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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第二章 特訓!
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18話 野球部創立秘話?

 いつものように部活を終え、帰路につく。

 自転車通学にした友希は、小鳥遊と一緒に自宅の直前まで来たのだが、その時に何か重大なことを忘れている気がし始めた。


「友希ちゃんどうしたの?」

「いや、なんか嫌な予感が……ああ、やっぱり!」


 自転車を降りて籠に入っていた鞄の中を探っている友希だったが、諦めたような声で悲鳴をあげる。


「明日までの宿題、学校に忘れたかも」

「え、どうしよう。僕もう終わって学校においてあるから見せてあげること出来ないし……」

「まあそこまで遠いわけじゃないしさ。ちょっと戻って取ってくるよ。じゃあね!」

「気を付けてね」


 友希は小鳥遊にそう告げると、先程よりも速いペースで自転車をこいでいく。


 学校に着くと、校門はまだ開いていたが日は完全に暮れており暗闇だった。

 教室ではなく部室に忘れただろうと踏んでいた友希は、グラウンドを横切る形で部室に向かう。

 すると、野球部の練習スペースから音と光が漏れていることに気が付いた。


「……誰かいるのかな?」


 友希が光の方へ近づいていくと、そこには、居残りで練習している一之瀬と二宮の姿があった。


「あれぇ、ゆっきー、戻ってきちゃった?」


 一之瀬と二宮も友希に気が付き、練習を中断して集まる。


「こんな時間まで、大丈夫なんですか?」

「まあねぇ。監督にも許可は取ってるよぉ。あと1時間だけだけど」


 二宮は肩を強くするのと送球を早くするためか壁当てと筋トレを、一之瀬は以前友希が言ったハーフバウンドを捕る練習をピッチングマシンを使ってやっている。


「このピッチングマシン、すごくいいですわね。ボールをセットすれば15球は勝手に出してくれますもの。一人でも練習できますわ」


 2人は笑いながら言っているが、身体はそうでもなかった。

 二宮の指先にはマメが潰れて血が滲んでいるし、一之瀬もキャッチャー防具を身に付けているとは言え顔に小さな擦り傷が出来ている。服で隠れてはいるが、身体に幾つもの痣ができていた。


「こんなになるまで……」


 友希は、二の句が継げなかった。

 2人が野球を好きだという事は知っている。ハマスタに行きたいということも知っている。


 でも、どうしてこんなになるまで練習を続けるのだろうか。

 少しだけ、腑に落ちなかった。


「そういえばさぁ、ゆっきーには、雨ちゃんが入部したら野球部を創部した理由を教えるって話、してたよねぇ」


 そこで友希は思い出す。

 二人だけでマウンド作りやグラウンド整備をしてたことを。

 一度は業者にやってもらったと嘘をついてまで。


「ニノ、それ言いますの?」

「まあねぇ、約束だから。でもゆっきー、聞かない方が良かったと後悔するかもしれないけどぉ、どうする?」


 いつもはおちゃらけていた二宮の顔つきが、引き締まったように見えた。

 友希は即答する。


「聞きます」

「……そうだなぁ。どこから話せばいいかなぁ。まぁ、単刀直入に言うとねぇ」


 二宮は少し間をおいて、寂しげな表情で答えた。


「あたしたちがハマスタに行かないとねぇ、この学校、無くなっちゃうんだよねぇ」


 二宮はそう言うと、夜の校舎の方を向いた。


「学校がなくなるって、どういう事ですか!?」

「……廃校、ということですわ」


 一之瀬も校舎を見る。つられて、友希も同じ方向に顔をやった。

 昼ではあんなに活気があったのに、夜に見ると、まるでもう廃校となってしまったかのような哀愁が漂っている。


「な、なんで、廃校になるんですか」

「……ゆっきーはさ、この高校を受験した時の倍率、憶えてる?」

「確か、1.1倍だったと思いますけど」

「あたしたちの時は、1.2倍だった。ここ10年、結構なペースで受験者数が落ち込んでるんだよねぇ。試算では最悪で、2年後には定員割れするんだって。それで2年後、つまりあたし達が卒業するところで廃校になることが決定したんだよ。まぁ廃校と言ってもぉ、オーナーが経営してる別の高校に吸収される形になるんだけど」

「……」


 友希は、開いた口が塞がらなかった。


 信じられない。

 急に廃校と言われても。


「嫌です。まだ1ヶ月しかいないけど、私はこの学校、好きなのに……」

「あたしも優美も、この学校は好きだよ。でもねぇ、知ってる? この学校に来る人って、9割がOGの娘か、徒歩30分圏内の子しかいないんだよ」


 思い返してみれば、そうだった。電車通学の人を、ほとんど知らない。

 母親がここのOGという人があまりに多い。


「いい学校、だと思うんだけどねぇ。でもそれは、入学しないと分かんないからさぁ。少子化とか、公立主義とか、色々原因はあるんだけどねぇ」

「それで、どうして、ハマスタが関係してくるんですか?」

「……先生達も、生徒会もさぁ、努力はしてるんだよ。動画サイトに動画をアップしたり、中学校を訪問したり。でも再生数は伸びないし、反響もない。この学校って、特徴があんまりないからさぁ。公立ならいいんだろうけど、学費のかさむ私立じゃあねぇ。……でねぇ、今年、50周年なんだよぉ、女子甲子園」


 友希は、ようやく合点がいった。

 原因は、受験者数が少ない事。ハマスタに行ければなぜ廃校が撤回されるのか。


「50周年の今年、ハマスタに行けば全国のテレビで中継される。そうすれば認知度があがる。ハマスタに行って廃校までの期間が延びるのは1年だけどぉ、受験者数が増えれば全てが白紙に戻る」

「……」

「わたくしたちに、失望しましたか?」


 そこまで口を出さなかった一之瀬が、友希に向かって言う。


「野球を、廃校を撤回する道具みたいにしてしまったことを」

「いや、そんなことは……ないです」


 失望、そんな感情が出る前に、気持ちの整理がつかない。

 だがいつもと違って歯切れの悪い口調の友希に、二宮は肯定と受け取ったのか、申し訳なさそうに話す。


「自慢するみたいだけどさぁ、あたしってこれでも、小学校・中学校でも生徒会に入っててさぁ、最終学年では生徒会長だったんだよぉ。でもねぇ、いつも比較されてたんだ、前年の生徒会長と。それが、今の生徒会長でもあるんだけどさぁ。あの人は何もかもが完璧だった。あたしが勝ってるのは、足の速さくらいかなぁ。こんなこと話すの家族と優美以外は初めてだけどねぇ、結構、劣等感に苛まれてたんだよ」


 二宮は、血のにじんだ手をぎゅっと握りしめた。

 痛みを想像して、友希は目線をそらす。しかし、二宮は痛みを微塵も介さず喋り続けた。


「……でも、そんな会長にも、この廃校の問題はどうにもならなかった。その時にねぇ、知ったんだよ、女子甲子園50周年。あたしにはこれしかないと思った。この10年間負け続けたあたしに、巡ってきた最後の逆転のチャンス。そりゃあさぁ、創部1年目でハマスタに行ける確率なんて、凄く薄いってことは分かってるんだけどさぁ。……嫌だよ、最後の生徒会長なんて。嫌だ、何もしないまま卒業を迎えるなんて。あたしは絶対に、嫌だ」


 抗うように、二宮は語気を強めた。


 友希は思い返す。

 母親が、母校の事を、この相模南女子高をどれだけ良く言っていたか。

 その頃の友達とはよく会うと言っていたし、小鳥遊の母親だって高校のクラスメイトだと言っていた。毎年高校の同窓会に顔を出しては、その時の話を楽しそうに友希に喋っていた。


 子供の頃から、ずっと。

 この高校に来るのが当たり前で、卒業すれば母親と同じように、同窓会に顔を出すものだと思っていた。


「やっぱり聞きたく、ありませんでしたか?」


 一之瀬は心配そうに友希の顔を見る。

 ずっと校舎の方を向いていた友希は、ようやく二人の方へと顔を向けた。


「いえ、そんなことはないです。もし、万が一、ハマスタに行けないってなった後にこの話を聞いたら、後悔してましたから!」

「そっか。でも、一応これ秘密だからねぇ。混乱を引き起こすかもしれないしねぇ」

「野球部の皆にも、話さないんですか?」

「……そうだねぇ。近いうちに、話すと思うよ」


 二宮は、ポケットからテーピングを取り出して皮がむけたところに巻き始める。これからまた、練習を再開するつもりなのだろう。


「……私も、一緒に練習してもいいですか?」

「本当は、監督の許可とらないといけないんだけどねぇ」

「仕方ないですわ。友希さんが居てくれた方が、わたくしたちもやりやすいですもの。でも、他の皆には内緒ですわ。夜はそんなに多くの人が練習できる設備がありませんから」


 そこから、3人で練習を1時間、みっちりとこなして帰路についた。

 夜間の練習は友希にとっても新鮮で、不思議な気分のまま家に着く。


「ただいまー」

「遅いわね。こんな時間まで何してたの?」

「野球の練習だよ」

 

 嘘ではない。だが、廃校の事は母親に知らせる訳にはいかなかった。

 敵同士になることもあるのだから。


「……」


 今日は色々なことがあり過ぎた。

 バッグを置いた瞬間、友希に嫌な予感が走る。


「……あ、宿題忘れた」


 翌日、教師に謝る友希を、不思議そうに小鳥遊が見つめていた。


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