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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第三章 GW合宿!
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26話 GW合宿 お化け屋敷……その1

「す、すごい雰囲気あるね……」


 部屋の温度は少しヒンヤリとしており、なにやら薬品の様な異臭もする。

 当然真っ暗で、懐中電灯をつけないと何も見えない。


「あっ、あれ!」


 友希が懐中電灯で照らされた先を指差す。

 するとそこには、人間の手足や内臓のようなものが、赤褐色の液体に塗れながら配置されていた。


「うっ……。すっごい精巧に作られてる」


 嫌悪感を示しながらも、小鳥遊は怖いもの見たさで近づいていく。


「これは……」


 そして、近くには古い新聞が置かれていた。

 日付は昭和で、古びた紙質の新聞紙。見出しには連続バラバラ遺体発見との文字が大々的に書かれている。


「あっ……」


 何かを察したように、2人は絶句する。

 早くこの場を立ち去ろう。そう思った2人だったが、足を踏み出した瞬間に大きな物音がした。


「なに? なに?」


 音がした方に懐中電灯を向けると、そこには血まみれの金髪の生首が、ギシギシと音を立てながら2人の方に顔を向けようとした。

 そして、目が合う。

 ……と思ったが、生首には目があるはずのところが真っ黒に塗り潰されていた。


「え……あぁ……」

「ミツケタ……ワタシノカラダ……」


 実際は何て事の無い、血まみれメイクと大きめの黒いカラーコンタクトをした右京が、箱から顔を出しているだけだ。何故か、養成ギプスを身に付けて。

 だが、そんなことにまで2人は気が回らない。


「カエセ……カエセ……」


 金髪の髪を血の色に染めて、右京は段々と声を荒げていく。

 そして。


「カエセエエエエエエェェェェ!」


 大きく叫んだかと思うと、置物だと思っていたバラバラの体が友希と小鳥遊に向かって襲い掛かった。


「「いやあああああああああああああああ!」」


 2人は走ってその場から逃げていく。



「……いま、凄い叫び声がしたのだ」

「そんなに怖いもんがあるんじゃろうか」

「まぁ、2人ともあまり得意そうじゃなかったものね」

「そんなこと言っとる雨音こそ、足が震えとるぞ」

「はぁ? これは武者震いってやつだから!」

「……どっちにしろじゃろ」



 右京の持ち場は脱したが、2人は肩で息をしている。


「ごめん、私もう無理かも……。心臓止まりそう」

「だ、大丈夫だよ。あれはきっと糸とかで吊ってるだけだから。……たぶん」


 戦々恐々としながら、それでも2人は歩を進める。

 すると、前方に左門がうずくまっているのが見えた。

 身構える2人だったが、別にメイクをしてるわけでもなく、いつものように温和な顔で2人を迎える。


「ああ、友希ちゃんとみずきちゃんや。すまんなあ、色々と用意しとったんやけど、ちょっと眼鏡を落としてしもうたみたいで。眼鏡ないと何も見えへんねん」

「なんだぁ。眼鏡探してる姿を見ただけで怖かったですよ」

「皆をちゃんと驚かせと言われとったんやけどなぁ。ニノちゃんには内緒にしといてな」


 3人で眼鏡を探すが、なかなか見つからない。

 足元は暗いだけでなく、色々な物が配置されているためか、一度部屋の電気を点けないと駄目かもしれない。

 友希がそう思った直後だった。


 バキッ! と不穏な音が友希の靴裏から響く。


「あ」

「……うちの、眼鏡や……」


 見るも無残な眼鏡の残骸が、友希の手によって拾い上げられる。


「あ、あの、ちゃんと弁償しますから!」

「……でもそれ、お婆ちゃんの形見なんや」

「ええっ!」


 狼狽える友希だったが、次第に左門の様子がおかしくなっていく。


「い、痛い……頭が、頭が……!」

「だ、大丈夫ですか!?」


 小鳥遊が肩を支え、友希が顔を覗き込む。

 だが、左門は頭を抱えたまま、うめき続ける。


「みんなを呼ばないと!」


 友希が大声を出そうとした瞬間、左門の呻き声は止み、力が抜けたように腕がだらんと垂れる。


「敦子先輩!?」

「……ふふ、ふふふふ……あはははははは!」


 いつものゆったりとした口調とは打って変わって、腹の底から響くような低音の笑い声が響いていく。

 突然のことに身動きが出来なかった友希と小鳥遊の首を、左門の手が掴む。


「やっと……出れた」


 顔を上げた左門の顔は、面を被っているのかそれともメイクなのか、鬼とも妖怪とも取れる、歪で悪意に満ちた表情をしていた。


「うわああああああああ!」

「もうやだああああああ!」


 そしてまた、逃げるように走って左門の持ち場を去って行く。



「……また悲鳴が聞こえたのう。って桜、青ざめすぎじゃろう」

「……」

「聞こえとらんのか。雨音も何か言って……ってお主もか」

「自分は大丈夫、自分は大丈夫、自分は大丈夫」

「先が思いやられるのう」



 左門の次には一之瀬がいた。

 一之瀬もにこやかに2人を迎え入れたが、左門の事があってか一之瀬の事を警戒する。


「ここではお祓いをしますわ。拒否しても先には進めませんので、観念してここに座って下さいね」


 お経の様な暗い音楽に、数珠やお札など、おどろおどろしいアイテムがそこらじゅうに転がっている。

 あからさまに嫌な顔をしながらも、先に進めないと言われては仕方が無い。

 一之瀬にいわれるがまま、葬式の際に使うような座布団の上に座る。


「では正座して。精神トレーニングだと思って、目をつぶり、動いてはいけませんわ」


 嫌な予感を抱きながらも、2人は目をつぶる。

 練習による筋肉の痛みが小鳥遊の足に走り、少し体勢を崩すと。


「いけませんわ、みずきさん」

「いてっ!」


 小鳥遊の左肩が警策と呼ばれる棒でたたかれる。


「これって、今までとは何か主旨が違うような……いたっ!」

「喋ってもいけませんわ、友希さん」


 2人は口を閉ざし、身体が動かないように耐える。

 しかし、5分経ってもお経が流れているばかりで、何の音沙汰もない。

 目を開けるとまた肩を叩かれると思ったが、ばれないように小鳥遊はうっすらと目を開ける。


 すると。

 目の前にはジェイソンの面を被った一之瀬が、血まみれの牛刀を振りかぶっていた。

 そしていつの間にか、右京の持ち場にあったバラバラ死体がそこらじゅうに転がっている。


「わああああああああ!」


 小鳥遊の叫び声に目を開けた友希も、同様に悲鳴をあげる。


「いやあああああああ!」


 正座で痺れていた足に鞭を打ち、何とかその場を脱する。


「はぁはぁ。もうやだよー、みずきー!」

「僕ももう帰りたい。友希ちゃんと一緒だからまだ大丈夫だけど」


 友希は小鳥遊の腰を抱きしめながら、恐る恐る進んでいく。


「お化け屋敷に何であんなストーリーがあるの? 優美先輩のやつって、絶対最初の殺人犯じゃん!」

「確かに……和風からいきなり洋風に変わってたけど」

「そういえば、敦子先輩の眼鏡、冷静になった今だから分かるけど、あれ絶対百均の伊達眼鏡だったよ。レンズのところプラスチックっぽかったもん」

「友希ちゃん、その時気付いて……」


 そして最後には、二宮が待っている。


「いやぁ、お疲れさん。このお化け屋敷はここが出口だよぉ」

「もう騙されませんよ! 次は何で脅かしてくるんですか!」

「やだなぁ。あたしはそんなことしないよぉ」

「絶対嘘だ。僕には分かるよ」


 2人は訝しげな眼で二宮を見る。


「嘘じゃないってぇ。何か賭けてもいいよぉ」

「じゃあ嘘ついたら、ラビッツのファンを辞めてオーシャンズのファンになって下さい!」

「別にいいよぉ。……あれ、開かない」


 二宮は出口の扉に手を掛けたが、外側で何かが引っかかっているのか、どんなに力を入れても開きそうにない。


「ほら、ほら! やっぱり嘘だった! ニノ先輩も今日からオーシャンズファン!」

「本当に違うってぇ……。ん?」


 すると外から、人の声がする。


「……みなさん、私に内緒で楽しそうなことやってるみたいですねー」

「あ、鈴センセかぁ。いやぁ、でも麻雀やるって言ってたじゃないですかぁ」

「でも内緒にされるのは、嫌いなのですー。おしおきですよー」

「こ、ここに閉じ込めるのがですか!? 私たちもレクリエーションとだけで、何も聞かされてなかったんですよ!」

「ゆっきー、裏切りはずるいよぉ」


 しかし友希の言い訳も通じず、監督の機嫌は悪くなっていく。


「おしおきはそうですねー。比喩じゃなく、血反吐を吐かせるような練習にしましょうかねー」

「勘弁してください!」


 必死に訴える2人だったが、扉の向こうからの反応はない。

 そして。


「嫌なら、殺してあげますねー」


 肩をポンと叩かれ後ろを振り返ると、扉の向こうにいるはずの監督が、還り血まみれの姿で、包丁を握りしめて立っていた。

 

「うわああああああああん!」

「いやあああああああああ!」


 2人はもう、走る体力や気力を失っていた。

 

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