに変な野球知識を入れていそうですし、わたくしも早く帰らなければなりませんわね」


 時計は5時を示しており、友希も小鳥遊たちを迎える準備もしなくてはならない。


「じゃあ優美先輩、このへんで!」

「ええ。明日の練習は午後になると思いますけど、後で連絡いたしますわ」

「はーい!」


 お泊り会の期待に胸を膨らませながら、友希は小走りで帰路に着いた。


人物紹介Ⅰ

海乃 葵 (うみの あおい)

翔和女子高等学校 2年

??番ファースト 右投げ左打ち

172㎝ 64Kg 髪色:黒

出身:神奈川

好きな球団:スターオーシャンズ

好きなこと:野球観戦

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