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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
最終章 秋季大会決勝! vs立浜クラブ
134/150

133話 先制点はどちらの手に

 2回の表は、完璧な立ち上がりを見せた投手の空見から。

 インコースの速球系が苦手だと言うことは、中学時代チームメイトだった友希から聞いている。


 左打者の空見に対し、ストレートとシュートを3球続けてインコースへ投じ、カウントが1-2になった時だった。


 空見の足が、半歩、後ろに下がった。


 インコースのストライクゾーンをどれだけ厳しくついても、この位置だとただの甘い球になる。

 逆に、外角ならいくら空見が得意でも物理的にバットの芯が届かない。


(来い。アウトローじゃ)


 投山の投じたアウトコースへのストレート。

 空見は、それを予め読み切って、右足を踏み込んだ。


 キィン、と快音を響かせ、打球はショートの頭を超える。


「……足を移動させたんはわざとじゃったか。あからさまじゃないだけに、罠とは気づけんかった」


 ノーアウト一塁から、続く7番が初球で送りバントを決め、1アウト二塁。


 8番への配球は緩急を用いて、サードゴロに打ち取る。

 友希がランナーの空見を牽制しながらファーストへ送球し、2アウト二塁。


 立浜クラブからしてみれば、完全にしてやられた結果だったが、焦燥感は微塵もなかった。

 先攻チームは何が何でも先制点が欲しいものだが、立浜クラブに限ってはそうではない。

 いつも通りにやっていれば、焦らずとも勝利はやってくる。


 それは、9番にいる1年生の東浜陽子もそうだった。


 天ノ川からのアドバイスに軽く頷いて、バッターボックスへ向かう。

 同じ1年生ではあるが、風格は王者の一員として他のナインと遜色ない。


 東浜は中学の同期である友希を一瞥した後、軽く足元を均す。


 友希からの情報には、特に苦手というものはないと聞いていた。

 かといって、打撃がそこまで得意というわけでもない。


 ……しかし。

 初球だった。


 アウトコースのストレートが、ライト前に運ばれたのは。


 二塁ランナーの空見が生還し、先制を許す。

 ホームベースを踏んでいることを確認した後、熊捕はタイムリーを打った東浜を見つめる。


(球種、もしくはコースを……読まれた?)


 それはただの勘でしかなかった。

 だが、あり得ないとは思わなかった。

 向こうのベンチで、天ノ川が目を光らせている以上は。


 思えば、空見にも完璧にコースを読まれていた。


(……桜じゃなく、わしの方に癖があるのか?)


 続く1番を内野ゴロに打ち取ったものの、熊捕は天ノ川の呪縛から逃れられずにいた。



「どんまい、どんまい! 取られたら取り返せ、だよ!」


 2回の裏、そう言って元気よく友希は打席に立つ。

 友希がバットを構えると、途端に空見の目つきが険しくなった。

 

 中学の頃は同じチームだったからこそ、友希と空見は数多く対戦している。


 単純な能力と、対戦成績を比較すれば、友希は空見と相性が良かった。

 裏を返せば、空見にとって友希は嫌なバッターだった。

 そもそも、能力が高いゆえにあまり意識されないが、空見は右バッターが苦手だった。


(とにかく高めは禁物。すべて低めに集めろ空見)


 キャッチャーの天ノ川は両手を下げてジェスチャーで意図を空見へ伝える。


 しかし友希はコースではなくある一つの球種だけを待っていた。空見の持つ球種の中で最も捉えやすいカーブ。

 例えそれが、ボール球だったとしても。


「もらった!」


 友希はレフトの頭を超すつもりで思い切りスイングしたが、芯の少し下に当たったのか、打球は三遊間を割るだけにとどまった。


『友希―!』


 だが、チーム初のヒットにスタンドは大きく湧き、友希もそれに手を振って応える。


「私たちのチームとは対照的ね。……それと、中学の時のチームとも」


 空見は相手側、相模南側のスタンドを見て、不機嫌そうに呟く。

 ヒットを打たれたのが苛立たせただけで、羨ましいとは微塵も思わなかったが、流石に空気が違い過ぎた。


 先制点を取っても大して喜びを見せない立浜クラブと、1人ランナーが出ただけで満面の笑みを浮かべる相模南。

 だが裏を返せば、それは空見達が恐れられている証拠でもある。


「まあいいわ。要注意なのは友希と、次の5番バッター。……あとは1番バッターだけ少し気を付けて、他は大して怖くはない」


 セットポジションに入っても、空見の投球に変化はなかった。

 インコースを厳しくついてカウントを整えると、決め球はフォーク。


「ぐっ……!」


 フォークを身構えていた真中でさえも、バットに当てるのが精一杯で、ボテボテのピッチャーゴロ。

 友希は二塁まで進み、結果的に送りバントのような形となったが、真中は面白くないといった風に表情を歪める。


「……嫌な目で見てくるわね。ストライクゾーンに入ってしまったとはいえ、決め球を当てられただけでもこっちはムカつくと言うのに。……まあ良いわ」


 『良い』と口にしたものの、内心全く穏やかではなかった。


 6番の右京にはうっぷんを晴らすかのようにフォークで空振り三振に取り、7番の投山には格の違いを見せつけるかのようにストレートで見逃し三振に取る。

 小さく息をついてマウンドを降りる空見を天ノ川は待ち受けて声をかける。


「少しムキになりすぎだ」

「なってないわよ。一応得点圏なんだから、力を入れるのは当たり前じゃない」

「人を殺しそうな顔をしていたがな」

「……雫は私を何だと思ってるのよ」


 2回裏が終わり、0-1。

 空見がムキになった甲斐があったのか、三振に取られ得た投山は悪い意味で闘争心をむき出しにしていた。

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