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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
最終章 秋季大会決勝! vs立浜クラブ
130/150

129話 もう、怯えはしない

「午前中は明日の作戦を練ってですねー、午後は軽く調整して今日は終わりですー」


 神奈川県予選を勝ち抜くにあたり、最大の難関が明日ぶつかる立浜クラブであったのは大会前から明白だったが、目の前の対戦相手をどうにかするのに精いっぱいで、今の今まで何も対策を講じてこなかった。


「友希、アンタは中学の時同じチームでしょ。何か癖とか無いわけ?」

「うーん。空見先輩ならあるよ。持ち球とか、苦手なコースとか。中学の時だけどね」

「それ早く言いなさいよ」


 真中に催促された友希が、ホワイトボードを挟んで監督の隣に立つ。


「えーと、空見先輩の持ち球はスライダー、カーブ、フォークで、コントロールがとっても良かったよ。特にフォークは落差が大きくて、分かってないと打てないと思う。多投すると握力がなくなるから、本当に空振りを取りたいときにしか投げてこないけどね」

「フォークかぁー」


 最後尾に座っていた二宮が、後頭部で腕を組み、壁にもたれかかる。


「あたしたちってフォークの練習したことも、それを投げる相手とも戦ったことないよねぇ」


 フォークと言えば変化球の中でもメジャーな部類だが、女子ではそれを公式試合、しかも決勝レベルで投げれる人は少ない。


「桜ちゃんのシンカーが一番近いですけど、それでも上手投げと下手投げ、フォークとシンカーはやっぱり違いますね」


 フォークを投げられる人を今から探すのは無理だ。

 なんなら友希は大会前から少し探していたが、見つかりはしなかった。

 その時は母親の伝手も使えなかったので無理もない話だ。


「ふっふっふー……。私の力が発揮される時が来たようですねー」


 皆が悩む姿を見ながら意味深に笑みを浮かべる監督は、部室の一画にあったシートに手をかけた。


「「それは……!」」


 皆の注目が集まったと同時に、監督は勢いよくシートを剥がす。


「私が改良を加えた、ピッチングマシン、マークⅡ ~フォークVer.~ ですー!」


 流石は物理教師で手先が器用な監督……というところだが、市販品のように小奇麗にというわけにもいかず、ところどころ歪な個所が散見される。


「もうフォーク以外投げられないどころか、コントロールもあまり制御できませんがー。そこは機械の力、空見さんも目じゃないフォークを投げてくれますー。いやー大変でしたよー。でも手の掛かっちゃう困ったさんほど可愛いものですからねー」

「いや、困るのは実際に打席に立つわしらの方なんじゃが。試合前にデッドボール連発だけは勘弁じゃ」

「まーそこは、避ける練習になると思ってくださいー」


 監督がマシンを撫でながら言うものだから、他の皆もこれ以上何かを口にすることはできなかった。


「……まあいいわ。他には何かないの?」


 真中が話を戻すように話題を友希に振る。


「昨日の試合を見た感じだと、ピッチャーとしては特にないかな。スライダーは中学の時よりも強化されてたっぽいし。でも、打撃の方の空見先輩は変わってないと思うよ。デッドボールが怖くて、インコースの速球系は苦手なんだ」


 それを聞いた瞬間、熊捕があくどい笑みを見せる。


「それはええ事を聞いたのう」

「……うん。でも私がこっちのチームにいるのは相手も分かってるし、逆手に取られるかもしれないから気を付けてね」


 友希はそう告げると、空を見つめながら中学時代を思い出す。


「えーと、あとは……あ、そうそう、昨日の先発だった背番号11の陽ちゃんだけどね」


 東浜陽子。

 友希とは中学時代同じチームで、友希の代ではエースだった人物だ。


「変化球を投げるときね。キャッチャーのサインに頷いてから、背中でコロコロ握りを変えるの」

「それ本当に言ってるの? そんな癖を同じチームだったのに教えてあげないなんて、友希も悪いところあるじゃない」

「雨音ちゃんと一緒にしないでよー」


 ぷくっと頬を膨らませる友希を見て、真中のこめかみに青筋が走る。


「中学の時は逆ったんだよ。ストレートを投げる時に背中で握りを変えててね。中学の時は変化球に慣れてなかったから、グラブの中でしか変えられなかったみたい。……で、私がその癖を指摘してからは、サインを見る前にストレートの握りでボールを持つようにしたの」


 そこからは、東浜の癖が表に出ることは、中学ではなくなった。

 だが、昨日の試合では。


「たぶん、変化球の握りに慣れたんだと思うんだけど。ストレートはそのままだからコロコロはしなくて、変化球だけコロコロしてた」

「……ふぅん、それは大分有利に立てるねぇ。でもぉ、そういうのって雫ちゃんが、気づかないのかなぁ」


 天ノ川が持つ観察力は、熊捕にも劣らない。

 だが、天ノ川では気づくことはできない。


「無理ですよ。陽ちゃんの体に隠れて、その癖が見えないんですから」

「なるほどねぇ。……でもそれってぇ」


 キャッチャーから見えないと言うことは、バッターからも見えないと言うことだ。


「そこは、サードコーチャーからサインを出させましょう。掛け声か何かで」


 そこから、立浜クラブの各選手の特徴を再確認する。

 そして、最後に残ったのが。


 雲雀飛鳥と、……天ノ川雫。


「レフトの雲雀さんは、どうやら高校になってから神奈川に来たみたいやねぇ」


 それも、関東ではなく、四国の選手だ。

 だが、雲雀の名前は友希も、真中も、小鳥遊も知っていた。


「打力で言えば海乃さんが、走力で言えば高峰さんが神奈川の中では群を抜いている。だけど、打力と走力の掛け算なら……」


 小鳥遊の記憶にある雲雀。

 打者としてこれほど完成された選手は、中学の時は他に例を見なかった。

 間違いなく、要注意人物の1人。


 だが、雲雀の打順は3番。

 天下の立浜クラブにおいて、4番に座すのは。


「天ノ川、か」


 熊捕が、動画を見ながら呟く。

 ミート、パワー、走力。

 その全てが、雲雀に劣る。それでも、4番に座している理由がある。


「この圧倒的な得点圏打率はなんじゃ? チャンスの時だけ手動で操作するスパプロみたいじゃな」

「それは、読んでるんだよ。配球を」


 ランナーがいるほど、配球というのは偏りやすい。

 そして相手捕手の配給の癖を予め頭に叩き込んでいるからこそ、数値として現れる。

 打率3割5分。得点圏打率4割8分。……そして特に、終盤7~9回の得点圏打率に絞れば。


「6割5分以上……。母数が30打席以上あってこれとはのう。こいつがしとるのは、本当に野球か?」


 決して、身体能力が傑出しているというわけではない。

 それでも、盗塁阻止率、打点、失策数など、素晴らしい選手だと言うことは数字に表れている。


 天ノ川だけではなく、立浜クラブが神奈川No.1だと言うことは、結果が物語っている。


 だが、もう下を向く人はいない。

 怯えは昨日に置いてきた。


「じゃあ、そろそろ練習の方に移りましょうかー」


 監督がそう言うと、座っていた選手たちが立ち上がる。

 全国を賭けた、高校の存亡を賭けた、最後の練習に駆け出していく。

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