『プロポーズ』は突然に
条件:「ふ」「ぶ」「ぷ」「ろ」「ほ」「ぼ」「ぽ」「お」「ぉ」「す」「ず」を使用してはならない。
りんごん、りんごんと鐘が鳴る。歌劇ならめでたし、めでたしの場面。そんな結婚式を物陰から見ている奴が私だ。明らかに怪しいのはわかっている。でも、どうしても見たかったのだ。
「どうしてここに!」
「ちっ」
面倒なのに見つかった。まあこんな場所でこそこそしていたら、悪目立ちしても仕方がないか。
何やらまくしたててくる友人――元友人か?――をそのままに、家路につこうとして失敗した。その手を離せ。私なんかが来ていることがバレたら、せっかくの式にけちがつくじゃないか。
「あいつに会っていかなくていいのか」
「なあに、せっかくの結婚式を台無しにしたいの?」
「あんな自己犠牲に満ちた作戦を取った君が? 結婚式を台無しに? 冗談はよしてくれ」
「自己犠牲だなんて、ただの偶然よ」
「偶然で、政治的な癒着と膿が一掃され、君だけが悪名をはせることになると?」
まったく、忌々しい。今さら蒸し返してくるなんて。
「目に物見せてやりたかっただけだから」
「あいつの嫁さんも、礼を言いたがっていたぞ」
「勘弁してよ。勝者の余裕とか趣味が悪いわ」
「まったくひねくれてるな、君は」
「けっ」
どんなにあがいても、大切なひとの隣に立つことは叶わない。ならば、せめてまともな女性と結婚していただきたいではないか。性悪なうちの妹など話にならない。
だから、家族への嫌がらせついでにちょっと頑張った。ただそれだけのことだ。
「君のそういう意固地さが可愛らしいよ」
「あっそ。じゃあ、哀れな平民にちょっとばかり恵んでくれる? ここに来るための足代で、今月の生活費が消えちゃったわ」
「足代だけでいいのか。食事も部屋も、アクセサリーだって靴だって用意してやるさ。一生な」
「はいはい、どうもありがとうね」
なんだ一生って。できもしない約束なんかして。馬鹿にしているのか。
「そんなこと言っていると、財産を食らいつくしてやるわよ」
「よし、言質は取ったぞ」
「ちょっと、この指輪はなに? 勝手に他人に魔道具をつけるとか、警察を呼」
「もう他人じゃない。君は今から、わたしの妻だ」
「かわいそうに。あんた、ここの病気だったのね」
「今さら気がついたのか。昔からわたしは君に狂ってるのに」
初恋相手の結婚を祝いに来たつもりが、腐れ縁の友人に娶られてしまった。その強引さを許せる程度には、友人のことを好ましく感じていたのかもしれない。




