27話 GW合宿 お化け屋敷……その2
大人の凄みとでもいうのか。演技のはずなのに、本気で殺されると2人はどこかで思った。
そこで、二宮は部屋の明かりをつける。
「いやぁ、楽しかったぁ。やっぱお化け屋敷はこうじゃなくちゃねぇ」
腰を抜かした2人は、床に座り込んでいる。
「や、やっぱり嘘だったじゃないですか! 少なくとも来週までにオーシャンズのレギュラーの応援歌までは憶えて貰いますから! スターオーシャンズ~、勝利の煌めき信じて~♪」
「言ったじゃん。『あたしは』脅かさないよ、って」
「くっ……!」
「いやー、やっぱり脅かす方が楽しいですねー」
「もう僕は誰も信じない」
扉を開けると、スマートフォンが机の上に置いてあった。
これで録音した音声を流して、監督が扉の外に居ると錯覚させていたのだろう。録音かどうかくらい分かってもおかしくないのだが、どうやら精神がそれほど参っていたらしい。
スマートフォンを叩き壊してやろうかとも少し頭を過ぎったが諦め、2人は重い足取りで待機室へと戻る。
「はぁい、じゃあネタバレはしないようにねぇ。じゃあ次は、サタンちゃんともみちゃん」
「よ、よし、覚悟を決めたのだ!」
「おお、その意気じゃけえ」
しかし、お化け屋敷に近づくにつれて投山の足取りは遅くなっていく。
そして案内の二宮と別れた瞬間、完全に止まった。
「なんじゃ、大魔王だのサタンだの言っておったのに、お化け屋敷が怖いとはのう」
「それは関係ないのだ! ゆ、幽霊はどんな攻撃も通じないのだぞ!」
「ほう、大魔王が恐れるのが幽霊とはのう。くくっ、これは面白いもんじゃな」
「そ、そういう紅葉だって、部屋に小さな虫が出ただけで、泣きそうな顔をして我の部屋に逃げてきたのだ!」
「なー! それは言わない約束じゃろうが!」
「別に、誰かに漏らしたわけではないのだ」
「……分かった。ほ、ほら、手を繋いでやるけえ、中に入るぞ」
「うう……仕方ないぞ」
その頃、待機室では。
友希と小鳥遊はパイプ椅子に腰かけ項垂れている。
「そんなに怖いの? 一体何があった訳?」
「……それは僕の口からは言えないよ。ネタバレになるからね」
小鳥遊は座った眼つきで真中に返す。
その目を見て、真中は余計に不安になる。
「あー! 2回もあんなところ、行きたくないよー!」
「別にいいじゃない、2回目ならそんな怖くないでしょ? 楽しめそうで羨ましいわ」
「何言ってるのさ! じゃあ雨音ちゃん、一人で行く?」
「嫌よ! 付いて来てくれなかったら怒るわよ」
「うーん、雨音ちゃんって怒っても怖くなさそうだしなー」
「はぁ? 今までは本気で怒ったことがないだけだから!」
その瞬間、熊捕と投山の悲鳴が待機室の方まで響いてくる。
友希と小鳥遊はトラウマが掘り起こされたかのように、そして真中は未知の恐怖に対して冷や汗を掻く。
「悲鳴はあと3回だね……」
「他人の悲鳴すら聞きたくないよー」
15分ほど、耳を塞ぐようにしていた3人がいる部屋に、熊捕と投山が戻ってくる。
熊捕はまだしも、投山に至っては目に涙を浮かべていた。
「な、中々クオリティが高いお化け屋敷じゃったのう……」
「もう嫌なのだ、夢に出てくるぞ……」
友希や小鳥遊と同様に、意気消沈した顔で戻ってくる。
「はぁい、じゃあ最後はゆっきーとあまちゃんペアねぇ」
二宮の呼び出しに応じて、友希と真中は待機室から出てお化け屋敷へと向かう。
真中の怯え方は友希の想像以上で、入口の扉を開けただけで小さな悲鳴をあげた。
「ちょ、ちょっと! もう少し、静かに開けなさいよ!」
「え? ああ、ごめんね」
しかし、当然と言えば当然である。
前の2ペアがあげた悲鳴に不安は募り、真中は全ての事に対し疑心暗鬼になっている。逆の立場なら、友希もそうであっただろう。
だが。友希は2回目と言うこともあり、怖いには怖いが先程よりはまだ冷静である。
そして、冷静な状況の中、とてつもなく怖がっている他人を見ると。
意外に、面白い。
右京、左門、一之瀬の場所で、真中は立て続けに悲鳴をあげていく。
「友希! 友希ー! もう嫌よ、帰るわよ!」
「あ、初めて下の名前だけで呼んでくれたね!」
「そんなことは今どうでもいいのよ! なんでアンタはそんなに余裕なわけ!?」
「何でって言われても……。あ、雨音ちゃん、泣かないって決意したとか言ってたのに、涙目になってるよ?」
「まだ泣いてないから! 泣くの意味も違うし! そ、それに、別に怖くはないわ。びっくりしただけ、そう、驚いただけよ」
「うんうん、そうだよね。でも怖くなったら、私の腕をぎゅってしてもいいんだよ?」
「アンタ、自分が言った通り、ちゃっかり楽しんでるんじゃない!」
次は二宮と監督の持ち場だった。
私も一緒に脅かしてみようかな、なんて考えていた友希だったが。
さっきとは様子が違う。
出口のところに懐中電灯を照らしてみると。
監督が俯せで倒れている。
「か、監督?」
2人が近づいてみると、監督は頭から赤褐色の液体を大量に流していた。
「こ、これも演出な訳!?」
「違うよ、さっきとは……」
だが、友希はここで頭を働かせる。2回目の自分がいるから、演出を変えたんじゃないかと。
しかしそれはすぐに違うんだと思い直した。
友希と真中の横に、何か液体の落ちる音がする。
その落ちてきた方向を見上げると。
……二宮が、首を吊っていた。
監督と同様に、後頭部から赤褐色の液体を流し、それがつま先からポタポタと落ちている。
「な、なによこれ……」
「う、嘘だよ、こんなの……」
その時だった。
出口の外から、足音が聞こえる。
そして足音と一緒に、金属バットを引きずるような、重い金属音が響く。
それは、ゆっくり、ゆっくりと、友希たちの方へ近づいてくる。
「い、嫌ぁ。友希、こんなの嫌よ……」
「な、なんでこんな……だ、誰か」
叫び声を上げようとするが、声からは枯れた声しか出てこない。
そしてついに、出口の扉が静かに開く。
そこに立っていたのは、野球部員の中で一番背の高い一之瀬よりも高身長の、肩幅が広い……男だった。
帽子にサングラス、マスクを付け、右手には赤褐色の液体に塗れてぼこぼこに凹んだ金属バットを携えている。
「い、や……やだ……」
真中は、腰を抜かして床に座り込んだ。
男が金属バットを振りかぶった瞬間、友希は真中に覆いかぶさるように倒れ込む。
目をつぶって真中を抱きしめながら、友希は逃げ出したい自分の足をぐっと押さえた。
……が、何時まで経っても金属バットは振り下ろされない。
「……いや、僕には流石に無理だよ、これ以上は」
パッ、と部屋の電気がつく。
「これからが面白い所でしたのにー」
「まぁ仕方ないねぇ。じゃあせーの!」
「「「ドッキリ、大成功!」」」
帽子とサングラス、マスクを外した男は二宮の父親で、監督も頭をタオルで拭きながら立ち上がり、首を吊っていたはずの二宮もいつの間にか床へ降りていた。
「な、何で……。首を吊ってたんじゃ……?」
「ああ、これぇ? 首を吊ってたんじゃなくて、縛ってたのは胴体だよぉ。まあ縄が食い込むのがちょっと痛かったけどねぇ」
「……」
もう、これ以上友希と真中は言葉を発せなかった。
「じゃああたしたちは風呂でメイクを落としてくるからねぇ。光がないから写真とかはとれなかったけど、録音してるから楽しみにしててねぇ」
「人を驚かせるのって、すっごい楽しいネ!」
「優美ちゃんは、眼鏡割らせるタイミングほんま良かったなあ。小さい隙間からやったのに」
「でも、わたくしの持ち場より緊張しましたわ。それに敦子さんこそ、あの豹変の仕方、女優になれますわよ」
じゃあねー、と言って、2年生は楽しそうに風呂場へ向かっていく。
友希と真中は、ただ呆然とそれを見送っていくだけだった。
「……あの、さっきは、ありがと」
「え? なにが?」
「逃げれない自分を、庇ってくれて」
「や、やだなー! ただのドッキリだったじゃん!」
「……それでも、嬉しかったわ。自分も、もっと精進しないと駄目ね」
明日も練習で朝が早い。
早めに布団に入った1年生の5人だったが。
「……精進するって言ってなかったっけ?」
「精進するには時間がかかるのよ。そ、それに、怖かったら腕をギュッとしていいって、言ったじゃない」
「ねぇ友希ちゃん、狭いんだったらもっと僕の方に寄ってもいいんだよ?」
「いや、狭さはどっちも変わらないんだけど」
「……桜、少し引っ付きすぎじゃ。こんなんじゃ、わしも寝れん」
「こ、怖いから仕方ないのだ!」
監督からは、お詫びに明日サプライズをすると言われたのだが。
朝早い練習が待っているのに、寝不足となる5人だった。




