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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠


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『あまおと』は聞こえない

条件「あ」「ぁ」「ま」「お」「ぉ」「と」「ど」を使ってはならない。

 精霊(せいれい)は、自由(じゆう)で無邪気(むじゃき)で純粋(じゅんすい)で、仕方(しかた)のない生(い)き物(もの)だ。だから僕(ぼく)は、精霊(せいれい)が嫌(きら)いだ。


 幼児(ようじ)のように小首(こくび)を傾(かし)げる君(きみ)を視界(しかい)に入(い)れないようにし、僕(ぼく)は吐(は)き捨てた。


「即刻(そっこく)、国(くに)から出(で)ていくがいい。そなたがそなたでい続(つづ)けられるうちに」

「もう、私(わたし)はいらないの?」

「いらない。必要(ひつよう)ない」


 ぎこちない表情(ひょうじょう)の僕(ぼく)を見(み)て、君(きみ)はくすくす笑(わら)う。


「うそつき。私(わたし)がいなくなったら、この国(くに)は砂漠(さばく)になっちゃうのに。みんな、飢(う)えて死(し)んじゃうよ。それが嫌(いや)で、私(わたし)を探(さが)していたじゃない」


 そうだ。僕(ぼく)は精霊(せいれい)を捕獲(ほかく)する意味(いみ)を知(し)らなかったんだ。いいや、知(し)っていて見(み)ないふりをした。たくさんの命(いのち)が助(たす)かるのなら……、そう考(かんが)えていた。


「これ以上(いじょう)、力(ちから)を使(つか)うんじゃない! 誰(だれ)かの願(ねが)いを叶(かな)えるたびに、君(きみ)はぼろぼろになっていくじゃないか」


 長(なが)い髪(かみ)は千切(ちぎ)れ、華(はな)やかだった羽衣(はごろも)はもはや肌着(はだぎ)のよう。


「頼(たの)む、君(きみ)が君(きみ)でいられるうちに、ここから出(で)ていってくれ」


 ぱちん。何(なに)かが弾(はじ)けるのがわかった。


「いらないのなら返(かえ)してもらうわね」

「……そう、だな」


 彼女(かのじょ)の好意(こうい)につけこんで、存在(そんざい)が擦(す)りきれるくらい、力(ちから)を使(つか)い込(こ)んだ。しっぺ返(がえ)しも来(く)るだろう。それでも、罪(つみ)はこの身(み)だけにしてほしい。


「僕(ぼく)は、ただ君(きみ)が好(す)きだった。自由(じゆう)な君(きみ)を見(み)ているだけで幸福(こうふく)だった。もう、人間(にんげん)の声(こえ)に耳(みみ)を貸(か)すんじゃないよ」


 さようなら。別(わか)れを告(つ)げる直前(ちょくぜん)、くらり、意識(いしき)を失(うしな)った。


 気(き)がつけば、僕(ぼく)は人間(にんげん)の体(からだ)を捨(す)て、彼女(かのじょ)の故郷(こきょう)へ旅立(たびだ)っていた。


「なぜだ、君(きみ)は……」

「だって、好(す)きなんだもの。国(くに)も無事(ぶじ)だから、心配(しんぱい)しないで」


 そう言(い)って短(みじか)い髪(かみ)をなびかせ、艶(つや)やかに笑(わら)う。底抜(そこぬ)けに君(きみ)は優(やさ)しすぎる。


 精霊(せいれい)は、自由(じゆう)で無邪気(むじゃき)で純粋(じゅんすい)で、仕方(しかた)のない生(い)き物(もの)だ。だから、僕(ぼく)は彼女(かのじょ)が心(こころ)から大切(たいせつ)なのだ。

遥彼方さま(https://mypage.syosetu.com/828137/)のフリーイラストをお借りしています。

この話はこちらのイラストをもとに書いております。


挿絵(By みてみん)

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