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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠


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『めがみさま』はこたえない

第24話、第25話はアンリ様主催の企画「告白フェスタ」参加作品です。


条件:「め」「が」「み」「さ」「ま」「か」「ざ」を使用してはならない

 テーブルに置(お)いてあるのはふるふると揺(ゆ)れるプリン。胸焼(むなや)けしそうなそれを食(た)べ、わたしは今日(きょう)もにっこりと笑(わら)う。


「おいしいねえ」


 わたしはオリジナルの情報(じょうほう)をもとに、白衣(はくい)の男(おとこ)の望(のぞ)む答(こた)えを出(だ)した。プリンはオリジナルの大好物(だいこうぶつ)。よってこの答(こた)えは正(ただ)しいはずなのに、あなたは表情(ひょうじょう)を曇(くも)らせる。あなたに笑(わら)ってほしいのに、偽物(にせもの)には何(なに)もできない。あなたの心(こころ)の穴(あな)を消(け)すことも。


 わたしはオリジナルの伴侶(はんりょ)によって作(つく)られたクローン。代替品(だいたいひん)のひとつだ。男(おとこ)との記憶(きおく)は、実験(じっけん)をより良(よ)く行(おこな)えるように与(あた)えられた電気信号(でんきしんごう)。すべてオリジナルの持(も)っていた思(おも)い出(で)。


 それなのにあなたの側(そば)にいると、どうしてこんなに痛(いた)くて、苦(くる)しいのだろう。あなたに触(ふ)れたい。あなたに触(ふ)れられたい。実験動物(じっけんどうぶつ)にだって心(こころ)はあるのだと、あなたを愛(あい)しているのだと伝(つた)えたならば……。いいや、仕様(しよう)のない想像(そうぞう)はよそう。


 あの人(ひと)の心(こころ)にあるのは、オリジナルのことだけ。同(おな)じ遺伝子(いでんし)を持(も)つはずのわたしたちは、ただの模造品(もぞうひん)。検分(けんぶん)し、やはり異(こと)なるものだと結論(けつろん)づけたあと、汚(よご)れた白衣(はくい)の男(おとこ)はわたしたちの命(いのち)を躊躇(ちゅうちょ)なく手折(たお)る。


 どうやらわたしも処分(しょぶん)することにしたらしい。あなたは左手(ひだりて)で淡々(たんたん)とわたしを持(も)ち上(あ)げた。わたしは暴(あば)れることもせず、それを受(う)け入(い)れる。愛(いと)しい人(ひと)の手(て)によって生(せい)を終(お)えるわたしは、きっと幸(しあわ)せ者(もの)なのだ。


 愛(あい)する人(ひと)を傷(きず)つけたわたしにお許(ゆる)しを。天(てん)におられる尊(とうと)き女性(ひと)にわたしはひたすら祈(いの)る。

 どうぞあの人(ひと)の心(こころ)を凪(な)いだものに。もちろん応(いら)えなど来(く)るはずもない。それでも、ただ祈(いの)るのだ。


 あなたの温度(おんど)は気持(きも)ちいい。これだけはわたしに与(あた)えられたわたしだけのもの。赦(ゆる)しにも似(に)た温(ぬく)もり。


 ああ、ようやっとわたしも知(し)りえた。胸元(むなもと)で震(ふる)える白桃色(はくとういろ)の球体(きゅうたい)。あなたに寄(よ)り添(そ)うそれこそ、あなたの欲(ほっ)する救(すく)いそのもの。大丈夫(だいじょうぶ)、大切(たいせつ)なものはもともとあなたのすぐそばにある。あなたは孤独(こどく)ではないのだ。


 溢(あふ)れる雫(しずく)は死(し)への恐怖(きょうふ)でも苦痛(くつう)でもなく、ただ歪(いびつ)なあなたへの想(おも)いゆえなのだと告(つ)げずに、わたしは意識(いしき)を手放(てばな)した。

こちらは、あっきコタロウ様作『そしてふたりでワルツを」(https://ncode.syosetu.com/n9614dm/)のキャラクター(ジュンイチくん&カミィちゃん)をお借りしたifSSです。よろしければ本編をご覧ください。


※告白:1、秘密や好意を相手に伝えること。2、神への懺悔(告解)

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