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『にじ』は『ウィンドウ』の向こうに

こちらは、伊賀海栗様主催による「インド人とウニ企画」参加作品です。


条件:「い」「ん」「と」「ど」「し」「じ」「う」「に」を使用してはならない

 デスクへ(すわ)ったまま、データを(なが)める。(かたち)だけをなぞってみても、結局(けっきょく)()はそぞろ。ならばここで()りあげて、(はや)めの(ひる)でも()べるべきか。眼鏡(めがね)()き、(かた)まわりを()みほぐす。


 左手首(ひだりてくび)(はり)が、(そら)()かってほぼ(かさ)なりあった。(かれ)はもはや成田(なりた)()ち、()()れる(ころ)コルカタへ()く。(かれ)家族(かぞく)は、そのままカレーでも()べるのだ。それからスーツの(かれ)は、花婿(はなむこ)姿(すがた)()える。(おや)()めた花嫁(はなよめ)であっても、花嫁(はなよめ)はそれはそれは素敵(すてき)なお姫様(ひめさま)だった。はなから、こちらが()てる見込(みこ)みなぞなかったのだ。


 壁紙(かべがみ)の、(くも)のプリズムが()れる。ツキを()(そら)(はね)だよ。(あま)ったるく(かた)った(かれ)台詞(せりふ)(よみがえ)り、(こころ)(なか)嘲笑(あざわら)った。ただの(めぐ)りあわせさ、血眼(ちまなこ)(さが)すのは馬鹿(ばか)げてる。


 バッグを(つか)むため(かが)()むなり、ゆらり、(まわ)りがぼやけた。ざわめきさえも()え、()がからだを(つつ)みこむ。(かぶり)()り、わずかばかり(のこ)(せつ)なさを(こら)えて()()がれば、すっかり寝不足(ねぶそく)のためか、あくびが(つづ)けざま()た。ああ、煙草(たばこ)でも()わなくては。


 故国(ここく)(かえ)(まえ)()(よる)気障(きざ)(かれ)は、勿忘草(わすれなぐさ)なぞ()って部屋(へや)へきた。(わか)れを()げる姿(すがた)()みを(さそ)った。こちらを()ててあちらへ(かえ)るのは、(かれ)なのだ。(のぞ)みを(たず)ねてみても、(かれ)はただ(くび)()るだけ。


 だからこそ昨夜(さくや)は、(かれ)寝顔(ねがお)(なが)めてばかりだった。()りが(ふか)く、(はな)やかな目鼻立(めはなだ)ち。(なめ)らかな(はだ)見惚(みほ)れる身体(からだ)。まっすぐ()つめる、(やわ)らかな(よる)()が好きだった。(かろ)やかなタッチをする、たおやかな(ゆび)が好きだった。


 プログラマーがぴったりだって、お(なか)(なか)から()まってたのかもね。(ほか)からはただ(えら)べなかっただけさ。たびたび()めてみても、(かれ)(まゆ)をひそめて、(かた)をすくめるだけだったのだが。


 ゆっくり、(かれ)横顔(よこがお)へかつて()面影(おもかげ)(かさ)なる。それは、故里(こり)()間際(まぎわ)父母(ふぼ)姿(すがた)だ。みなの距離(きょり)(ちか)く、(おのれ)素直(すなお)気持(きも)ちさえ(こぼ)せぬ(ひな)びた(むら)(あた)りを(あお)(かこ)まれた(りく)(かたまり)だった。


 大荒(おおあ)れの()無理矢理(むりやり)()かけた祖父(そふ)(おろ)かさも、(だま)って(あみ)をつくろった(ちち)背中(せなか)も、唾棄(だき)すべきものだった。

 がぜを()(はは)(むらさき)()まった指先(ゆびさき)も、(ただよ)った生臭(なまぐさ)さも怖気(おぞけ)だった。

 家畜(かちく)闊歩(かっぽ)する(みち)も、大雨(おおあめ)()るたびすぐ使(つか)えなくなるテレビや部屋(へや)(あか)りも、すべてが()()(もよお)すものだった。


 あそこから()てきたはずが、結局(けっきょく)()たされぬ(から)っぽな(こころ)()たり(まえ)(かお)(かれ)から(なが)れた(なみだ)(むね)をえぐる。秘密(ひみつ)(なげ)きも(かか)()み、それでも(かれ)微笑(ほほえ)みかけたわけを(かれ)(かた)るつもりはなかったが。


 (かみ)をかきあげ、そのまま(みぎ)(みみ)たぶをさわる。かつて片耳(かたみみ)だけあけ、すっかり(ふさ)がったピアスの(あな)(むね)(あな)も、すぐ()えてみえなくなるはず。


 (おもて)()れば、生温(なまぬる)(ねば)つくビル(かぜ)がすぐそばを()()けてゆく。


 ああ、クールビズでこの(なつ)()()えられるものか。首回(くびまわ)りを圧迫(あっぱく)する(ぬの)がなくても()()てくる(あせ)(ぬぐ)って、(ぼく)(そら)見上(みあ)げた。(そら)(わた)(なな)つの(ひかり)(さが)すべく。

注釈

・ウィンドウ

マルチタスクOSにおいて、アプリケーションの表示のために設けられた領域のこと。つまり「別窓でひらく」の「窓」のこと。


彩雲さいうん

太陽の近くを通りかかった雲が、緑や赤、場合によっては虹色に彩られる現象のこと。瑞雲ずいうん慶雲けいうん景雲けいうん紫雲しうんなどともいう。様々な国で吉兆や幸運を呼ぶものとされている。


・虹

虹の色の数は、国によって異なる。7色以外にも、8色から2色まで、色の表現方法によって色数がある。また、虹色はLGBTのシンボルである。なお虹の旗、レインボーフラッグは6色、または7色で構成されている。


・インド人とプログラマーの関係

インドは優秀なプログラマーを多く輩出しているが、そこにはカースト制の影響があると指摘する説がある。

インドではカーストによって就くことができる職業に制限があるが、プログラマーやCGクリエイターなどは、経典には載っていない。そのため、カーストによる制限を受けない職業として人気があると言われている。


・インドにおけるLGBTをとりまく環境

2018年9月6日、インド最高裁が同性間の性行為に罰則を設けていた刑法の規定(インド刑法377条)について、違憲とし、削除する判断をくだした。それまでこの法律により、同性愛者は10年以上刑務所に収監できるとされていた。(旧英領時代のものであり、スリランカなどにもその法律が残っている)ただし、結婚は同じカーストの相手とのお見合いで決まる比率が80%と言われており(なお、お見合い結婚の離婚率は一桁台と言われている)、LGBTに限らず自由恋愛は難しい。


・がぜ

古語でウニのこと。地方によっては、方言としてウニ全般のことをがぜと呼ぶ。

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