3.君の名は。
赤門と薺は唖然としていた。本当に言葉を失って固まっていた。
2人の目の前の、千人に聞いて九百九十九人が美少女だと口を揃えて答えるほどの美少女は、目の前の自分を見て唖然としている2人に戸惑いながら言う。
「あ、あのー...」
実際、こうなってしまうのは最早仕方のないことだ。扉をあけたら目の前には美少女がいて、完全に不意打ちだった。整った顔だちに、汚れを知らないほど純白の髪は腰のあたりまで伸びている。そして、鮮やかな、今まで見てきた中で最も鮮やかな赤い、大きな瞳でこちらを困ったように見ていた。そして、そこにさらに声までもが透きとおるような、美しい声の持ち主ときた。
薺の名誉のためにも、赤門のためにも補足するが、薺も一般的には超では足りたいほどの美人だ。顔立ちは整っていて、大きい街に行けばモデルにスカウトされないことがないほどの美人だった。スカウトされすぎて「またあなたですか」感を醸し出したときも何人か...
わかりやすく例えるならば、どんな学校でも、学校一の美少女は堅いくらいの。
赤門は、はたと気づくと一瞬薺の顔をみて深く深呼吸をする、と同時に赤門は思う。
「危ない、危ない...高嶺の花どころか、この世界の上に咲いてる花だよこの子は。薺が隣にいなかったら本当に、危なかった...」
「おい、薺よ、帰ってこい」
「あ、え、赤門...?」
「はい、おかえり。で、待たせた、悪い」
「いえ、構いません。まず、お2人は夢東赤門さんと薺さんで間違いないようですね?」
「おう。で、君が観測主代理の言う方なの?」
「そうなります、これがあるので」
そう言うと、さきほど空から降ってきた羊皮紙の半分くらいの大きさの、これまた同じような羊皮紙を2人にみせる。そこには
何も書かれていなかった。
そう書かれていたわけではない。事実、何も書かれていない羊皮紙だった。もちろん裏に何かかいてあるわけでもなかった。このときの赤門も薺も深くは考えず、ただの目印のようにしか思っていなかった。さっきと同じように赤門が触れば文字が出るのかもしれないが、そこまで頭が働かなかった。
「まぁ、とりあえず、入りなよ」
そう言って中へ入るようにうながす赤門、それにならうように薺もその子を中へ招く。
「では、失礼します」
「そこは、『ただいま』でもいいんじゃないか」
赤門は空から降ってきた方の羊皮紙をその子に見せながら言う。
「そ、そうよね、あなたは私達の養子ということになるのだから、遠慮しないで」
「はい、ありがとうございます!では改めて、ただいま!!」
それはもう、とてもとても嬉しそうな笑顔で言う。
その笑顔の破壊力も凄まじく、天使が下を向いて落ち込みながら100m走を10秒で走ってしまうのではないかという速度で逃げていきそうな笑顔だった。
今回の赤門は速かった。なんとか目をそらし自重した。だが、薺はそうも行かなかった。赤門は薺の肩を揺らして戻す。
「おーい、帰ってこい」
ハッと気づく薺。
「慣れろ、最早それしか言えん」
アドバイスにもならないアドバイスを聞いた薺は何か決意するような表情で言う。
「が、頑張るよ!私、頑張るよ!!2人とも私の成長みてて!」
「は、はぁ」
これでは破壊力の持ち主としては対応に困ってしまう。
赤門はこのとき不思議に思っていた。やけに嬉しそうだと、あくまでも赤門たちは記憶にある限りには完全に初対面。そんな中でここまで嬉しそうな表情をされると、どうしても裏がありそうで疑ってしまう。
たが、それ以上に不思議なことがあった。何故かこの子の雰囲気とでも言うべきものが懐かしいのだ。薺はどう思っているかあとで聞いてみようと、このことを頭の隅においやり赤門は奥へ行くよう指示した。
「で、まず、君の名前と、年は聞いていいかな?」
3人は今朝薺が座っていた濃い茶色のソファーで話していた。机を挟んで、赤門と薺、その子で向かいあうかたちだ。
「はい、申し遅れました、トルシスといいます。今日からよろしくお願いします!」
その子は、トルシスと名乗る女の子は元気よくそう挨拶した。
「おう、よろしく」
「うん、よろしくね」
「はい!で、年のほうですが、だいたい16か7くらいだと思っていただいて構いませんよ」
「随分と曖昧なようで...」
「すいません、そのあたりを説明しようとすると制限がかかるので...」
申し訳なさそうに俯いて言うトルシス。彼女の言う制限とは空から来た方の羊皮紙にあったことを言っているようだ。
「じゃ、じゃー!私からもいいかな?」
と薺はこの空気を変えるように言った。
「はい、なんでしょう?」
「好きな食べ物とか、嫌いな食べ物はある?」
「そうですね、嫌いな物は特にないように思います。好きな物は、りんごなんかはとても好きです」
「そっか、何かあったら言ってね、遠慮せずに」
「はい、ありがとうございます」
「じゃー、トルシスから俺らに聞きたいことは?
そもそも、トルシスって呼び捨てでよかった?」
「ええ、構いませんよ。お2人に聞きたいことと言われましても、観測主代理からある程度知識を頂いているので、今のところは...」
「そっか、なるほど。じゃー、時間も時間だしあとは朝になってからということで、それでいいかな?」
と言って、赤門は2人を交互にみる。
「私はいいよ」
「私も構いません」
「でも、赤門、寝る場所どうするの?」
「トルシスは薺のベッドで寝なよ、薺は俺ので寝な」
「赤門はどうするの?」
「これで寝るからいいよ。それに、男が普段寝てるやつよりも同じ女が普段寝るベッドの方がいいだろうし、同じ部屋に男がいるってのもなかなか嫌だろうし」
「これ」と言いながらソファーをポンポンする赤門。
「そんな、申し訳ないですよ!」
と困ったように言うトルシス。それの表情をみて社交辞令じゃなくおそらく本気で言っているらしいと考える赤門だった。
「まぁ、あんまり気にするな」
「と言われましても、少なくとも赤門さん私のこと相当疑ってますよね?そんな中で薺さんと私を2人にするっていうのは抵抗があるんじゃ?」
「そりゃそうさ、めっちゃ疑ってるし、超心配だ」
「もう少し言い方考えなよ」
と、赤門をなだめるかのように言う薺だったが、内心薺も怪しんではいた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。それに、疑うのは当然のことですし。あと、私は赤門さんなら一緒の部屋でも問題ないと思ってますので」
「随分と俺は信用されてるようで」
「お2人のことはちゃんと信用してますよ!まぁ、そこに関することには制限がかかるのですが...ただ、観測主代理から頂いた知識という部分もあります」
「なるほど、観測主代理というのはどこまで知ってて何を教えたのやら」
あきれたように言う赤門にトルシスはまじめな表情で返すのだった。
「あの方は全部を知っておられるかと...」
「まじかよ、カッケーな!」
「それに、特に当たり障りのないような内容しか頂いてませんので」
「そうなんだ、節度のあるような方なようでよかった」
今度は薺がそれに返した。
「まぁ、まず、じゃー、全員同じ部屋ってことでいいのね?」
その赤門の質問に対して2人は頷いて返すのだった。
その後の話し合いの結果、トルシスは薺のベッドで、薺が赤門のベッドで、赤門は2人の間で布団をしいて寝ることに。
そして、今日のところはトルシスの寝間着は薺のおさがりということに。薄いピンク色の地に白の線でチェック柄になっている寝間着だった。薺も「カワイイ!!カワイイ!!」と超絶賛するほどに似合っていた。実際、赤門も似合ってると思ったのだが、「これは薺にまた着せたいな」なんてことを考えていた。
「お2人は同じベッドでなくて良いのですか?」
「私は別にいいんだけど、赤門が...」
「そう、俺が薺が至近距離にいると思うと、テンション上がって寝れないからしないんだよ」
「あ、あはは...」
なんとも言えないような苦笑いを浮かべるトルシスだった。このとき薺はとても恥ずかしく、顔も赤くなっていたということはこのときのことが電気を消した直後だったために誰にも分からないはずだった。
「まぁ、とりあえず、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
赤門が主人公なだけに薺を喋らせる機会が少ないのではないかと心配になっているウタゲゴです。前回からある程度間はありましたがこうして出せました。まだまだ頑張りますよ!8/27
※8/28日本文修正しました。
※9/2日本文修正しました。
※1/6日本文修正しました