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落第サンタ

友達サンタ

作者: 高原 夕晞

「キズナさんって、俺以外の友達とかいるんですか」


 俺すらある意味では友達というカウントではないかもしれない、と不安半分興味半分で尋ねかけた。彼女は変わっている。何と言えばいいか、端的にいえば彼女は『サンタ』なのだと。サンタクロースとやらは大きな組織があるようでそこから抜け出して、でも名乗る事はやめていないという本当に変わった人だ。抜けた理由は大人にプレゼントを配れないから、理由も変わってる。


「友達になったことならありますよ」


 手に持つホットミルクのカップで暖を取っていた彼女はその話をするつもりらしい。守秘義務とかないのかな、個人だし倫理観の問題だけなのかも。

 個人的に言えば知らないジャンルの話を聞くようなものなので、俺としては楽しいから歓迎したい。



***


 とある年のクリスマスの日。明るい日差しの当たらない軒下。


「初めまして」

「……だれ?」


 締め切られた扉の外、しゃがみ込んで一人の子どもがそこにいた。洋装文化に馴染み切ったこの現代において珍しい反物。覆われるように余分に巻き付けながらいるところに彼女は話しかけていった。


「私はサンタです。あなたにプレゼントを届けに来ました」


 そんな答えを返しては隣に赤い服を纏った彼女が隣に腰かける。人を安心させるような笑みを浮かべている彼女に対してまだ警戒のまなざしが向いたままだった。


「サンタというものは知っていますか?」

「……おじいさん」

「そうですね、初代はおじいさんでした」


 今は私みたいにおじいさんじゃなくても、サンタがいるんですよ。彼の様に一人で配れないのでみんなで少しずつ協力して。そう彼女がいえば悪戯っぽく人差し指を唇の前に立てた。


「私がいったこと、内緒にしていてくださいね?」


 反応は何も返ってこない。話を聞いていたかすら定かではないようだ。彼女は一度顔色を確かめるように相手の顔を覗き込んでは、ぽんと両手を打ち合わせた。目の前でやられてはその眼がぎゅっと閉じられるの当然のこと。怪訝そうに視線を向けるも彼女は気付かないまま隣へと座り直す。そして彼女は何を思いついたか、腰に付けた鞄を探ると小さな布をぬった塊、いわゆるお手玉を取り出した。


「幸せな時間を過ごしてもらうのには楽しむのが一番ですよね」


 取り出したお手玉を器用にジャグリングしていく。二つから始まって、一つ増え更に一つ増え、それが繰り返されて最後には7つが器用に回転していた。


「楽しくありませんか?」

「……なんでそう思うの」


一つ、目の前のその子どもに渡すようにジャグリングを続けながら尋ねたその言葉はあっさりと切られた。二つ、更にお手玉を重ねては彼女は笑顔を向ける。


「どんな瞬間も楽しいに変えられるんですよ。考えながら変えるのは難しいなら、ただ感じればいいんです」

「変だよ、あなた」

「サンタはいい子の味方ですもの」


 微妙にかみ合ってるとは言い難い会話。二つのお手玉は彼女へ放り返されて、また七つがぐるぐると回り始めた。全てを片手に収めては鞄にしまい直す。どうやら、これはあまり好きではない様子、選択を間違えたかもしれない。

 言葉を交わすことは出来るようになった。でも、警戒が解けているとは言い難い表情。そんな様子にくじけることなく彼女は腕組み考え込んでから次の言葉を紡いだ。


「私、あまり冬の遊びを知らないんですよね。けん玉とかですかね」


 自身の鞄を探るように手を動かしては二人の手元に木製のそれを用意する。剣の部分と球の部分の両方を掴んでは彼女は不思議そうに首を傾げる。玩具としての存在は理解していても、それをどうやって使うのかまでは知らなかった。その隣で軽快な音が響き、彼女の視線はその音の主へ向けられる。


「すごい、綺麗に吸い込まれてるみたいです」

「普通だから、技でもないし」

「どうやってやるんですか?」


 持っていた球を離し、見様見真似で動かすもあらぬ方向へぐるりと回るのみ。目を細めて片を小さく竦めれば、彼女の手を掴むようにして動かす。それを真似るように動かす、見本で動かす。それを何度か繰り返せば、彼女も大きな皿へとのせることが出来るようになっていった。

 何度か出来るようになると、彼女はけん玉を膝に置いて小さな拍手をする。


「教えるの上手ですね、ご兄弟でもいらっしゃるんですか?」

「弟がいるけど」

「仲良しなんですね」

「そんなことない、断れないだけ」


 僅かに不快そうに首を振る、しかしその瞳は何か期待するように彼女を射抜いた。こうやって過ごす時間は嫌なものではなかったから。

 彼女が次に出したのは結ばれた紐。両の二本指にそれを掛けると相手へとそれを向けた。簡単なあやとり勝負、ゆっくりと火蓋が切って落とされた。


「どうして外にいたんですか」

「稽古はしたくない」

「せっかくのクリスマスですからね。自由に幸せを選ぶのは素敵な事ですね」


 彼女の問いかけに、ぽつぽつと言葉が返ってくる。どんな答えであっても彼女は否定せず、深くは尋ね返さないまま緩やかに肯定の表現でつなげていく。あやとりの糸も同じように二人の間をいったりきたり。


「私はサンタですけれど、君の名前は教えてくれませんか?」

「名前は好きじゃない」


 手にかかっていた紐をぎゅっと握りしめて視線を落とす。心地いいとはとても言えない静寂。口を思わず開いたままにしていたことに気付けば彼女は、仕切り直すように自分の頬を持ち上げる。


「呼ばれたいように名乗ればいいんですよ。友達ならば、そう呼んでくれますから」


 私だってサンタと名乗っています。本当はプレゼント配りに忙しいはずでしょう? と冗談めかして彼女が言えば、目の前の落ちていた視線があがり口角が弧を描いたのが見えた。


「夕霧さんは夕霧だよ」

「すてきな名前ですね」


 気が付けば地面は橙色に染まり始めていた。思えば何時間遊んでいたことだろう。それによるはそれこそ『サンタ』の活躍する時間のはず。別れの言葉を告げるべきか悩んで彼女へ視線を向けたそこに人はいなくなっていた。

 残されたのは羽子板、羽の予備の数はまだいいとしてその板が三枚なんで半端な数なのはどうしてだろうと、尋ねたくても彼女はもうその場から消えていたのだから無理な話。


「たのもー、わたし達は道場やぶりだー!」


 先ほどとは異なる声が響いた。続くようにそれを口調だけは諫める声。その声色は楽しそうで、最初の彼と心境は一緒なのだろう。

 稽古を邪魔されたら怒られるかもしれない。自分のため、と誤魔化すように腰を上げて羽子板の先を侵入者へと向ける一人の少年がいた。


 続く会話を確かめないまま、一人のサンタは次のプレゼントを配りに歩き出した。


***


「迷惑かけてないですか」

「話を聞いておいてその感想は酷くありませんか?」


 すっかり冷めてしまったカップを両手で抱え込んだ彼女は僅かに拗ねるように頬を膨らませた。実際に感じたことをいうのは何となく気恥ずかしい。勿論俺がその話の当人ではないけれど。

 やっぱり彼女は幸せを贈る『サンタ』であるのだと思ったのだ。きっといくら賞賛しても、当然だと受け流されてしまうだろうから、絶対に口になんて出せない。言った俺だけ照れるなんて、何だか負けた気がするだろ。

 今年も大人へのプレゼントはなかったみたいだけど。中途半端な俺を幸せにするというのは達成されているから、妥協しているのかな。俺にはよくわからないや。

 楽しいクリスマスの夜は更けていく、それだけは確実な事だった。


読んでいただきありがとうございます。

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