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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
最終章 秋季大会決勝! vs立浜クラブ
133/150

132話 立ち上がり

 投山の立ち上がりは上々に見えた。

 1番、2番を合わせて6球で打ち取り2アウト。


 だが、簡単にベンチへ戻してくれはしなかった。


「よろしく頼むぜよ」


 柔和な笑みを浮かべて挨拶をしながら、3番の雲雀が左打席へ入る。

 1番と2番のどちらかを出塁させていたら、初回からピンチを迎えていただろう。

 後ろにいる天ノ川も脅威だが、この打者も厄介なこと極まりない。


 雲雀は初球のストレートを、ストライクにもかかわらず悠々と見逃す。


 熊捕としては、あまりボール球を使いたくはなかった。

 そもそも7点取られた準決勝から一日しか空いていないと言うのに、投山一人しかピッチャーがいないのはあまりにも酷だ。

 出来る限り球数を少なく、かつ体力を温存しないと、後半の正念場で力尽きる。


 2球目、インコースに放たれたシュート。

 確かに球威こそ全力ではなかったが、初見で完璧なコースに決まったはずだった。

 だが雲雀はそれを、腕をたたんで一二塁間をライナーで破っていく。


「……ちっ」


 熊捕はマスクをかぶりながら軽く舌打ちをする。


 流石にクリーンアップは本気で抑えに行った方が良かったか?

 そんな後悔が頭をよぎったが、まだ点を取られたわけではない。

 切り替えて、次のバッターに対峙しなくては。


「……」


 無言で審判に頭を下げ、右のバッターボックスに入る天ノ川雫。

 打撃のセンスで言えば雲雀の方が上と言われているが、相手に与える恐怖感は天ノ川の方が上手だ。

 人懐っこい雲雀と寡黙な天ノ川で、人間性の差分もあるのだろうが、決してそれだけではない。


「さて、どうするか……」


 一塁ランナーの雲雀が走ってくる可能性は十分にある。

 かといってランナーだけを注視できるような打者ではない。


(ストレート。クロスファイアをインハイじゃ)


 投山が右足を上げると同時に、雲雀はスタートを切った。


「セカンド!」


 小鳥遊が叫びながら二塁ベースのカバーに入る。


(高い……)


 投山が投じたストレートは要求よりも高めに浮いた。

 天ノ川はボール球に手を出す素振りはない。


 高めに浮いた分、盗塁は刺しやすいが……。

 熊捕の送球も高めに浮いた。


「セーフ!」


 二塁ベースへドンピシャの送球ならアウトだったかもしれないが、雲雀の足が速すぎた。

 小鳥遊と同レベルの走力は、例え熊捕が完璧な送球をしたとしても五分五分の確率だ。

 1回戦の斡木クラブの高峰ほどではないが、刺すのはかなり厳しい。


(……得点圏打率5割の怪物か)


 初打席の打率はそこまで高くないとはいえ、だ。

 そんな怪物と勝負する方が馬鹿げている。


(どうせ勝っても僅差の試合じゃ。初回だろうが何だろうが、塁を埋めるのは厭わん)


 くさいところを付きながらも、ストレートの四球で天ノ川を歩かせた。


「……面白い」


 天ノ川は4球目を見送った直後、バットを置いて小さく呟いた。

 一塁へ小走りで向かっていく後ろ姿が、何とも言えない恐ろしさを感じる。


 続く5番のバッターを得意のシンカーで三振に切り、賭けには勝った。

 ……だが、無得点に抑えはしたが、天ノ川の声が熊捕の脳裏にこびり付いて離れなかった。

 まるで、これからの配球を予見されたような、嫌な予感を纏わせながら。


 しかしそれでも、後攻なだけあっていくらか気分は軽くなった。


「初回無得点に抑えたよ! 点を取って試合を有利に進めていこう!」


 スタンドで応援している生徒の皆も、対戦相手が大会10連覇しているチームだということを知っていたせいか、初回を無得点に抑えただけで安堵の雰囲気へ変わる。

 そして、攻撃では解禁されるブラスバンドの応援が、観客だけでなくベンチを活気づける。


「よし、行こう!」


 そんな相模南に相対するのは、立浜クラブの絶対的エース、空見星奈。


 左のスリークウォーターから放たれるMAX117km/hのストレートに、真横に曲がるようなスライダー、タイミングと焦点を外すカーブ、そして、消えると思わせるほどの落差があるフォーク。

 そして何よりも問題なのが、針の穴を通すようなコントロール。


 そのマウンド上での立ち振る舞いは、圧巻だった。

 1番の小鳥遊には、ストレートとカーブでカウントを稼ぎ、1-2からの5球目。


「スライダー……!?」


 ストレートだと思って振りに行った小鳥遊のバットを避けていくように、空見のスライダーはストライクゾーンから遠ざかっていく。

 小鳥遊のバットは勢い良く空を切り、唇を噛みながらベンチへ引き下がっていく。


「分かってはいたけど……左バッターにはかなり厳しいね、あの投手」


 スライダーにフォークと、絶対的なウィニングショットが2球種もあるとなると、追い込まれるまでに勝負をかけないといけなくなる。

 2番の二宮には、外角を3球続けたかと思うと、最後はインコースのストレートを詰まらされて内野ゴロ。

 3番の一ノ瀬は、ストレートとスライダーで追い込み、4球目のカーブに泳がされて内野フライ。


 正直な話、2回戦の河咲女子高のピッチャーである華園百合の方が打ち辛い印象はある。


 だが、絶望感だけは違う。

 空見には、崩れるようなメンタルもなければ、球種を見抜けるような癖もない。


 スコアボード上では0-0の互角でも、観客の活気は相模南の方が上手でも。

 ベンチには一抹の不安が漂っていた。

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