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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第八章 秋季大会準決勝! vs翔和女子高校 
105/150

104話 めんたるトレーニング!

「それで、ニノさんの家にやってきたが、一体何をするのだ?」

「何をする、というよりも、何もしないが、正確ですわね」


 一ノ瀬の言葉に、投山は首を45度傾ける。


「まぁサタンちゃん、とりあえず座りなよぉ」


 胡坐をかく二宮、正座する一ノ瀬、膝を伸ばす投山と、三様の座りかたをする3人の真ん中に、1本の棒が置かれた。


「……これは、どこかで見たことあるぞ」

「ご名答ですわ。これはGW合宿のお化け屋敷で使った警策です」

「ちょっとお腹が痛くなってきたのだ」


 腹を擦りながら立ち上がろうとする投山の肩を、二宮が押さえつける。


「駄目だよぉ、試合中にそんなこと出来ないよねぇ」


 凄みを見せる二宮の目つきに、投山は苦笑いを怯えながらも再び腰を下ろす。


「具体的には、我はどうすればいいのだ」

「わたくしたちも似たような思いを抱いていましたけれど、桜さんは、紅葉さんが言うには『感情の変動が大きすぎる』ということらしいですわ。点差だったり、相手の監督が出すサイン、ネクストバッター等、気にしなくていい情報まで考えこんだらベストなパフォーマンスは発揮できません。そういった類の情報は、キャッチャーの紅葉さんが考えてくれますから」


 一ノ瀬は立ち上がり、警策で手をポンポンと叩きながら説明を続ける。


「ですから、何もしないことで動じない精神力を鍛えます。何があっても、心を静めてくださいね」


 投山の視界の隅に、ちらっと二宮の姿が映る。

 ごそごそと、デッキの下からテレビゲーム機を取り出し、テレビの電源を入れる。


「なっ!?」

「欲求にも惑わされてもいけませんわ」


 パチン、と投山の右肩が軽く叩かれる。


「うっはぁ、今のラビッツ打線も悪くないけどぉ。やっぱこの時代は大正義だねぇ。軽くホームラン出ちゃうしねぇ」

「……思っていたより鬼畜なのだ」


 演技なのか本気なのか、ゲームに熱中する二宮を横目に、投山は深いため息をつく。


「安心してください。何もするなとは言いましたが、呼吸はしてもらいます」

「……それが許可されなかったら我は3分くらいで死ぬぞ」

「ただの呼吸ではありませんわ。やっていただくのは腹式呼吸。精神を落ち着かせるために用いる呼吸法ですが、極めれば覚醒状態に突入し、桜さんの投げる球は一段階向上します」


 ……覚醒というのは一ノ瀬の出まかせでしかない。

 投山が興味を示すワードを用いることでトレーニングに集中させるのも目的の一つだが、実際にはもう一つだけ理由がある。


 腹式呼吸で精神を落ち着かせると、催眠状態に陥りやすくなる。

 自分は出来る、自分は覚醒したと自己暗示にかけるのも催眠の一種だ。

 投山は素直な性格で元々催眠にかかりやすいため、効果はてきめんだろう。


「桜さんは一度覚醒状態に入ったことがあるはずですから、似たような感覚を目指して頑張りましょう」

「分かったのだ!」

「ではまず、鼻からゆっくり息を吸ってください、10秒ほどかけて―――」


 一ノ瀬が投山を指導している傍らで二宮はテレビゲームで野球の試合を続けている。

 偶然、二宮が捜査しているラビッツの対戦チームはスターオーシャンズだった。


「ユッキーたちはどうしているかねぇ」




 一方、友希と熊捕は、友希の家のリビングにいた。


「で、紅葉ちゃん、何をするの?」

「まぁそう慌てるな。取り合えずパソコンを点けてくれんか」


 訝し気に思いながらも、友希は母親の所有物であるパソコンのパスワードを入力してデスクトップ画面を見せる。


「立ち上げたけど、どうするの?」

「ある動画を見る。主には地獄の思いかもしれんが、それでも見せるけえ」


 熊捕はそう言うと、凄まじい速さでとあるページまでたどり着いた。


「こ、これは……」


 スターオーシャンズのエラー集、サヨナラ負け集、大敗集。

 負の歴史が、10年分ほど、この動画に詰まっている。


「トラウマ克服するどころか、抉って来てるんだけど……。ていうか今の速さ、紅葉ちゃんこの動画見たことあるよね!?」

「一回だけな」


 再生ボタンをクリックしようとする熊捕の手を、友希が抑える。


「なんで、メンタルトレーニングがこの動画を見ることなの?」

「1週間これを見る訳じゃあない。じゃが、まずは自分の姿を見直すことが重要じゃ。この動画の選手は皆、試合終盤のビハインドで打席に入るお主と瓜二つじゃ」


 熊捕は友希の制止を振り払って再生ボタンを押す。

 目を覆いたくなるような惨劇に、友希は唇を噛み締めて耐えた。


 ……だが、確かに熊捕の言う通り、終盤ビハインドの打席に入る友希とそっくりだった。

 気迫こそ失っていないように見えるものの、負けが決まった瞬間に「やっぱりか」とでも肩を下ろす姿は、友希の姿と被る。


 どうしてなんだろうか。

 もう少しで掴めそうな気がする。


「……もう終わったのう」

「いや、20分だったけど、体感時間は1時間くらいあったからね。もうこりごり」

「何を言うとる。20分で終わるわけがなかろう。この動画はpart5まであるけえ」


 関連動画の欄を見せられた友希は絶句した。

 確かに、ここ10年というには古いシーンしかないと思ってはいた。


「ちょっと、休憩を……」


 ダメもとで頼んだ友希だったが、熊捕は軽く了承した。


「じゃあ、次はレッドスナーパーの動画を挟むかのう。一昔前は万年5位じゃったけえ、そういう動画には事欠かん」


 オーシャンズじゃない分、少しだけ友希の心は安らいだが、それでも悲惨な場面であることには変わりはない。


「対戦相手にオーシャンズが少ないのは気のせいかな?」

「気のせい、ということにしといたほうがええじゃろう」


 ちらっと熊捕の横顔を見たが、表情はいたって普通のままだ。

 この時代の熊捕は野球すら見ていなかったのだから、友希とは思いの重さが違う。

 それでも、過去とは言え応援しているチームの惨劇をここまで見せつけられて顔色一つ変えないというのは、尋常じゃない。


「……私は、どうすればいいのかな」

「トラウマを払拭するには2つの方法がある。記憶をデリートするか、上書きするかじゃ。わしはデリートするタイプじゃが、お主は違う」

「じゃあ……」


 友希は縋るような眼で見たが、熊捕は涼しい顔をして受け流した。


「とにかくじゃ。Part5まで、水曜日までには見とくんじゃぞ」

「うへぇ……」


 準決勝まではあと5日。

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