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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
最終章 秋季大会決勝! vs立浜クラブ
141/150

140話 絶望という名の病

 エース・空見の帰還。

 それはどんなチームに対しても、相手に絶望を与える一手だ。


「……今更帰ってきても遅いのよ」


 真中はバットを構え、空見と相対する。

 刺すような視線を前に、それでも空見の余裕は消えなかった。


 ドン!

 とインハイへのストレートが投げ込まれる。


「ストライク!」


 審判の声が上がり、真中は冷や汗をかいた。


(ボールだと思って見送ったのに……)


 審判に不満があるわけではない。

 確かに真中も、ボールが目前に至るまではボールだと判断していたが、自分の体を横切った際には悟ったのだ。


(前のピッチャーも凡庸ではなかったけれど……)


 癖が分かっていたから、という話ではない。

 例え東浜の癖が掴めていなかったとしても、ここまでとは感じない。


 普通のピッチャーとは、格が違いすぎる。


 2球目、インコースに食い込むスライダー。

 真中は負けじとバットを出したが、打球は力なく三塁側のファールゾーンへ転がっていった。


「まさかとは思うけれど、3回までは手を抜いていたとは言わないでしょうね」

「……まさか」


 真中は自嘲じみた笑みを浮かべながらキャッチャーの天ノ川に問いかける。


 別に、最初の空見が加減していたわけではない。

 だが試合後半に差し掛かって、全開のエースに舞い戻ってこられては。


 4球目、それは、完璧なフォークだった。


 打者の手元で、ストライクゾーンからボールゾーンへとすとんと落ちる、落差の大きいフォーク。

 プロの打者でも見極めるのは至難の業だろう。

 真中も、手を出さずにはいられなかった。


「ぐっ……」


 今まで押せ押せモードだった相模南のベンチ、観客を黙らせる伝家の宝刀。

 相模南の中では友希に次ぐ、いや、友希と同等の打力を持つ真中が掠りもせず三振に取られたとあっては、唸るしかない。


 それでも、依然と同様の声量で応援は送られたが。


「……アウト!」


 6番の右京が内野ゴロに打ち取られ、6回裏の攻撃を終える。


 ……試合は後3回の攻撃を残すのみ。

 その3回で真中を攻略しなくては、勝利はない。

 ひいては、我が校の存続の可能性が消えさってしまう。


「みなさん、守備の時は守備に集中してくださいよー! 攻撃は攻撃の時だけ考えればいいんですからー」


 そんな監督の声は届かなかった。

 野手全員の頭の中に、空見の投じたボールの軌道が焼き付いている。


 だが、頭の中を守備に切り替える必要などなかった。

 下位打線から始まったとはいえ、立浜クラブの8・9・1番を三振、ピッチャーゴロ、簡単な内野フライと完璧に抑えたのだから。


「ナイスピッチ! 桜ちゃん!」

「あ、ああ、みずきか。これくらい……当然なのだ」


 ―――当然なわけがない。

 下位打線とは言え、他のチームなら中軸を担うほどの実力者を相手に、すでに疲労困憊の中で完璧に抑えることなどは。


 ……それ故に、その代償も大きかった。


 バッティングの能力が低いとはいえ、あの打ちたがりの投山が一振りもせずに、見逃し三振に倒れたのだから。

 決して、体力を温存しようと言う打算的な魂胆があったわけではない。

 それは、ベンチに戻る際に見せた悔しそうな投山の表情が物語っている。


(少しでも休ませなくては……。相手のピッチャーも揺さぶらんといかん)


 続く8番の熊捕がバッターボックスに入る。

 意気込んだはいいものの、気持ちだけで打てるような相手ではない。

 事実、空見はここまで打者13人に対して許したヒットは友希からの1本のみ。出塁に関しても、その1回きりだった。


 だが、そんな事実があるからと言って臆するわけでもない。


「空見というのは凄いピッチャーじゃの」

「……」


 熊捕は天ノ川に話し掛けたが、返答はない。それでも、熊捕は語り続けた。


「伸びのあるストレート。高確率で空振りを取れる、切れのあるスライダーにフォーク。打者の焦点とタイミングを外すカーブ。リードが楽しそうで羨ましいわ」

「……そちらのピッチャーも大概だろう。とても、野球を始めて半年とは思えない」

「はっは、隣の芝生は青く見えるもんじゃ。……じゃが、決して打てないとは思わん」


 それは、強がりではなかった。

 打てると思ったわけではないが、お得意の駆け引きだ。あの、全国No.1のキャッチャーである天ノ川を相手に。

 勝機は、そこにしかないのだから。


「あのピッチャーには癖があるけえの」


 紛うことなき虚言だった。

 癖など、匂いすら感じ取れなかった。


「……それなら、今までもっと打ち込んでもよかったはずだが?」

「そりゃあ無理じゃ。今気づいたけえの」


(……ブラフだな)


 天ノ川がそう思うのは当たり前のことだった。

 もし癖を見つけたとして、それを敵に言う必要性がない。

 だが、敢えて言ったのは、天ノ川の配球を絞るためだった。

 もし嘘だとばれたとしても、熊捕にとって痛手などはない。

 だが……。


「ボール」


 天ノ川はボール球で様子を見た。

 熊捕の目論見通りに。


 なんてことはない、ただ1球でも時間を稼げるなら。カウントが良くなるなら。

 いくらでも嘘つきと呼ばれたっていい。


 そしてカウントは2-2となり。


(今まで投げてきたのはストレート2球、スライダーにカーブ。……とくれば、投げるしかないじゃろうが、フォークを)


 天ノ川は、99%の割合で熊捕が嘘を付いていると感じ取っていた。

 だが、1%。

 その可能性を捨てきれなかった。

 だからこそ、試さずにはいられなかったのだ、まだ投げていないフォークを。


(分かったとして見送られたなら、次で違うボールを投げればいい)


 天ノ川の悪癖ともいうべきだろう。

 前の1年生ピッチャーである東浜の癖が完全に見抜かれていたということも相まって、不安を全て脱ぎ去っておきたかったのが本音だ。


 唯一、天ノ川の認識になかったのが、熊捕がただの素人はでなく、剣道では全国準優勝を果たすほどの実力者ということだった。


 ……見逃せばボールになろうという軌道のフォーク。


 ただ、熊捕は見逃さなかった。

 体勢を崩しながらも、確実に熊捕はバットの芯で捉える。

 カキィン! と快音を響かせると、ピッチャーの空見の上を抜いていく。


「「おおおおお!」」


 空見からの久しぶりのヒットに、観客が湧く。

 そして。


「……まさか、な」


 天ノ川の頭の中で、1%の予感が大きくなった。

 そんなはずはない、と思いつつも。

 次の9番バッター、左門はボール球になるフォークをいともたやすく見逃した。


(……!)


 それは、バントの構えをしていたからというのが大きい。

 左門はバントをさせればチーム内で右に出るものがおらず、そしてバントというのはボールを最後まで引き付けられる。

 読んだわけではなく、単純な左門の実力だったが。

 天ノ川は必要もない仮説を立ててしまった。


(フォークが、読まれている?)


 次に投じられたカーブを、いともたやすくバントを決められ、2アウトながらもスコアリングポジションにランナーを置く。

 そして、1番の小鳥遊に打席が巡ってくる。


(得意の左バッターとはいえ、フォークが読まれていると言うのは……)


 基本的に、フォークを多投するのは禁物だ。

 だが、球種にフォークがあるという事実が重要だった。


 フォークを予測から完全に外せるとなれば、左打者でも小鳥遊であれば対応される。


 天ノ川はそれを頭に入れて配球を組み立て、4球、5球と空見に投じさせる。

 小鳥遊にしてみれば、この打席、フォークを投げてこないと言う曖昧な情報を頼りに何とかカットを続けていただけであったが。

 天ノ川はそれを深読みした。


(……フォークを待っているのか)


 それが功を奏したのか、あのコントロールのいい空見を相手にして。


「ボールフォア!」


 小鳥遊は四球をもぎ取った。


 そして、2アウト一・二塁。

 1打同点、長打で逆転のチャンスに、打席に入るのはキャプテンの二宮。


 ここで、天ノ川は退路を捨てた。


「外野前進!」


 大きな声で指示を送ると、いつもよりもどっしりと構える。

 フォークがあろうとなかろうと、小鳥遊・三咲・真中以外には打たれない。

 その自負が、迷いを断ち切った。

 ストレートとスライダーで、2球で追い込むと。


(さあ、最後の確認だ。これを見送られれば、フォークはこれ以降一球たりとも投げさせない)


 カウント0-2から投じられたフォーク。

 対する二宮は―――。


「ストライク、バッターアウト!」


 打てるはずがなかった。元よりフォークは捨てていたのだから。


「……この私が踊らされたな」


 天ノ川の言葉に、ギリッと二宮は歯ぎしりをする。


「だが、結果は無得点だ。もう三咲はバッターとして使い物にならん。今の相模南にはもう、逆転の目はない」


 『絶望しろ』と言わんばかりに、天ノ川はベンチへと戻っていく。

 二宮は何も言い返せずに自陣へと戻る。


 絶望という病を抱えながら。

 例え、チームに伝染することを理解していたとしても。

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