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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第一章 仲間集め
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2話 野球部 発足だよ!

 友希がなぜ野球部に入るのか、小鳥遊が疑問に思ったのも無理はない。

 以前、といっても幼稚園の頃の話。

 2人でプロ野球選手になろうと誓い合ったことを思い出す。


 今年発足する部活では、設備や練習の質も高くないだろうということは簡単に予想できた。


「うん。これも何かの運命だと思うんだ! とりあえず明日、部活紹介があるみたいだから、放課後行ってみようよ!」 


 友希は興奮して、小鳥遊の机に手を着きながらピョンピョンと跳ねる。

 それを見て小鳥遊は小さく笑う。


「いいよ。友希ちゃんとまた一緒に野球がやりたいから。僕は友希ちゃんと同じチームに入る」


 疑問には感じたが、小鳥遊は迷うことなく決める。

 それを聞き、友希は小鳥遊に勢いよく抱き着いた。

 

 

 そして入学式の翌日、午前中の半分は部活動および委員会活動の紹介が行われた。


 昨日と同じく、新入生は体育館に集められる。

 淡々と紹介する部活もあれば、ネタに走る部活もある。

 高校の半分は部活動で決まるとも言われ、新入生はそれを真剣な眼差しで見つめていた。


 そして、裏で何の力が働いたのか、最後のトリはまだ発足してすらいない野球部だった。しかも、野球部だけスクリーンが使われるという贅沢な仕様だ。

 壇上に上がったのは昨日の生徒会副会長ともう一人、副会長とは対照的におっとりとした先輩もいる。


『えっとぉ、昨日も説明したけどぉ、今年から野球部を設立しまーす! けど、本気で女子甲子園を狙っているのでぇ、熱い気持ちを持ってくれると嬉しいでーす!』


 副会長はマイクで元気よく伝える。スクリーンでは、去年の女子甲子園のハイライトが映し出された。


 女子甲子園。

 それは、高校の部活に加え、外部のチームさえもまぜこぜの地区大会を勝ち抜いたチームだけが出場できる、女子高校野球の聖地である。

 ただし甲子園とは言うが、実際に開催されるのは、春は甲子園だが秋はハマスタであり、かつプロ野球の開幕前および日本シリーズが終わった3月および10月。


 友希はその言葉を聞いただけで、体が火照ってきた。


 立ちたい。ハマスタの、グラウンドに。

 小鳥遊も、同じ気持ちで映像を見つめる。


 ひとしきり映像が流れ終わると、マイクは副会長からもう一人の女子へと渡された。


『みなさん、野球は道具を揃えるのが大変だと思われるでしょうが、道具は既に用意してありますので、購入の心配はしなくてもよろしいですわ。とにかく、今日の放課後から仮入部期間を設けますので、是非いらしてくださいね』


 優しい声の中に、強い芯がある。そんな性格さえ伝わってくるような、澄み渡った声が体育館に響き渡る。

 友希が中学までやって来たのは軟式野球。しかし高校からは硬式野球になるのだ。そうするとグローブもバットも買い替えなければならない。

 いずれ自分の物を買う必要があるのは確かだが、購入前に体験できるのはとても嬉しいことだ。


 紹介の終了に際し、友希は我先にと壇上の二人に対して拍手を送った。



 そして、部活動および委員会活動の紹介が終わり、教室へと戻る。


「みなさーん、これからー、自己紹介をしてもらいますよー。まー、昼休憩の時間まで適当にー。じゃあ、出席番号1番からお願いしますねー」


 担任の先生の提案で、順々に自己紹介を進めていく。

 ……しかし残念ながら、野球部に入りたいと言う人はおらず、可能性があるのは2~3人くらいか、という感じだった。

 そして友希の前の席にいる、野球のストラップの女子が自己紹介をする番になる。


「自分は真中雨音(まなかあまね)。趣味は野球。以上です」


 教室にざわつきが起きる程、野球のストラップの女子、もとい真中の自己紹介は短かった。

 本人は全く気にしていないのか、机に肘をついて手の甲に顎を乗せている。後ろの友希の自己紹介を聞く気があるのかは、定かではない。


 そして順番が回ってきた友希は勢いよく立ち上がった。


「私の名前は三咲 友希です! 野球が好きで、応援してるチームはスターオーシャンズです! えと、入る部活に迷っている人が居たら、ぜひ一緒に野球部に入ってくれたらと思います! よろしくお願いします!」


 友希は思い切り頭を下げた。真中の紹介と対称的に元気いっぱいだったからか、拍手の音量も大きくなる。友希は恥ずかしそうに後頭部をかいた。

 ただ真中は、拍手することなく、考え事をしているかのように虚空を見つめていた。


「はーい、じゃあ自己紹介も終わったのでー、ちょっと早いけど昼休憩にしますねー。知ってると思いますがー、購買は下駄箱の横にありますのでー」


 担任の鈴木先生は、その小柄な体に似合わない大きな弁当箱を、生徒の誰よりも早く開けて食べ始める。


「友希ちゃん。僕たちも一緒に食べよ?」


 辺りを見渡すと、出席番号が近い人たちが机を合わせて一緒にご飯を食べ始めていた。昼食を食べる時は、仲良くなるチャンスの一つでもある。

 そして友希は、一つ案を考え出した。


「うん! じゃあさ、真中さんも、一緒に食べない?」


 友希がそう言うと、一人で弁当箱を開けようとした真中の背中がピタリと止まった。


「……自分を、野球部に誘おうというわけ?」

「うーん、まあそれが一番うれしいんだけどね。でも野球が好きな人と友達になりたくて、仲良く出来たらなーって!」


 真中は少し考えたように手の動きを止めた。

 友希が不思議そうに首を傾げたところで、反対を向いていた真中が振り返る。


「……まあ、それならいいわ」

「やった! じゃあみずきも机持ってきて!」


 3人で机を合わし、各々の弁当を開ける。


「いただきまーす!」


 ご飯を食べながら、友希は正面にいる真中をまじまじと見つめた。

 羨ましく思うほどにさらさらな黒い髪が、一挙手一投足でなびく。


「真中さんは、野球をやっていたの?」

「ええ。東京で」

「ポジションは?」

「センターよ」


 友希の質問に対し、目線を一切合わせることなく淡々と答える。


「その鞄に付いてるストラップ、もしかしてスワンズのファンなの?」

「そうよ。家が神宮の近くだったから」

「やっぱり! そう言えば、みずきは?」

「僕は愛知にいたからね、自然にダイナソーズファンになったよ」


女子プロ野球の3チーム。

同じスターオーシャンズのファンがいないのが残念だったが、それでも野球の話題を話せる人がいるのは嬉しい。


「そうなんだ! じゃあ、この3人で青色同盟だねー!」


 そう言って、友希は手をパンパンと叩きながら喜んだ。

 それに対し真中は、目線を食べ物からゆっくりと友希の方に向ける。


「自分も質問したいのだけれど」

「いいよ、かもん!」

「アンタの母親って、もしかして元プロ野球選手?」

「うん。よく知ってるね」

「……知らない方がおかしいわ。そうなのね」


 真中は、また視線を弁当の方に落とす。


「……ねえ、真中さんは野球部に入るつもりはないの?」

「ないわ。自分の目標はプロ野球選手になることなの。今年発足の野球部に入っても、メリットなんてないじゃない。自分は勝つための、野球をやりたいの」

「そう……かもしれないけど」

「あなたは良いわよね。プロの伝手があるから。でも自分にはないから」


 素早く昼食を食べ終わった真中は、机の位置を元に戻し、飲み物を買いに行くと言い残して購買へと向かった。


「勧誘、断られちゃったね」

「……だね。でも、私は諦めないよ!」

「ふふっ。とりあえず、仮入部してみてからだね」


 授業はまだないが、午後が終わり、放課後になる。

 仮入部期間という事で、どこの部活も活気があふれている。


 しかし。


「いやぁ、もう少し来てくれると思ったんだけどねぇ」


 野球部の集合場所には、4人しかいない。

 つまり友希と小鳥遊、そして部活紹介で壇上にいた2人だけだ。


 身長が低く、オレンジの髪色で、前髪をあげたおでこがチャームポイントな副会長。

そして、身長が高く、茶髪にウェーブがかかったもう一人の女子。


「来てくれてありがとねぇ。とりあえず自己紹介しよーかねぇ。あたしは二宮興子(にのみやきょうこ)。知ってると思うけどぉ、生徒会副会長だよぉ。そしてこっちは生徒会じゃないんだけどぉ、幼馴染の一之瀬優美(いちのせゆみ)

「ちょっとニノ、自分の紹介くらい、わたくしにやらせてほしいですわ」

「ああ、ごめんごめん、優美」

「まあ、いいですわ。じゃあ次は、新入生2人に紹介してもらいますわね」


 一之瀬が、まず友希の方に自己紹介を促す。


「1‐A、三咲友希です! ポジションはサードをやってました。ハマスタに行くのが小学校の頃からの夢だったので、頑張りたいです!」

「ゆっきーねぇ。うんうん、経験者が来てくれるのはありがたいねぇ。ところでゆっきーは、オーシャンズファンかなぁ?」


 いきなりあだ名をつけられ、戸惑いながら友希は返す。


「あっ、はい。どうして、二宮先輩は分かったんですか?」

「あたし、にのみやって言われるの嫌いだから、ニノ、って呼んでねぇ。まぁ、そんなヘアピンしてたら、もしかしたらって思うわけさぁ。にひひ、昨日もありがとねぇ」

「昨日……? ま、まさか、ニノ先輩って、ラビッツファン……!」


 昨日はオーシャンズとラビッツの3連戦のうち2戦目、そしてオーシャンズの2連敗が決まった。

オーシャンズを応援している友希は負ければ悲しいし、さらに母親の機嫌まで悪くなるからいいことがない。


「にひひ、オーシャンズはお得意様だからねぇ。いつも助かってるよ」


 そう言って、友希の肩をポンポンと叩く。


「ゆ、友希ちゃん、大丈夫?」

「私のことは少し放っておいて、みずき……」


 友希は地面も気にせずに体育座りして、膝を抱えて顔を埋めている。そんな姿を見て、二宮は満面の笑みを浮かべていた。


「えー……。じゃあ僕の番ですね。同じく1‐A、小鳥遊みずきです。ポジションはショートで、応援してるチームはダイナソーズです」

「みずきって言うんだぁ。じゃあ、ずっきーね。いやぁ経験者二人だし嬉しいねぇ。それに、君はとってもイケメンだし」

「……ちょっとニノ、みずきさん、引いてますわよ」

「優美はやきもち焼きだねぇ、にひひ。そうかぁ、ダイナソーズファンかぁ。あんな広い球場で後攻ってずるくない? ずるいよねぇ」

「い、いや、ずるくはないと思いますけど」

「まぁ、去年はしてやられたけど、今年はうちが優勝するから」


 二宮は小鳥遊と比べて身長が低いが、それでも肩を回して脅すように囁いた。


「……みずきさんが怖がってますわよ」


 二宮が後輩を虐め、そして一之瀬が慰める。もしかしてこれって、詐欺の常套手段なんじゃ……。口に出しかけた言葉を友希はごくりと飲み込む。


「ま、冗談冗談。君たちのクラスにぃ、他に野球部に入りそうな人っていない?」

「いなくはないですけど……」


 友希と小鳥遊は顔を合わせ、口ごもりながら答えた。

 昼休みに勧誘を失敗したとは、あまり言いたくない。


「3年生はどうしても無理だし、2年生もほとんど部活に入っちゃってるからぁ、可能性がありそうなのも2人くらいなんだよねぇ。少なくとも、後3人は誘って欲しいんだけど」

「なんとか、頑張ります!」

「にひひ、そう来なくっちゃねぇ」

「とりあえず部員探しは明日以降にするとして、キャッチボールでもしませんこと? わたくしたち二人は、初心者と比べればマシでも、経験者と比べると劣りますから、色々と教えて頂きたいですわ」


 そう言って、一之瀬はみんなに硬式用のグローブを渡した。

 体育の授業で使うような、ぼろぼろでどこのメーカーかもよく分からない、古いグローブ。そして石ころだらけのグラウンド、ユニフォーム等の用具もまだ配達前、部員はたったの4人でまだ監督もいない。

 それでも、空が夕焼けに染まるまで野球の話で盛り上がりながら、キャッチボールを続けた。


 帰途に着いていた真中はふと足を止め、唇を噛みしめながら4人しかいない野球部の活動を眺めていた。

人物紹介③

二宮 興子 (にのみや きょうこ)

相模南女子高等学校 2年C組

??番セカンド 右投げ右打ち

152㎝ 44Kg 髪色:茶

出身:神奈川

好きな球団:ラビッツ

好きなこと:目立つこと


人物紹介④

一之瀬 優美 (いちのせ ゆみ)

相模南女子高等学校 2年C組

??番ファースト 左投げ左打ち

168㎝ 62Kg 髪色:オレンジ

出身:神奈川

好きな球団:ラビッツ

好きなこと:食事


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