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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第四章 練習試合 vs斡木クラブ
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30話 生徒会のみなさん!

 6月半ば。6月と言えば梅雨である。

 例年通りに雨の割合は多く、グラウンドが使えないとなれば屋内で練習するしかない。

 必然的に、練習メニューは制限されていく。


「ほら友希、テルテル坊主なんか作ってる暇があるんなら、素振りでもしなさいよ」

「だってこう雨が続くとさー。雨音ちゃんが雨乞いなんかするからいけないんだよ」

「あれはスワンズの応援なの! 傘を振ってるだけで、別に雨乞いしてるわけじゃないのよ」

「スワンズの応援はなんかカッコいいのだ!」

「浮気しちゃああかんぞ。わしらのレッドスナーパーの応援も十分カッコええじゃろうが」


 野球チームの応援歌談義に、いつもならオーシャンズの応援歌の1つや2つ口ずさむ友希だが、今はただ窓の外の景色を見て溜め息を吐くだけだった。


「なによ。センチメンタルな気分にでも浸ってるわけ?」

「……そう。みずきのお勧め本を読んでたらね……。って違うよ! 雨が嫌なの私は! 晴れがいーのー!」

「あの、僕のトラウマを抉るのは止めて欲しいな」


 小鳥遊は小さな声で訴えたが、誰の耳にも届かない。


「まあ、連日となると嫌だけれど。自分は雨って結構好きよ。名前にも入っているし」

「雨の音が心に響くんじゃ」

「そして胸の奥がキュンとするのだ!」


 小鳥遊のお勧めした本のフレーズを用いて会話するが、当然小鳥遊は気持ちよくない。


「……だから、やめてってば」

「よしよし。ごめんね、みずき」

「友希ちゃんの、ばか」

「でもさー、本当に梅雨って気が滅入るんだよねー。そろそろ晴れるらしいけど」


 まだ太陽は沈んでいないはずなのに、灰色のどんよりとした雲が覆って夜のように暗く、気分も晴れない。


「友希さん達、監督が集合して欲しいと言ってますわ」


 筋トレルームで練習していた一之瀬が、1年生を呼びに来た。


「あれ、ニノ先輩はどこにいるんですか?」


 しかし集合場所に行っても2年生は3人しかおらず、いつも前面にいるはずの二宮がいない。


「ニノは生徒会の仕事がありますので、席を外していますわ」

「……えー、おほん」


 話をしている部員たちの前で、監督は一つ咳払いをする。


「最近雨が続いて気分が落ち込みますねー。そんな気分を払拭するためにあるものを用意しましたよー」

「酒じゃないじゃろうな?」

「確かに気分爽快になりますけどー、さすがに違うのですー。答えはー、『練習試合』なのですー」


 練習試合、という言葉を聞いた瞬間、部員は驚きと喜びの声を上げる。

 合宿の時に紅白戦はしたものの、遊び半分な所はあった。今の自分達の実力が、他の高校やクラブチームと比較してどれくらいなのか、試したいという気持ちは皆持っている。


「で監督! 相手はどこなんですか!?」

「相手はですねー……」





 ガチャリ。

 二宮は呼び出しに応じて生徒会室を訪れる。


「かいちょー、何の用ですかぁ?」

「遅いぞニノ。野球部の練習も大事だろうが、生徒会の仕事をおろそかにして貰っては困る」


 生徒会長の篠原佳奈は、副会長である二宮の机に書類を置いた。

 少し硬質な黒髪に強気な目。整った顔立ち。それは性格にも表れているのか、書類は二宮の机のど真ん中に、一度のずれもなく置かれている。

 野球の練習に忙しく、生徒会室に二宮が入るのは久しぶりだが、怖いほど何も変わっていない。

 自他ともに認める完璧超人を前にすると、流石の二宮も少しだけ萎縮する。


「……じゃあかいちょー、あたしは練習に戻りますねぇ」

「逃がさんぞ」


 会長は、踵を返した二宮の肩をがっちりと掴む。


「これはお前にしか出来ない仕事だ」

「あたしだけ?」

「そうだ。女子甲子園、神奈川県大会の申し込み用の書類だ。すでに鈴木先生のサインは貰っているが、部長のサインもいる。あとサインは規定をちゃんと読んでからにしろよ? お前は仕事が出来るからと言ってすぐ適当にやる癖があるからな」

「……はぁい」


 ペラペラと、頬杖をつきながら書類を読む二宮に、会長は声をかける。


「そう言えば、学校統合の件を部員に話したらしいな」

「そうですけどぉ、駄目でした?」

「いや、駄目ではない。他の生徒に漏れなければ、な」

「それなら大丈夫ですよぉ。たぶん」

「……たぶんは余計だ」


 二宮は書類を読み終え、サインをする。


 県大会は9月の土日に行われる。

 夏休みを挟むとは言え、カレンダーを見ると残り日数が大分少なく思えた。


「締め切りは今月末だ。忘れないうちに郵送しておけよ」

「はぁい。じゃあ、いってきまーす」


 二宮は返却用用紙を封筒に入れ、ジャージのポケットに入れる。


「お前は本当にそういうところが適当だな。……ああ、そう言えば、来週の練習試合の話だが」

「? 練習試合?」

「なんだ、聞いていなかったのか。来週の日曜日に練習試合を組んだと、鈴木先生が言っていたぞ。その審判としてあたしたちも参加することになったからな。お前達には期待している、とりあえずお手並み拝見させてもらうからな」

「かいちょーが? 野球のルール、分かってますかぁ?」

「あたしを誰だと思っている。昨日ルールブックは読んだから大丈夫だ。ま、巴も大丈夫だろう」


 会長が指差した方を見ると、会計の前橋巴が必死にルールブックを暗記していた。


「巴さんもいたんだ。いやぁ、全く気づきませんでしたよぉ。相変わらず、ステルス機能高いですねぇ」


 会計の席に座っていた前橋は二宮の声に顔を上げる。

 いつものことだが、寝不足のように血色が悪い。眼鏡の奥はクマができているのか、少しだけ心配になる。


「お前、私のこと馬鹿にしてないか?」

「してませんてばぁ。にひひ。巴さんもなにかスポーツした方がいいんじゃないですかぁ? 血行良くなりますよぉ」

「余計なお世話だ。事務仕事ならお前より体力はあるってーの。それより部費の件だが、購入品があるなら早く言え。お前が会計の仕事をしてくれるなら話は別だがな」

「はーい、善処しまぁす。あ、そうだ、練習試合の相手チームって分かりますかぁ?」

「えーっと、なんってったっけ? 佳奈憶えてる?」

「斡木クラブだろう? 鈴木先生が高校の時に所属していた」





「……斡木クラブ!?」


 監督の言葉にナインはさらに驚きの声を上げる。


「そうですよー。私も監督一年目ですしー、伝手があるのはそこくらいしかありませんしねー。ちなみに、試合はここでやりますよー」


 そうは言っても、という話だ。

 ここ数年は立浜クラブが覇権を握っているとは言っても、監督が高校時代の頃までは斡木クラブの天下だったし、最近でも決勝の常連ではある。


「いきなり強敵ですね……」


 強敵、と小鳥遊が言うのも無理はない。


「でも、ハマスタに行くには避けては通れぬ道なのですー。まあ、とは言っても練習試合は1年生だけでー、2年生は出てこないらしいですけどねー」

「なんやぁ。びっくりしてもうたわ」


 左門も、他の皆も、斡木クラブの実力については、動画サイトにアップされている春の大会の動画などで知っている。

 自分達を贔屓目に見ても、まだあの実力には到底追いついていないことは理解していた。


「1年生ですけどー、中にはレギュラークラスの選手もいるらしいですよー。それにー、野球の経験年数で言えば、向こうの方が上ですのでー、胸を借りるつもりでいかないといけませんよー」

「……胸を借りるって、なにかエロい言葉ネ!」

「はい、右京さんは素振り100回追加ですー」

「ホワイ!?」


 文句を言いながらも、右京は素振りをすぐさま開始する。

 みんなが練習試合のことについて談笑している中、ふと投山が窓の外を見ると、先程まで止む気配の無かった雨が上がっていた。


「友希が作ったテルテル坊主の効果が出たのだ!」

「やっぱり? えへへー、凄いでしょ! どう、雨音ちゃんも納得した?」

「ただの偶然でしょうが」


 雲から微かに光が差し込んでいる。天気予報では、どうやら雨はしばらく降らないらしい。


「では、明日からは試合に向けた練習を始めますよー。朝練が出来るように、今の内にグラウンド整備だけやっちゃいましょー」

「「はーい」」


 練習試合をやるのだから、汚いグラウンドでは申し訳ない。

 スポンジやかっぱぎを使って、いつもより念入りにグラウンド整備をしていった。


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