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『かんむり』のない王様

あっきコタロウ様へ捧ぐ


条件:部首に「かんむり」を含む漢字を使ってはならない

赤い影が(まも)るは、月の王。

稲妻の(きら)めきは狩りへの(いざな)い。深い闇を切り裂いてゆく。

(うず)くのは、熱病に良く似た衝動。

永遠にも似た絆は、どんな色をしているのか。

怯えた獲物を前に、獣が歓喜の雄叫びをあげた。


仮面に隠されたる、王の心。

妃を飾り城を彩る。愚かな民よ、瞼を閉じ眠れ。

砕け散る鏡像、響き渡るのは慟哭(どうこく)、或いは(わら)い声。

拳銃から放たれた弾丸は、美しい弧を描いた。

後悔に揺れる魂は、赦しを得て女神の御許(みもと)へと向かう。


彷徨(さまよ)い歩く王、ともはただ悪鬼と孤独。

しとどに濡らすは青い涙か。それとも紅の滴か。

誰何(すいか)の声、決して返らぬ王の(いら)え。

積悪(せきあく)の王は光を拒み、自ら背を向ける。

尊大に傲慢に玉座に腰掛け、その瞳は何も映しはしない。


手折(たお)りたるは白桃色の心。(とげ)もなく翻弄される一輪。

(ちり)から拾い上げたまるは、王の欠けを埋めてゆく。

月の影に隠れ、蝶の羽ばたきは波をそよがせることもせず。

手紙は受け取られることもなく、やがて日記とその名を変える。

特別はただひとつだけ。(うつつ)には蝶が微睡(まどろ)む場などない。


嘆き悲しみ、諦めを知った幼い日。

煮え(たぎ)る怒りは、いつしか凍りつく憎しみに変わる。

泥濘(ぬかるみ)から見上げた晴天、透き通った同じ色の瞳。

()ぐことはもはやない。

望みを叶えるのは祈りではなく、力なのだと王は知った。


母の願い、託されたのは素早いはりねずみ。

ひと欠片(かけら)の希望。或いは底無しの絶望。

不遜な眼差しに射ぬかれ、(はね)をもがれた蝶は地を這う。

平穏は遠く、御伽噺は(ねじ)(きし)む。

星が流れまた堕ちて行く。


間違いを犯したのは誰なのか。

道標(みちしるべ)を失ったのは何処なのか。

無慈悲な始まりと惨たらしい終わり。銀はひっそりと黒く濁る。

女神はただ静かに見つめるばかり。

桃色の幸福の意味を王が知ることはない。


(やいば)に貫かれたのは驕り、組曲はそれでもなお続く。

悠遠に輝く月光は、憂鬱を忘れ踊るかのよう。

洋琴の音が天上より降り注ぐ。


螺鈿細工(らでんざいく)の城を捨て、なおも(まと)うは純白。

離郷(りきょう)し、王は災厄を撒き散らす。

瑠璃(るり)よりも鮮やかに、玻璃(はり)よりも軽やかに。

黎民(れいみん)を得るのは何時の日か。冷酷な一声の後に残るのは物言わぬ(むくろ)ばかり。

朧月(ろうげつ)は黙して語ることはない。


綿抜(わたぬ)きの頃、時は緩やかに満ちる。

(をこつ)るのは、黎明(れいめい)ではなく黄昏(たそがれ)

「ん」とは、「あ」より始まる万有の終わりだと女神は(ささや)く。

本作品で用いた辞典で、「かんむり」を持つ部首と分類されるのは以下の通り。漢字は一例。

(部首、部首名、部首の分類は記載している漢字辞典などにより異なります)


あさかんむり「麿」

あなかんむり「空」「穹」

あみがしら「羅」「罪」「罰」

あめかんむり「雲」「雪」「霊」

いりがしら「入」「全」

うかんむり「宇」「宙」「宝」

おいかんむり「考」「者」「老」

おおいかんむり「要」「覇」「覆」

かみがしら「髪」「髭」「髯」

くさかんむり「蒼」「薔」「薇」

けいがしら「彙」「彗」

だいかんむり「奮」「奇」「奪」

たけかんむり「笑」「答」「等」

つめかんむり「爵」「采」

とかんむり「扇」「扉」「戻」

とらがしら「虞」「虐」「虚」

なべぶた「京」「交」「亡」

はちがしら「公」「共」「兼」

はつがしら「登」「発」

ひとやね「会」「今」「余」

わかんむり「写」「冠」「冗」

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