26.薺の考え
お久しぶりです!大変お待たせしました。どうぞお楽しみください。
「まぁ、これくらいはな」
赤門は興味なさげに犬人に言った。言いながらに、犬人が避けた先へ今度は『楓』で同じことをする。
今度は焦りの表情を見せながらに、紙一重で避けた。
「本気で死ぬぞ、おい!」
「なんか隙があるように見えてつい」
クロとしてはそんなに隙があったようには見えなかったので、ふざけているのだろうと勝手に結論を出した。
「それより、俺としてはお前にアレを任せるつもりだったんだが」
「アレって、あのハイエナたちか?馬鹿言うなよ、あんなのこっちが手を出さなくても勝手に進むさ」
「お前がそういうならそれでいいんだけど」
「ところでよー、俺もお前に聞きたいことがあるんだが、どうせ答えないだろ?」
「分かってるなら聞く必要もないだろ」
赤門はからかうような口調で言った。
「それなら、トルシスちゃんの質問なら答えるんだろ?」
「まぁ、そうだな」
これについてはクロも何となく考えていた。今のこのタイミングなら、他の誰かが聞きたいことをクロが赤門に聞いても答えることを。
「っても、どうせ俺はなんでもいいんだけどな。俺としてはトルシスちゃんがこの絶好のチャンスを逃していいのかって心配なだけ」
「それは...」
「まぁ、そうだな、なんでも聞いてこい。後悔なんてして欲しくはないからな」
「わかり、ました...では、聞きます」
クロは1度目を閉じ、覚悟を決めたように目を開けた。クロとしては今回赤門に何かを聞いたことで、今の関係が変わるのが怖かった。
トルシスがうさぎとして飼われていた頃は、人間の言葉がわかるはずもなく、温かい感情だけがなんとなく伝わってくるだけだった。それが今は言葉をかわし、例えもし表面上だけの付き合いだったとしても、それだけだったとしてもクロは嬉しかった。だからこそ、この関係を壊したくなかった。
だが、ここは恐れず踏み込むことにした。ここで踏み込まなければ二度と機会はないだろうと判断したから。
「赤門さんはなぜ相手を殺すときだけ硬質化した木刀をもとの状態に戻すんですか...?」
「前に言われたんだよ、大事な人に。
『どんな小さい者でも、どんな悪でも、同じく命がある者だ。そいつには家族や友人、そいつの死を哀しむ者は確実にいるはずだ。いないと断言するやつもいるが、それはそいつの一生の中で出会ったことがなかっただけで、確実にどこかにはいるはずだ。その悲しんでくれる者たちのために、命を軽く扱ってはいけない。』
みたいなことを前に言われて、それを考えに考えて得た結果がこれ。相手の命を奪うのが簡単なことにならないように、何の変哲もない木刀で殺す、木刀に傷がつかないように、変形しないように戦う」
「そう、なんですね...そんな立派な方が...」
「ほんとに、凄い人だった。」
クロにはその立派な人物に、会ったことがなくとも心当たりはあった。それを聞くのはやはり怖かった。
そして、話し合いの結果まずは街の方へ戻ることになった。
犬人は「どうせまたすぐ会える」と言ってどこかへ去っていった。
街に入ってから赤門たちはある者につけられていた。正確には赤門がつけられていた。周りの者たちには見えていない。声も聞こえていない。
その者は空中にフワフワ浮いていた。赤門の視界に入ったり出たりして、全力で己の存在をアピールしていた。視界を狭めたり、視界を覆うように目の前に出てみたりしていた。
その者のことを赤門は気づかないフリをしてしたが、とうとうその者がしびれを切らして声をかけてきた。
「ねぇ、ほんとは見えてるんでしょ?聞こえてるんでしょ?」
赤門は尚も見えていないフリ、聞こえていないフリを貫いた。
「んー、こっちのことがわからないなら仕方ない。折角だし、この子の命もらっていこうかな...」
その者は、子供の姿をしながら、子供の声をしながらに酷く殺意のこもった声でその言葉を言いながら赤門の左隣の薺に手をのばした。
一見して年は12か3で、真っ白な服を着ている。
あのときの天使の女の子の方が赤門をつけていた。
そして、今薺から命を奪おうと手をのばしている。
薺に触れようとした瞬間、赤門は天使の首を楓を使っておとしにかかる。赤門の攻撃は確かに天使にあたった。そして、天使の身体は煙のようになったかと思えば、すぐにもとの状態へ戻った。
「ほらやっぱり見えてる。っていうことは聞こえてもいるんでしょ?今夜そこの道を真っ直ぐ言ったところにある倉庫で待ってるよ。」
赤門はただ睨みつけるだけで何も返さない。
天使はまた煙のように姿を変え、今度はそのまま消え去った。
クロはその赤門の天使への攻撃に反応出来なかった。
クロとしても天使がいることはわかっていた。ハイエナを連れた男が死んだときにいたこともわかっていた。自分も手をかして天使を追い払うなり、殺すなりするということも考えていた。
だからそれなりに戦う準備は出来ていた。その状態にも関わらず赤門の攻撃に反応出来なかった。
結局赤門は、薺が関わればどんなことでもするということだ。天使であろうが、悪魔であろうが、神であっても殺す。圧倒的なまでの力でも速度でも自身の限界を超えて出す。
そんな動揺したクロに、心の中から声をかけてきた者がいた。クロと、トルシスと全く同じ声で声をかけてきた。
『そんなに怖いなら逃げればいいじゃん。あのときだって心の中で殺されかけて、今の力だって反応出来なかったでしょ?』
その声にクロはさらに動揺する。何も言い返せない。
『どうせ目的だって曖昧なんだから、逃げちゃえばいいのに。』
クロはその声に同じく心の中で答える。そして、同時に胸の前である物を掴む。彼女以外には見えていない、だがたしかにそこに存在している、シードと呼ばれる物。
「うるさいよ、『怠惰』...ちょっと黙ってて...実際、そうだよ。ほんとに目的なんて曖昧だよ。赤門さんたちをあの部屋まで連れていく、ほんとに曖昧だよ。連れて行って何になるのか、私は何がしたいのか...全然思い出せない。でも、連れていったら全部思い出す。私の願いはきっと叶う。私はあのときの、生き返ったときの私を信じる。だって、私はこんなにも強い意志を持って生き返ったんだから。」
『それなら、今だけは黙っててあげるよ』
そんな中、クロがシードを掴むような動作をしたことを、赤門は見逃さなかった。
やはりそういうことか、と赤門は思った。クロがシードを持っているからどうだと言うのではないが、その影にちらつく者のことが気になっていた。
そして赤門自身、シードの知識は少なからずある。
「そうそう、完全に忘れてましたけど、お土産です」
そう言ってクロが両手を後ろに回して前に戻すと、その手にはブレスレットと赤門が頼んだものが握られていた。
クロはブレスレットを薺に、赤門の頼まれ物は赤門にそれぞれ手渡すと説明をしてくれた。
「まず、薺さんのそのブレスレットですけど、それが魔法の杖の代わりです」
薺はそのブレスレットを眺めている。眩いまでの銀色の輪が2つ垂直に交わっているものと、その輪同士の交差した2点に埋め込まれるようにして填められている透明な石。その石はどちらも半球の形をしており、2つを合わせればぴったり1つの球状の石となりそうであった。
「まぁ、まずつけてみてください」
クロに促され、薺がブレスレットをつけると、石がそれぞれ光り色が、赤と白に変わった。赤は韓紅に、白は白百合色にそれぞれ変わった。
「これでこの触媒は薺さん専用になりました。この石は魔法を使うときに代償として消費されるようになります。ただ、この石はどちらもどれだけ代償に使ったとしても半永久的に尽きることのない物なんです。」
「って言うことは私、魔法の代償に困ることないの?魔法について全く知らないのに?」
「そうなります。それとさっきも言ったようにそのブレスレットは完全に薺さん専用になったので、他の誰かがそのブレスレットを使おうとしても使えません。そういうふうに造られてると思ってください。と、あと、この場合だと...白の方がマイナスのベクトルで、赤がプラスのベクトルの代償になりますね。まぁ、この話はまた今度説明するので、『白がマイナス、赤がプラス』ってことだけ覚えておいて頂けたらそれでいいです。」
「うん、わかった。」
薺は先程からずっと、こんなめちゃくちゃ良い物の話を街中で堂々としていいのだろうかと疑問に思っていたが周囲を見渡すと薺とクロに視線を向けている者はおらず、ほとんどの者が赤門にチラチラと視線を向けていた。そして、赤門を見ながらコソコソ、ヒソヒソと話をしている者もおり、薺たちの会話については誰も聞いていないようだった。
しかし何故こんなにも赤門が注目されているのかと、薺なりに考えてみた。
・赤門のかっこよさ等に街の者たちがようやく気づいたから
・昼間の決闘のことで赤門が強すぎる、かつよそ者なのでどう接したらいいのかわからないから
前者なら誇らしい話ではあるが、気づくのが遅いとも言いたいところだった。
後者の方が現実的ではあるが、
実際のところそこまで興味もないので薺は考えるのをやめた。
薺としては今の状況に満足している。だから周りの環境がどうなろうとあまり興味はない。
隣に赤門がいて、クロが帰ってきた。
薺にとってはこれで充分だ。興味がないという点においては、赤門以上に薺は冷たいと言える。
赤門は周りを常にある程度警戒しているために周囲に対して気を配っている。だからこそ気になることも多い。ヒト属以外の生き物がほとんどいないことだ。ペットや家畜として飼われている生き物はある程度いるが、野生と呼べそうな生き物が鳥以外にいない。虫の類もほとんどいないのだ。気候や地形の問題なのか、或いはもっと別の理由なのか。
他にも気になることはある。薺ですら気になった点だ。昨日赤門が薺に警告した人物のことだ。
『俺の考えすぎならいいんだが、あいつには、───には気をつけろ。一人で外出すること自体少ないとは思うけど、一人のときにあいつに会ったら、それっぽいこと言って離れろ』
その者が何人かを連れて、人通りの少なそうな小路に入って行く姿が2人には見えた。
この薺の周りに興味がない考えがどこからきてるのかについての詳しい話は近いうちにすると思います。そのときはまたどうかお願いします!




