『つて』をなくす
条件:「つ」「て」「づ」「で」「っ」を使用してはならない
叔父は樹木の世話が上手い。教員を退職した後は、さらにのめり込んだ。
小さな庭には、さまざな木々が枝を広げひしめきあう。春の梅や桜、初夏の藤に百日紅、秋の紅葉と銀杏。けれどとりわけ見事なのは、紅に輝く冬の牡丹。
もともと、他所様の牡丹を譲り受けたのだと聞いた覚えがある。通りすがりに見た鮮やかな色合いに惚れ込み、幾度となく通い、ようやく挿し木をすることを許されたのだとか。
その話をするたびに叔父の頬が赤く染まるから、おそらく元の木の持ち主は大層な美人に違いない。もう良い年齢をした叔父から考えれば、女性も相当な歳のはずだが、記憶の中の美貌は衰えることもないのだろう。
独り身のまま老いた叔父の晩年の楽しみは、牡丹を見ながらの雪見酒。傍らには必ず、この時期にのみ現れるうら若き女性がいた。教え子とは思えない彼女との関係は知るよしもない。
叔父が亡くなると同時に、庭の牡丹はいきなり枯れた。冬の寒さに負けずに凛と咲く赤い花にも、それによく似た可憐な女性にももはや会うことはない。それが、少しだけ寂しく思えた。