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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第四章 練習試合 vs斡木クラブ
32/150

31話 斡木クラブ

 練習試合当日。

 試合開始は2時からだが、当然試合前のアップのために、斡木クラブチームは早めに到着する。


 今は11時だが、先方の電話より、どうやら12時くらいに着くらしい。

 相手が来る前に早めに昼ごはんにしようと、部室に戻って弁当を開けた。


「そう言えば、友希ちゃんのお母さんが斡木クラブの監督さんなんでしょ? ってことは今日友希ちゃんのお母さんもくるの?」

「ううん。今日は斡木の方で別の仕事もあるから、2年生の練習を見るって言ってた。監督はキャプテンの人が代理でするって言ってたよ」

「キャプテンって言ったら、やっぱりあれかしら。春に2年生ながらベストナインを取ったっていう」


 斡木クラブは、代々走塁や守備を重要視するプレースタイルだった。その中でも、守備力が最も必要とよく言われるのがショートである。

 そのチームの中で1年生の時から1番ショートでレギュラーを掴み、神奈川のベストナインをも勝ち取るそのプレーは、動画越しだが華がある選手だった。


「たぶんその高嶺さんだと思う。お母さんも確かそう言ってたし」

「どうせなら、その人のプレーも生で見てみたかったのう」

「ふふん。出て来ても見事打ち取って見せるのだ!」


 練習試合でホームゲームということもあり、1年生も2年生も、あまり緊張はしていない。

 談笑しながら昼食を済ませ、グラウンドへ出て軽くストレッチをしている時だった。

 斡木クラブのユニフォームを着た15人ほどの女子たちが、グラウンドへ到着する。


「あれ、先頭の人が高嶺さんじゃない?」

「あ、ほんとだ!」


 斡木クラブの主将兼監督代行・高嶺(たかみね)

 肩まで伸びた金髪に、軽くパーマがかかっている、身長の高い女子。

 高嶺の号令によってグラウンドへ挨拶を済ませ、こちらへとやってくる。


「お久しぶりですわ、鈴木先輩」

「おー。お久しぶりなのですー。春の大会は惜しかったですねー。私と同じスイッチヒッターですしー、応援してますよー」


 監督代理で来た高嶺は、斡木クラブの先輩でもある監督に挨拶をしている。

 その間に、他の斡木クラブの部員たちは二宮らの案内によって荷物を置く。


「あれ、詩織先輩!?」


 そんな中、友希はある顔見知りを見つける。


「おー、三咲ー。久しぶりだなー」


 中学時代、学校も同じで、クラブチームの中でも最も仲が良かった先輩、霊山(れいざん)詩織。

 時々変な素行を見せるものの、友希のいたチームでは珍しく和やかな性格で、糸目が特徴の女子だ。


「元気にしてたかー? とゆーか、なんで三咲はうちに来なかったんだー?」

「えー、だってお母さんが監督って嫌じゃないですかー。それより、詩織先輩も試合でるんですか?」

「私は出ないぞー。今日来た理由はなー、……痺れ薬を開発したんだけどなー」

「相変わらず、何やってるんですか」


 友希は慣れているからか笑い声を上げるが、他の部員は斡木クラブの人達も含めて笑っていいのか戸惑っている。


「それを高嶺がー、うちの監督に盛っちゃってさー。逆鱗に触れて半ば罰ゲームで来たって訳だー。まいったなー、ホント」

「お母さんにですか? あっはっは!」


 友希は腹を抱えてのた打ち回るが、練習中にとばっちりを受けた1年生は顔を蒼ざめている。

 相模南女子のみんなも、それを自分達の監督に間違えて盛ってしまったらと思うと、ぞっとする。


 その中でも優雅に、唯一笑顔を浮かべていた高嶺が友希に近寄ってきた。


「……あら、その子が監督の娘さん?」

「そうだぞー。私の可愛い後輩だー」


 霊山も高嶺も背が高く、友希の脇を抱えて、友希の顔と高嶺の顔の高さを同じにする。


「あらホントね。可愛い子だわ」


 そう言うと、高嶺は友希の首筋をそっと撫でた。


「ひゃうっ」


 すべすべの手で優しく撫でられたためか、くすぐったくなって友希は変な声を上げる。

 その様子を見て、真中は呆れた顔で文句を垂れる。


「……顔は綺麗なのに、気持ち悪いわね」

「しっ。雨音ちゃん、相手に聞こえてまうで。ただでさえ、声が大きいんやから」

「ああいう人、同人誌によく出てくるネ!」

「アイリちゃんも静かにせなアカンって!」


 部員たちのざわめきは友希や霊山、そして当人の高嶺の耳にも入る。


「うふふ。皆があたくしの話をしているわ。罪な女ね」

「高嶺は自分に酔いすぎだぞー」


 友希にとって、霊山はともかく高嶺は初めて会う人なため、もしかしたら怒ってるのかも、と勘違いしてすぐに話題を変えた。


「そ、そういえば、詩織先輩たちはお昼ご飯って食べましたか?」

「私たちはまだだぞー」

「じゃあ私たちが練習している間に、昼ごはんにして下さい! 終わったら交代しますので!」

「じゃあそうするかー。よーし一年生たちー、ご飯の時間だぞー」

「「はい!」」



 斡木クラブが昼ご飯を食べている間に、相模南はシートノックを始める。


「経験者は3人しかいないと言っていたのに、みんな上手いなー」

「これは、良い勝負になりそうね。うふふ、あたくし監督って一度やってみたかったの」


 高嶺は霊山に向けて、自慢げにサインを送る様な仕草をする。


「そんなサインあったかー?」

「これはね、『あーん、して食べさせて』のサインよ」

「よくない。よくないぞー、そういうのはー」


 斡木クラブのみんながご飯を食べ終わった後、シートノックを交代する。

 監督の命令で、バッテリーの投山と熊捕以外はそのシートノックを見て学ぶ。


「1年生ですのに、皆さん上手いですわ」

「特にあのマスクを付けたショートの子は、凄いねぇ」


 ショートを一番重要視している、と言っていた友希の母親の言葉通り、最もショートの守備が上手かった。

 本番ではキャプテンの高嶺がショートを守るのだろうが、今ショートでシートノックを受けている子もレギュラー格なのだろう。


 斡木クラブのシートノックが終わったのは試合開始予定時刻の15分前だった。


「申し訳ないのですけどー、こっちで出す審判の人達がまだ来ないのでー、もうちょっと待ってて下さいねー」


 相模南から出す審判は生徒会の二人で、時間に遅刻してくることはまずない。だが、多忙であるという事から早く来てもいなかった。


「じゃあその前に先攻と後攻決めちゃおっかぁ」


 二宮が出ると、監督である高嶺が相対する。


「一年生の中にキャプテンはいないから、あたくしがやるわ。あなた、お名前は何ていうのかしら」

「あたし? あたしは二宮興子って名前だよぉ。えーと、たしかそっちは高嶺……」

「凛よ」

「あぁそうそう。じゃあリンリンだねぇ」


 すぐに他人に仇名を付けたがる二宮は、対戦相手である高嶺も例外ではなかった。


「リンリン……! うふふ、聞いた? リンリンですって。あたくし、こんなに可愛い仇名を付けて貰ったの初めて。ほら詩織、リンリンって呼んで頂戴」

「高嶺にそんな可愛い仇名はもったいないなー」

「ケチね。じゃあ恵美、あたくしのことリンリンって呼びなさい」


 恵美、と呼ばれたのはショートを守るマスクをした1年生の柴谷恵美(しばたにえみ)だった。

 小柄で髪の毛が短く、マスクをしているのも手伝って男の子といわれても不思議には思わない。


「……嫌っす」

「試合に出さないわよ」

「ぐっ。……リンリン、キャプテン?」


 身長差も相まって、どうしても上目遣いになる柴谷を見て高嶺は上機嫌になる。


「んふふ、最高ね。こうなったらあたくしも、あなたに可愛い仇名をプレゼントしないと気が済まないわ」


 にのにの、きょうきょう……。高嶺は思いつくがままに言葉にするがどうしてもしっくりこない。

 審判の生徒会メンバーが校舎から姿を現したところで、高嶺はようやく良い案が浮かんだのか、パンと手を叩いた。


「思いついたわ。みゃーみゃー、なんてどう?」


 二宮の「宮」からとったのだろう。あまりに原型が無いように思えたが、二宮は気に入った。


「いやぁ、こっちも可愛い仇名だねぇ。アイリちゃん、呼んでくれないかなぁ」

「イエス! みゃーみゃー! 猫みたいでとってもキュートネ!」


 一之瀬に振ったら呼んでくれないだろう、と二宮は右京に声をかけ、案の定とでも言うべきか、気持ちいいくらいの大きな声で仇名を呼ぶ。


「……詩織、恵美。いま、あたくしたち負けましたわよ? キャプテンの命令を素直に受け止めた相模南と、否定したあなたたち。先週の立浜女子との練習試合で負けたのも、ここら辺が原因よ」

「よくない。論点をずらすのはよくないぞー」

「キャプテン、早く先攻後攻のじゃんけんして欲しいんすけど」


 じゃんけんの結果、斡木クラブが先攻、相模南が後攻となった。

 審判は、主審が霊山、一塁審が生徒会長の篠原、二塁審が斡木クラブの1年生、三塁審が会計の前橋である。


 午後2時。霊山の掛け声で試合が開始した。


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