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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第三章 GW合宿!
23/150

22話 GW合宿、開始!

「セーフなのだ!」


 時間ぎりぎりに、投山が走って集合場所の部室前に滑り込む。


「じゃから一緒に来ればよかったんじゃ……。それに一体なんじゃ、その大荷物は」


 野球道具は全て部室に置いてあり、合宿先にはアニメティが充実している。

 持ち物はそこまで多くないはずだが、投山はバッグを三つ、背中と両腕にぶら下げていた。


「ふっふっふ! 開けてみてからのお楽しみなのだ!」

「ほうか。じゃったら、いま開けてみるか」

「駄目なのだ! これは向こうに着いてからなのだ!」

「それはええが、部室から校門前のバスまで、野球道具と一緒に運べるんか?」

「……それは根性だぞ!」


 一瞬暗い顔をしたが、投山は元気を取り直し、荷物を背負いなおす。


「はーい、ではバスに乗る前にー、今回の合宿に帯同してくれる人たちを紹介しますよー」


 一之瀬の両親と、二宮の両親、そして一之瀬の父親が経営している会社の女性社員が何人か帯同している。


「本当にありがとうございますー。こんなに安い値段で合宿に行けるなんてー」

「いえいえ、ご飯を作ると言っても僕たちは付いて行くだけですし。ちょうど旅行に行きたいと思ってたんで」

「ええ、私も麻雀がしたくてね。雀荘でするより、やっぱりあそこの方が良いんですよ」

「……まー、じゃん……」


 その言葉に鈴木監督は反応する。

 大学時代によくやった麻雀、久しぶりに嗜みたいと思ったが口には出せなかった。

 

 麻雀は4人でやるもの。

 すでに人数は足りている中、5人目が手を挙げれば崩壊し、1人余りものが出てくるのは必須。

 合宿所を借りている立場の鈴木監督が言い出せるはずもなかった。

 だがそこに、一筋の光が差し延べられる。


「監督……。やりませんか、私たちと一緒に……!」

「見逃しませんでしたよ……! 『麻雀』という単語への反応……!」

「ちょうど、というか、これはもう奇跡……! 私たちも3人だけ……。これはもう、やるしかないでしょう……!」

「く、黒服のみなさんー」


 どうやら帯同した社員も麻雀をするらしく、鈴木監督に助け舟を出す。

 それに対し、監督は涙目になりながら感謝を述べた。


「麻雀やるのはいいけどさぁ、賭け麻雀とかやっちゃ駄目だからねぇ?」

「大丈夫ですよー。賭けるのはプライドだけなのですー。それを数値化したものが必要ですけどねー」

「……それは点数棒でよろしいのではなくて?」


 そうこうしているうちに時間を迎え、バスは出発する。

 ワイワイ、ガヤガヤと、お喋りをしたりトランプをしたり、携帯のゲームで遊んだり。

 高速道路を使った2時間半は、あっという間に過ぎていく。


 目的地のセミナーハウスに着いたころには、太陽が真上に上っていた。


「はいー。ではですねー、お昼ご飯の前にー、セミナーハウスの使い方を説明しますから、よく聞いてくださいねー」


 風呂・食堂・グラウンドの場所、寝具の扱い方やごみの分別など、30分程度の説明が終わり、お昼ご飯を迎える。


「はい、お昼ご飯はカレーライスよ。おかわりもあるから、たくさん食べてね」


 二宮の両親は家から完成したカレーの鍋を持って来たのか、たった30分の間でカレーライスを提供してみせた。


「ではご飯の前にー、今は12時ですけどー、練習は1時から始めるのでー、さっき説明したグラウンドに、着替えて集合してくださいねー。ではみなさんー、お手を合わせてー」

「「いただきまーす!」」


 まだ練習もしていないが、合宿と言えばカレーライス。

 それも店舗を構える料理人のものともなれば美味しさもひとしおだ。


 右京と一之瀬が速攻でおかわりしたかと思うと、友希と真中、投山もそれに続く。

 そして。


「ごめんねー、優美ちゃん。4杯目は流石にね。他の人がおかわりできなくなっちゃうから」


 見渡してみれば、小鳥遊がようやく1杯目を食べ終わり、左門や黒服の社員に至っては、まだ1杯目の途中である。


「う……。しかた、ありませんわね。ご馳走様、ですわ……」

「うーん、しかたないですねー」


 そして、右京と繰り広げたデットヒートを制した監督も、空の皿を持ちながら一之瀬の後ろで残念そうに項垂れる。


「あの小さい体のどこに入っていくわけ……?」

「僕にも分けて欲しいな、あの胃袋」


 ご馳走様をして、30分の休憩に入る。

 流石に多くの量を食べた後に運動するわけにもいかないので、皆それぞれの部屋に戻った。説明の時に渡された鍵を持ち、一年組と二年組でそれぞれ分かれる。


「……で、その鞄の中身は一体なんなんじゃ?」

「ふっふっふ、見たいか! 紅葉はせっかちさんなのだ」

「そげなこと言われると、みる気が失せるのう」

「冗談なのだ! よいか、開けるぞ!」


 もったいぶって鞄のチャックを開いた中には……。


「こ、これは……」


 そこには、たくさんの果物が詰められていた。

 1つの鞄は着替えなどの日用品、もう1つは遊び道具、そして、様々な種類が入れられている果物。


「これは我の親や下の兄弟が収穫したものなのだ! 夕ご飯の後に、皆に振舞うのだ!」

「凄い量だね……。と言っても、みんなで食べればすぐに無くなっちゃうかな? それより、桜ちゃんは兄弟いたんだね」

「7つ下の妹と、9つ下に弟がいるのだ。小学校が廃校になるから、違う学校に転校して野球を始めると言っていたぞ! 弟は無理だけど、妹の方は相模南に行くと言ってるのだ!」

「へー、写真とかないの? 僕も弟はいるけど、他人の兄弟って興味あるな」


 みんなで携帯を覗き込んでいる中、友希の心がズキンと痛む。

 まだ、相模南も廃校になるかもしれないということを誰も知らない。

 知りたいとは言ったけれど、1人だけ知るというのはこんなにも辛いとは思わなかった。


 二宮は合宿で伝えると言っていたが、いつ伝えるのだろうか。

 遅くなれば遅くなるほど、伝え辛くなる。いっそのこと自分で言ってしまおうかという考えが今まで何回か頭を過ぎったが、言葉も見つからない。

 だが、この投山の話を聞いた後では、言いたくないという思いも強い。

 


 時計の針は進み、もうすぐ1時になる。

 慌てて着替えて、野球道具を持ってグラウンドへ駆けていく。

 監督と2年生は既に集合していたが、右京と左門の顔色が悪かった。監督と一之瀬、二宮も目つきが鋭く、真剣な面持ちをしている。


 1年生の中で、友希だけ理解した。

 今か、と。

 よりによって、あんな話をした後でなんて、と思う。


「なに? いつになく雰囲気が暗いわね」

「まぁねぇ。言うか言わないか、言うならいつ言うか、どんな風に話すべきか迷ったんだけどねぇ。今、言おうと思って」


 そこから先は、友希が以前聞いた話と同じだった。

 ただ唯一、違うことがあった。


「あたしも、優美もねぇ。学校も野球も好きなんだよぉ。そして、みんなのことも。だからさぁ、来年はもちろん、再来年もOGとして試合や練習を見に来たいんだよぉ。あたしの我が儘だけどさぁ、叶えてくれるかな?」


 1年の反応は様々だった。

 信じられないとも言いたげに目を開く小鳥遊。ただ眉を少し顰めただけの真中。唇を噛みしめ、なんとか受け止めようとする熊捕。

 そして、一番取り乱したのが投山だった。


「そ、それは本当なのだ……? 嘘って、嘘って言って欲しいのだ! いつもみたく、冗談だよぉって! 言って、言って……欲しいぞ……」


 廃校という悲劇を一度味わってるからこそ、投山は信じたくなかった。もう2度と、同じ気持ちを味わいたくない。

 熊捕は、二宮の方を向きながらポケットティッシュを投山の方に差し出した。


 投山の方を見ずに、いや、見られなかった。

 ポケットティッシュが、わなわなと震えている。


「残念ですけれど、これは本当のことですわ」

「知ってたんは、優美さんとニノさん、あと監督も、ですかいのう?」

「……ええ、知ってましたよー。でもこれだけは言わせてもらいますー。廃校は、去年の時点で確定されたものだったのですー。でも、ニノさんがそれに待ったをかけてくれたのですよー。ハマスタに行けば1年先延ばしだけじゃなくてー、受験者数が増えるのはほぼ確実なのですー。負けたら廃校、ではなくてー、勝てば続けられると言うのが正しいのですー。心の持ちようの話ですけどねー」


 それでも、投山と熊捕は釈然としなかった。

 当然と言えば、当然だ。

 2人は1人暮らしをしているが、それは女子高だから特別に許可されていることであって、統合して共学になれば転校しなければならなくなる。

 特に熊捕は、広島に帰らなくてはならないことになるかもしれない。


 みんなの顔の角度が、いつもより下を向いている。

 ムードは最悪だった。まだ、合宿は始まってもいないのに。


 そこで友希は、昨日の話を思い出す。

 これが、今この状況こそが、逆境なのだと。

 それこそ、今の皆の顔は逆境時にバッターボックスへ向かう友希の表情に似ていた。


 考え方を変えたからと言って、そうそう簡単に逆境を克服できるとは思っていない。

 でも今は、速くて、キレのあるボールが来ているわけではない。大会が始まったわけでもない。焦るほど短い時間ではないのだから。


「……私は、優勝したい! 初出場で、廃校っていう背水の陣で勝てたら、こんなに嬉しいことないよ! 凄く不謹慎かもしれないけど、私はきっと待ってたんだ。こんな風に、劇的な勝利が出来る状況を」

「三咲、友希……」


 驚いた風に真中が友希の顔を見る。

 当然、事前に廃校の話を知っていたからと言うこともある。

 だけどそれを加味していたとしても、真中は驚いただろう。

 昨日までの友希なら、きっと沈んで一言も話さなかっただろうから。


「ミーも、ユキの言葉に目が覚めたネ! ミーの好きな漫画の主人公も、こういう時に強くなれるのデス!」


 皆の顔に精気が戻りつつあった。

 空元気だったとしても、それも通せば本当の元気になるのだと、右京は知っていた。


「うん、うん……。みんな、ありがとうねぇ。あたし、ハマスタに出れる確率はすっごい低いと思ってたけどさぁ、力を合わせれば、行ける気がしてきたよぉ」

「そうですわね……。で、監督はデジカメを構えて何をしてるんですの?」


 いつの間にかデジカメで録画を開始している。


「ハマスタに出場が決まれば、テレビで学校紹介のコーナーがあるのですー。そこでこの動画を送れば、反響間違いないのですよー」

「その声も動画に入っとると思うんやけど、大丈夫やろか」

「……とにもかくにも、練習ですね」


 小鳥遊が帽子を被る。それを皮切りに、皆手に持っていた帽子を被った。

 帽子を被っただけなのに、デジカメの中の野球部全員の顔つきが、少し大人びたように映った。


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