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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第五章 夏休み!
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42話 夏休み 2年生編

「えーっと……」


 部活がない夏休みの中、野球部の2年生は右京の家に集まっていた。

 漫画が好きなのは知っていたが、ここまでだとは誰も思うまい。

 本棚が四方を取り囲み、漫画やライトノベルが所せましに詰められている。


「うちな、音楽を聴くのが趣味やねん。でも最近は、アイリちゃんの影響でアニソンが多くなってん」

「いや、それはさぁ、うん。で、これはなんなのぉ?」

「同人誌を描くの、手伝って欲しいネ!」


 右京が描いている原稿が机の上に並べられている。

 一之瀬や二宮が想像していたよりもずっと上手い。


「それは良いですけれど……描いた同人誌? というのはどうしますの?」

「夏コミで売るネ!」

「はあ……」


 一之瀬が右京の描いた同人誌をぱらぱらと捲る。

 まだ下書き段階だが、内容は掴める。


「何かの漫画のキャラクターの日常ですのね。どこか既視感がありますけれど」

「みんなを参考にしたネ」

「ですが、終わり方がどこか中途半端というか……」

「そ、それは大丈夫デス!」


 焦る右京に訝しげな目線を送りながらも、一之瀬は承諾した。


「それで、わたくしは何をすればいいのでしょうか」

「ベタを塗って欲しいネ! こんな感じで、この筆で黒く塗り潰してもらいたいデス! 終わったら、お礼に焼肉を奢ってあげるネ!」

「! 分かりましたわ」

「優美は相変わらず、食べ物の話になると人が変わるよねぇ」


 右京と、すでに少し手伝っていた左門に色々と聞きながら、同人誌を完成させていく。

 少し休憩にしようとお茶と菓子を摘んでいる時に、二宮があるものを見つける。


「これってさぁ、今描いているやつの続きなんじゃ……」

「あ……! それは見ちゃいけないネ!」


 ぱらぱらと捲っていた二宮の目の焦点が段々とずれていく。


「一体なんですの?」


 苦笑いを浮かべる二宮の手から、一之瀬が本を取る。


「……? ……っ! は、ハレンチですわ!」


 一之瀬は顔を真っ赤にして読んでいた同人誌の下書きを閉じる。

 息を荒くして、右京を睨みつけた。


「恥ずかしいネ~。でもキスくらい普通だと思いマス!」

「で、でも! 同性で、しかもこの登場人物って……!」

「イエス! ユミとキョーコネ!」


 二宮はというと、目線を合わせないように左門の方を向いている。

 左門はそんな二宮に対し、何とも言えない表情で答えた。


「い、一応聞いておきますけれど……、なんでわたくし達がモデルなんですしょうか?」

「幼馴染っていう関係がとてもいいと思ったネ!」

「そ、それなら友希さんとみずきさんだって……。そのまえに、女性同士っていう理由を教えていただきたいですわ!」

「? 男性同士の同人誌も前に描きマシタヨ?」

「アイリちゃん、アイリちゃん。男か女かはあまり関係ないと思うで? どうして男女ではなく同性愛を描いたのかっていう話や」


 一之瀬の言いたかったことを左門が要約し、ようやく右京の合点がいった。


「ヘイ、ユミ! ユミはロミオとジュリエットという話を知ってマスカ?」

「詳しくは知りませんが……大体の流れでしたら」

「あれは身分の差を乗り越えるという環境が情熱を生んだネ! 現代の話デスガ、同性愛というのはまだ市民権を得られてないネ! そういう障壁があってこそ、恋というのは燃え上がるのデス!」

「でも、だからって……」


 一之瀬はちらちらと右京が描いた同人誌を見る。


「……焼肉はきっとおいしいネ。いくらでも食べ放題デス」

「!?」


 右京がボソッと呟くと、一之瀬の体が硬直する。


「……次のページを持ってきてください」

「食欲には勝てないんだねぇ」

「ニノ、あなたも手伝いなさい」

「仕方ないなぁ」


 寝転がっていた二宮は立ち上がり、一之瀬の隣に座る。


「あたしは何やればいいかなぁ?」


 いつも以上に距離が近いのか、一之瀬が少し離れた。


「……からかわないで欲しいですわね、二宮」

「おぉ、怖い怖い」

「キョーコは台詞の日本語チェックをして欲しいネ!」

「りょうかぁい」


 みんな作業をしている中、時折二宮は手持無沙汰になる。

 話しかけるのも悪いので、本棚に合った野球の漫画を手に取った。


『キャプテン』


 二宮自身も、子供の頃に読んだ漫画だ。

 父親が持っていたものを、弟と一緒に呼んだ記憶がある。


「そう言えば、ユミとキョーコはどうして野球を好きになったデスカ?」

「あ、それうちも気になるなぁ」


 唐突に右京が話を振り、左門も興味津々といった様子で顔を上げる。


「好きになった理由ねぇ。成り行きかなぁ」

「その成り行きが聞きたいのデス!」

「父親が野球好きでねぇ。野球漫画とかもたくさん持っててさぁ」


 二宮は、ひらひらと手に持っていたマンガを振る。


 主人公を筆頭に、ユニフォームは全員が泥だらけ。

 現代から見れば時代錯誤とも言える練習量。

 怪我に悩まされ、痛ましいシーンも多い。


 それは、この漫画に限った話ではないけれど。

 だけど、何故か憧れた。


「でもさぁ、あたしの同世代にねぇ、すっごい野球が上手い子がいてねぇ。あたし、野球の指導を受けた経験はないって言ってたんだけどさぁ、実は一ヶ月だけあるんだよぉ」


 怖かった。

 小学4年生で、女の腕力で、主力を張っている。凄いという前に、恐怖が襲ってきた。

 漫画と現実は違うんだと、嫌でも思わせるようなプレーがそこにあった。


「そこからだねぇ。野球は趣味、見るのと適当にやるのが1番だってしたのは。まぁ今から考えれば、後悔してるんだけどさぁ」

「そっか……ニノちゃんも似た感じやったんやな。うちも、スポーツしたかったけど、周りに付いていけそうになくて、諦めてたんや」

「でも、敦子さんは筋が良いですわよ」

「うふふ。それはなぁ、皆の教え方が上手いからやで」


 左門は作業に疲れたのか、眼鏡を外した。

 見慣れない姿で、にこっと笑う。

 照れるように後頭部を掻く二宮が、ふと横を見ると。


「ミーは凄く感動したネ! かくいうミーも、漫画家になる夢、一度諦めかけマシタ!」


 号泣していた。


「今の、そこまで感動する要素あったかなぁ。どうでもいいけど、原稿を汚さないようにねぇ」


 鼻を1回ちーん、とかむと、右京はケロッとした顔に戻る。


「それで、ユミはどうして野球を好きになったデスカ?」

「わたくしは……」


 1度二宮の方を見て顔を赤くしたかと思うと、咳払いをして元の様相に戻る。


「わたくしは、憧れの好きなプロ野球選手がいたからですわ」

「それって前に言うてた、『ゴジラ』って呼ばれてた人なん?」

「そうですわ。ドームに観戦しに行ったのですけれど、スタンドより上の看板に当てたホームランは今でも覚えていますわ。周りは叫んでいましたけれど、わたくしは言葉も出ませんでしたの」


 帰ってから録画したその試合を何度も見た。

 プロ野球を生でもテレビでも、何度も見たけれど、一之瀬の中でそれを超えるホームランは今までにない。


「……アイリさんは、その、野球部に入って良かったですか?」

「当然ネ!」


 間髪入れずに右京は答えたが、どうしてそんなことを聞くんだろうという目で一之瀬を見る。


「部活で漫画を描く時間も減ってしまいますし、本当はどう思っているのか、気になってしまいまして……」


 強制ではなかったけれど、転校してきて友達もいないなか、強引に誘ったと言ってもおかしくない。

 それは、二宮も自覚していることだった。


「アメリカの友達に、ミーと同じくらい漫画が好きなフレンズがいるネ! その子も野球やってるし、ノープロブレム!」


 そこで右京は名案を思い付いたかのように、パチンと指を鳴らす。


「夏にそのフレンズが日本に来るネ! 一緒に野球やりマショウ!」

「良いねぇ」

「2人ともミーが描いた同人誌のモデルネ! きっと仲良くなれマス!」

「……それは勘弁してほしいですわ」


 話に花が咲く。

 焼肉を食べる時間を見誤り、徹夜する羽目になるとは、この時誰も予想していなかった。


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