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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠


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サルノコシカケに『どく』はない

条件:「と」「ど」「く」「ぐ」を使用してはならない。

 雨(あめ)が降(ふ)る夜(よる)に、必(かなら)ず見(み)る夢(ゆめ)がある。


 水玉模様(みずたまもよう)の傘(かさ)をさした少女(しょうじょ)が、我(わ)が家(や)の呼(よ)び鈴(りん)を鳴(な)らすのだ。


 かつて少女(しょうじょ)は幼女(ようじょ)だったが、今(いま)や妙齢(みょうれい)の女性(じょせい)の姿(すがた)に近(ちか)づいた。


 ある雨(あめ)の日(ひ)、隣人(りんじん)の庭(にわ)の欅(けやき)にサルノコシカケを見(み)つけた。確(たし)かに猿(さる)も十分(じゅうぶん)座(すわ)れるような、大層(たいそう)立派(りっぱ)なものだ。


 回覧板(かいらんばん)を回(まわ)す際(さい)に、世間話(せけんばなし)がてらふれてみた。


「成長(せいちょう)するのを、毎日(まいにち)楽(たの)しみにしているんですよ」


 怪訝(けげん)そうな顔(かお)をした隣人(りんじん)は庭(にわ)の樹(き)を見(み)るなり、慌(あわ)てた様子(ようす)で電話(でんわ)をかけはじめてしまった。サルノコシカケは食(た)べられるのか。そんな疑問(ぎもん)は、聞(き)けずじまいだ。


 数日後(すうじつご)、隣人(りんじん)が菓子折(かしお)りを持(も)って我(わ)が家(や)にやってきた。


 ここ数日(すうじつ)なにやら騒々(そうぞう)しかったが、あの欅(けやき)を切(き)り倒(たお)してしまったらしい。中身(なかみ)がすっかり傷(いた)んでいたのだそうだ。


 発見(はっけん)がもう少(すこ)し遅(おそ)ければ、我(わ)が家(や)に倒(たお)れていた可能性(かのうせい)もあったらしい。


 その日(ひ)以来(いらい)、いかに雨(あめ)が降(ふ)っても、少女(しょうじょ)は夢(ゆめ)に出(で)てこない。


 隣家(りんけ)の庭(にわ)には、切(き)り株(かぶ)だけがひっそり残(のこ)されている。

貴様二太郎さま(https://mypage.syosetu.com/358768/)のフリーイラストをお借りしております。

この話はこちらのイラストをもとに書いております。


挿絵(By みてみん)

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