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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第五章 夏休み!
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41話 夏休み 1年生編その2

「いやー、いらっしゃい。待ってたよ」

「「「「おじゃましまーす!」」」」


 5人が真中の家にあがる。

 真中の父親は、感無量と言わんばかりに涙を拭う振りをした。


「見ているかい、母さん。雨音に、家に呼べるほどの友達がこんなにもたくさんいるよ」

「ちょっと、恥ずかしいから止めて欲しいんだけど!」


 真中の父親は、仏壇の妻に報告しに行く。

 その仏壇はリビングにあったため、友希たちにも見えた。


「綺麗な人だね、雨音ちゃんのお母さんって!」

「そう言ってくれるのは有り難いけれど、返答に困るわね」


 真中の母親は、真中を穏和にさせたような顔つきをしていた。し

 かし遺影は1枚だけでなく、普通の写真とは別にもう1枚、小さい遺影がある。


「雨音ちゃんのお母さんも野球をやっていたの?」


 小鳥遊はそれにいち早く気付いた。

 野球のユニフォームを身に纏い、屈託なく笑顔を浮かべる真中の母親の写真。


「ええ、中学から大学までやっていたわ。プロにはなれなかったらしいけどね」

「……」


 4人とも、真中の母親の写真を見つめたまま動くことも、口を開くこともしなかった。

 両親や兄弟などの近しい人の死は、まだ誰も経験したことがない。


 友希は、その仏壇の前に正座して座ると、線香に火を点けた。

 鈴を鳴らして、手を合わせて目を閉じる。


「……」


 目を閉じて十秒ほど経って、再び遺影の方を見る。

 黙祷の前後で、少しだけ違うように見えた。


「……別にそんなことしなくてもいいわよ」

「えー? いいじゃん、雨音ちゃんと一緒にハマスタに行くって、約束したよ!」

「なっ……! そ、そんなの、当たり前よ!」

「ならわしも、雨音がもっと素直な性格になることを約束するかのう。あと、次は雨音の勉強も見て赤点を回避するように……」

「それは関係ないでしょ! い、いいからもう、お風呂済ませてきなさいよ。友希と熊捕はお風呂長いから後よ、小鳥遊と投山が先に入りなさい」

「雨音ちゃんはどうするの?」

「自分は最後ね。ないとは思うけれど、父親の監視もしないとだし」


 それを聞いた真中の父親は、再び仏壇の方に向かう。


「聞いたかい母さん、雨音のやつ実の父親をこんなに疑って。俺が愛しているのはお前だけだったというのに」

「だから! いちいちお母さんに報告しないで!」


 小鳥遊と投山が風呂に入っている間は友希と熊捕が、その後は小鳥遊と投山が夕食の用意を一緒に手伝う。

 最後に真中が風呂に入っている時に、真中の父親がポツリと呟いた。


「雨音が、どうして学校の野球部に入ったか分かった気がしたよ」

「……どういうことですか?」

「雨音には野球しかなかった。俺と母さんが枷を付けたかのように、野球しかやってこなかった。友達も少なかったんだけどね、悪態をついてくれるような友達なんていなかった」


 友希たち3人は、その言葉を見て熊捕の方を見る。


「ち、違うけえ! あれはレッドスナーパーの表ローテの防御率を見て、『裏ローテじゃないの、これ?』と言った雨音が悪いんじゃ!」


 ああ、それは怒る……。

 と同情の眼差しで皆は熊捕を見つめる。


「……はっは、別に皮肉を言ったわけじゃない。それこそ、言い合っている2人の顔を見れば分かる。中学までの雨音はなぁ、それこそ棘のようで誰も近づかなかった。でも最近、家でも変わって来たんだ。あんなに学校の話をする雨音は初めてだよ」


 4人は、互いに顔を見る。


「あれで意外と、雨音も可愛いところがあるのだ!」

「別に意外でもないじゃろう」

「雨音ちゃんは元々可愛いよ!」

「ふふっ、ツンデレってやつだね」


 しかし、振り返るとすでに風呂から上がった真中の姿があった。


「聞こえているわよ……」


 恥ずかしさのあまり、怒ったように眉を顰める真中の肩を、熊捕はポンと叩く。


「それくらいで動揺しとったらあかんぞ。飯の後は卒業アルバムを見るイベントが待っとるからのう」

「何を……」

「あ! 友希ちゃんの家で卒アル見るの忘れてた」

「……さー、ご飯ご飯」


 話題を逸らしつつ、友希たちはご馳走にありつく。

 テレビではプロ野球が放送されており、妻・娘ともに野球をやっていたためか、真中の父親も野球に詳しかった。


「そう言えば、ハマスタに行けなければ廃校と聞いたけれど、それは本当なのかい?」

「……はい」

「そうか。俺は応援することくらいしかできないけどね。何か力になれることがあったら言ってくれ」


 悲しそうに、しかし嬉しそうに笑う真中の父を見て、4人は固く決意した。

 必ず、ハマスタに行くことを。



「良いお父さんだったね」

「そうかしら」


 真中の部屋で、5人は適当な位置に座りながらテレビを見ている。

 しかし、テレビはスワンズとレオポンズ戦だったため、興味が薄かった投山が辺りを見渡す。


「ちょっと、なにしてんのよ」

「我の第六感を欺くことは出来ないのだ! ここに在るとみた!」


 第六感なのか、何なのか。

 ともかく投山は真中の小・中学校の卒業アルバムおよび野球の写真を探り当てた。


「可愛いー!」

「ふふっ、小さいけれど眼つきは変わらないんだね」

「や、やめなさいよ!」


 真中は必死で卒業アルバムを取り上げようとするが、熊捕が羽交い絞めにしてそれを抑止する。


「……あれ、これってもしかして」


 そんな中、野球の試合の風景を切り取った一枚の写真に友希は目奪われる。


「私のいたチームじゃない?」

「ああ、それは確か、中学2年春の関東大会の……」


 写真には、小さく友希の姿も映っている。

 しかし、真中はそんなものに集中する気にはなれなかった。

 相手チームのユニフォームを見る。


 そこで、忘れていた記憶が蘇った。

 すべて合点がいった。


「まさか、立浜女子の天ノ川雫って……」

「うん、そうだけど」


 真中が初めて、敵で畏怖した相手。

 なぜ今まで忘れていたのかと思うほど。敵の顔をこんなにも憶えているのは、数少ない。


 今でも思う。1人ではきっと勝てないと。

 勝てないと思ったから、心の底に封じ込んでいた相手。


 でも今は、恐怖はない。

 武者震いと共に少しだけ口角を上げる。

 真中はアルバムと共にその写真を元の場所にしまった。


「友希。それと……みずき、紅葉、桜。ゲームはないけれど、トランプでもやらない?」


 友希たちは顔を見合わせる。

 小鳥遊、熊捕、投山が真中から下の名前で呼ばれるのは初めてだった。


「何をやるんじゃ? わしはトランプは得意じゃぞ」

「紅葉ちゃんはポーカーフェイスだからね。僕も得意だけど」

「我も弟と妹には常勝だったのだ!」

「私はあまり得意じゃないけど、雨音ちゃんなら勝てる気がするなー」

「……ふふっ、望むところよ」


 試合では勝つ。

 そう心に仕舞い込んで、仲間との夜を楽しんだ。


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