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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠


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『モノマネ』にはご用心。

「も」「の」「ま」「ね」を使用してはならない


※少しホラーな内容です。苦手な方はご注意ください。

 今年(ことし)大学生(だいがくせい)になった葵(あおい)には、親友(しんゆう)を称(しょう)する知人(ちじん)がいる。葵(あおい)が知人(ちじん)を、自称親友(じしょうしんゆう)と言(い)い切(き)る理由(りゆう)があった。知人(ちじん)が、葵(あおい)を完璧(かんぺき)にコピー(こぴい)してくるからだ。


 葵(あおい)が髪(かみ)を切(き)れば同(おな)じように髪(かみ)を切(き)る、髪(かみ)を染(そ)めれば同(おな)じ色(いろ)にする。服(ふく)を買(か)えば色(いろ)ごと同(おな)じ服(ふく)で翌日(よくじつ)登場(とうじょう)し、ダイエット(だいえっと)を始(はじ)めれば同(おな)じようにダイエット(だいえっと)を開始(かいし)する。


 学部(がくぶ)どころか、選択(せんたく)している授業(じゅぎょう)だって同(おな)じなため、おじいちゃん教授(きょうじゅ)は最初(さいしょ)本気(ほんき)で葵(あおい)と知人(ちじん)を双子(ふたご)か何(なに)かだと勘違(かんちが)いしていたらしい。世間(せけん)には双子(ふたご)コーデ(こおで)が存在(そんざい)しているけれど、これはちょっと違(ちが)うだろう。


 インスタグラム(いんすたぐらむ)やX(えっくす)を監視(かんし)し、葵(あおい)がリアルタイム(りあるたいむ)で投稿(とうこう)を上(あ)げれば、すぐ後(あと)に、同(おな)じ格好(かっこう)をした知人(ちじん)が登場(とうじょう)して、同(おな)じ内容(ないよう)を投稿(とうこう)している。これでは、双子(ふたご)コーデ(こおで)どころか本人(ほんにん)に成(な)り代(か)わろうとしているようにしか見(み)えなかった。


 少(すこ)しだけ救(すく)いがあるとすれば、顔立(かおだ)ちは全然(ぜんぜん)似(に)ていないということだろうか。正面(しょうめん)から見(み)れば、服(ふく)やアクセサリー(あくせさりい)だけ似通(にかよ)った他人(たにん)でしかない。だから後(うし)ろ姿(すがた)で葵(あおい)だと勘違(かんちが)いした幼馴染(おさななじみ)が、自称親友(じしょうしんゆう)に声(こえ)をかけたところ、振(ふ)り向いた知人(ちじん)を見(み)てぎょっとするという事件(じけん)だって繰(く)り返(かえ)し起(お)きていた。幼馴染(おさななじみ)だって謀(たばから)れるという事態(じたい)に、葵(あおい)は苦笑(にがわら)いするしかない。


「葵(あおい)、いっそ洋服(ようふく)とか買(か)い換(か)えたら? キレイ系(きれいけい)だからスポーティー(すぽおてぃ)なタイプ(たいぷ)に変(か)えちゃうとか?」

「結局(けっきょく)服装(ふくそう)を変(か)えたところで、コピー(こぴい)されたら終(お)わりだなって気(き)がして」

「それは確(たし)かに。よし、あいつを見(み)かけたら注意(ちゅうい)してみるよ」

「本当(ほんとう)にごめん。ありがとう。ただ、トラブル(とらぶる)になると大変(たいへん)だから。いいんだよ、放(ほう)っておいて。危(あぶ)ないことにはかかわらないでちょうだい」

「葵(あおい)~!!! あんたは本当(ほんとう)にいい子(こ)なんだから」


 葵(あおい)が怒(おこ)らない代(か)わりに、周囲(しゅうい)はしっかり自称親友(じしょうしんゆう)に注意(ちゅうい)をしてくれる。だが知人(ちじん)はブレーキ(ぶれえき)が壊(こわ)れたようだ。とうとう葵(あおい)は彼氏(かれし)さえ盗(と)られることになった。


「ホラー(ほらあ)っぽい」

「ぽいじゃなくって、ホラー(ほらあ)じゃん」

「とはいえ、繋(つな)ぎ止(と)めておけなかった私(わたし)が悪(わる)いから」

「うううう、あおいいいいいい。美味(おい)しいスイーツ(すいいつ)、食(た)べにいこううううう!!! それからカラオケ(からおけ)に行(い)っちゃおうううう!!! 全部(ぜんぶ)おごってあげるからさああああ!!!」

「あははは、ありがとう」

「すっごく可愛(かわい)い写真(しゃしん)をインスタ(いんすた)にあげてさ、後悔(こうかい)させてやるんだから!」


 それから、葵(あおい)と友人(ゆうじん)たちはカラオケ(からおけ)でどんちゃん騒(さわ)ぎをすることになった。


 翌日(よくじつ)、学内(がくない)は大騒(おおさわ)ぎになっていた。とあるカラオケ屋(からおけや)で殺人事件(さつじんじけん)が起(お)きたからだ。被害者(ひがいしゃ)は自称親友(じしょうしんゆう)と別(わか)れた彼氏(かれし)だ。


 ふたりは、カラオケ店内(からおけてんない)にある個室(こしつ)でふしだらな行為(こうい)に及(およ)んでいた際(さい)に、めった刺(ざ)しにされたらしい。特(とく)に知人(ちじん)は刺(さ)し傷(きず)が相当(そうとう)に深(ふか)かったらしく、現場(げんば)で絶命(ぜつめい)していたとか。


 知人(ちじん)を庇(かば)うことなく逃(に)げ出(だ)そうとした彼氏(かれし)は同(おな)じように相当(そうとう)な深手(ふかで)を負(お)っていたらしく、先(さき)ほどテレビ(てれび)で死亡(しぼう)が伝(つた)えられた。犯人(はんにん)は「違(ちが)う、違(ちが)う」と犯行(はんこう)を否認(ひにん)するような叫(さけ)びをあげた後(あと)、ビル(びる)から投身自殺(とうしんじさつ)を図(はか)ったそうだ。犯人(はんにん)と被害者(ひがいしゃ)ふたりには面識(めんしき)がなかったらしい。なんと病院(びょういん)に運(はこ)ばれた際(さい)に、そういう内容(ないよう)を救急隊員(きゅうきゅうたいいん)に訴(うった)えていたようだ。


 意外(いがい)なことに証人(しょうにん)が結構(けっこう)いたらしく、ニュース(にゅうす)では放送(ほうそう)されていない情報(じょうほう)があちこちでささやかれていたが、すぐに噂(うわさ)は聞(き)こえなくなった。


「葵(あおい)、花(はな)を供(そな)えにいくんだって? そんなことする必要(ひつよう)ないって」

「ちょっと気(き)になっちゃって……。タイミング(たいみんぐ)が悪(わる)ければ、被害者(ひがいしゃ)は私(わたし)だったんじゃないかって……」

「そんなわけなじゃん。ふたりがバカ(ばか)なことやってるから、変(へん)な奴(やつ)に目(め)をつけられただけでしょ。警察(けいさつ)だって接点(せってん)なしって発表(はっぴょう)してたじゃん。だいたいストーカー(すとおかあ)じゃなけりゃ、ピンポイント(ぴんぽいんと)で襲(おそ)われることなんかないんだし」

「お花(はな)、買(か)っちゃったから……」

「それなら、一応(いちおう)ついていくわ」

「ふふふ、ありがとう」


 献花台(けんかだい)に花束(はなたば)を置(お)き、そっと手(て)を合(あ)わせる。凄惨(せいさん)な事件(じけん)が起(お)きただなんて、献花台(けんかだい)がなければわからない。


 みんな事件(じけん)をなかったことにしようとしているようだ。じっとうつむいたきり動(うご)こうとしない葵(あおい)に、友人(ゆうじん)がそっと声(こえ)をかける。


「葵(あおい)、泣(な)かないで」

「……泣(な)いてなんかいないわ」

「あんたが悲(かな)しむ必要(ひつよう)なんてない人間(にんげん)たちよ。よし、気分転換(きぶんてんかん)にショッピング(しょっぴんぐ)に行(い)こうか。ぱあっと、イメチェン(いめちぇん)しちゃおうよ! あんなやつらなんて忘(わす)れてさ」

「……うん。ありがとう。そうしてみる」


 それからしばらく、葵(あおい)は友人(ゆうじん)に抱(だ)きしめられ、小刻(こきざ)みに肩(かた)を震(ふる)わせていた。だって、葵(あおい)は踊(おど)り出(だ)したいほど嬉(うれ)しかった。鬱陶(うっとう)しい女(おんな)、大嫌い(だいきら)な浮気男(うわきおとこ)、傍迷惑(はためいわく)なストーカー野郎(すとおかあやろう)、みんなみんな計画通(けいかくどお)りにいなくなってくれたんだから。

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