『はひふへほ』にさよならを
条件:「は」「ひ」「ふ」「へ」「ほ」「ぱ」「ぴ」「ぷ」「ぺ」「ぽ」「ば」「び」「ぶ」「べ」「ぼ」を使用してはならない
突然の別れだった。
わたし、彼のこと、もうそんなに好きじゃないの。だって子どもみたいでしょ。ちらりと横目で店の真ん中にいる彼を見ると、彼女が冷淡にもそう言ってのける。あんなに夢中になっていたのが嘘のよう。
その男との付き合いの長さを考えると、余りにも酷いように思えた。なにごとにも全力で取り組む真面目さと、何度負けても立ち上がる闘争心が、わたしから見てもとても魅力的だったから。
英雄と称えられることもなく、だからこそ全身全霊で愛していたようにも思う。彼女こそが彼の最大の理解者であった。こんな蜜月が永遠に続くものと思っていたのに。残酷な別れ文句が宙に漂う。
わたしもまた彼を見る。今日もまた、頭に餡がつまった水や汚れに弱い英雄に、負けることになる憐れな男のことを。登場する時の謎の掛け声もこれで聞き納めなのだろう。画面越しに彼と会うのもいつ以来だろうか。常に隣にいる親だからこそ気がつかないのかも知れない。我が子がもうすっかりお姉さんになっていたなんて。
でも知ってるかい。 君が新しく好きになったそのアニメのキャラクター、例の彼と中の方って同じなんだよ。いつかこの事実に気がつくだろうか。娘が驚く姿を想像して、くつくつと喉を鳴らしてみた。