24.天使降臨ってほどでもないけど参上です
お久しぶりです!読者の皆様の中にも新生活が始まった方も多いのではないでしょうか?私も例に漏れず、新生活が始まった身でなかなか時間がとれず、週末にかくようになってます...
赤門にまた声がかけられる。今度は内側からだ。
赤門E『おい、さっさと起きろ。寝坊するのは俺だけで充分だ。それに、約束だってあるんだ、いつまでも反故にするな』
それと同時に赤門に身体の感覚が戻ってくる。その感覚を求めるかのように右手を伸ばした。その右手は実際に前に伸ばされ、1本の木刀を掴んだ。
赤門はそれが何なのか、見ずに理解した。だから左手も伸ばして、もう1本の木刀も掴んだ。そして、地面から引き抜いた。そこで漸く、赤門が完全に戻ってきた。
土を払うように、その「赤い」木刀同士をぶつける。「ゴンッ」という音がするが、木刀には凹んだような様子も全くない。
赤門は木刀の切っ先をどちらも下に向けて、手を離した。すると、木刀は2本とも落ちることなく空中に留まった。
先ほど男に向けて剣を放ったときと同じやり方だ。
そこでやっと後ろを振り向き、ガバッと薺に抱きついた。薺も赤門の背中に両手を回す。
「ごめん、助かった。ありがとう、薺」
「私が赤門を助けられる機会なんてそうないからね。いつもは助けてもらってばっかりだし」
風の魔術を使いながら、ゆっくりとクロも降りて来た。
「クロもありがとう」
「いえ、そんな私は特に何も」
「こいつら持ってきてくれたんだろ?ほんと、ありがとな」
そう言って赤門は木刀2本に視線を向ける。
「それは私の力じゃ...」
「いや、全部知ってる。大変だったよな、あれの力は扱いづらいし」
『あれ』とは天秤座のことを言ってるいるのだと、クロはすぐに気がついた。実際、そうだったからだ。リブラは心の在り方が公正でなければ力を貸してくれなかった。だから、最初の最初はやや戸惑ったが、ほぼ無心になることでその課題をクリアした。超高速であったために、使用時間が短かったのは幸いだった。
クロはなんと言ったらいいかわからず、苦笑で返した。
赤門は薺から離れ、視線でクロに薺を任せる。
赤門は木刀を改めて掴み、男の正面に立つようにしてから言った。
「悪い、本気を出そうとして失敗した。だから、大人しく出来ることだけをすることにした」
男は何も言わずに構えた。
今度は赤門が内側に声をかける。
赤門『俺じゃやり方がまだ曖昧だ。任せていいか?』
E『別にいいぜ』
「よし、決めた。やっぱりこれしかない」
赤門は右手に持った、唐紅の鮮やかな赤い色の木刀を上下に軽く振り言った。
「こっちが椿」
次に赤門は左手に持った、真紅の深く美しい赤い色の木刀を上下に軽く振り言った。
「こっちが楓」
そして、赤門は椿の先端を前に、男に向けてから横に振った。
すると、赤門と男を囲うように赤い線でできた円が地面に現れる。さらにその線に合わせて、どこからともなく炎が現れる。高さは最も高くとも、赤門の膝のあたりまでだった。
赤門は足元の石を拾って、明後日の方向に投げた。その石が炎の上を通過しようとしたとき、赤門の膝くらいの高さまでしかなかった炎が火柱に変わった。投げられた石は跡形もなく燃え尽きた。
「こういうことだ。わかったよな?」
「大体はなぁ」
男は余裕そうな笑をうかべ、言った。
実の所、男は強がっている。先ほどまであの「悪の象徴」と同じ色の目をしていたと思ったら、今度は魔術なのか魔法なのかはともかく、その類のことをし始めた。そして、その結果に逃げ場がなくなった。
炎に触れば簡単に燃え尽きるだろうということは、現在のこの空間の熱さと、あの石のことを考えればすぐにわかることだが、それはわかってもどうやって逃げればいいのかは、全くわからない。逆に考えれば考えるほど、逃げ場の無さにどんどん絶望していく。
「まさか、魔法、ですか...?」
クロは信じられない、とでも言うかのような顔をしている。そんなクロに赤門は何でもないように言った。
「おいおい、やめてくれよ。たしかに俺はよく知らないとは言ったけど、使えないとは言ってないぞ」
実際、そうではある。だが、いま赤門が使っている魔法はそう簡単にできるものではない。
魔力自体にはないが、魔術や魔法には属性がある。そして、その属性の力を使いすぎれば身体が崩壊する。
今の赤門は、いつ身体が崩壊してもおかしくない程のレベルで『火』の属性を使っている。最初はクロもこのように考えた。
だが、赤門自身も赤門の身体も、全くそのような様子をみせない。クロでは仕組みを理解できなかったが、赤門がどれだけ優れた者かは知っている。とにかく、まずは様子をみることにした。第一、最強種の力をもってしても、あの炎の火柱を越えることはほぼ不可能だ。
このときのクロは他のことに精一杯で、後で気づいたことだが、赤門が先ほどから剣を飛ばしたり、木刀を宙に浮かせている技も魔術だ。
それと、もう1つクロは気づいたことがある。2日前、薺に噛ませたときに、赤門の右手の人差し指の骨はひびが入っていたはずなのに、いまはもうない。生き物は骨にひびが入ったまま行動すると、その部位から独特の音を出すようになる。もちろんそんな音は、『ヒト科ヒト属ウサギ』の最強種だからこそ聞こえてくる音ではある。
赤門の回復速度は、回復速度に限った話ではないのだが、最強種のクロからしても異常だった。
赤門は、男が全く攻めてこないので時間の無駄と、自分から攻めに行った。
木刀で攻撃を仕掛けるが、あえて避けられるような速度と軌道で攻撃し、それによってできた男の隙をついて脚を狙う。赤門は、彼の右脚の太ももを蹴る。そして、赤門の予想通り骨が砕ける。
ここで赤門が驚いたのは、彼は脚の骨が砕けたにも関わらず叫び声ひとつあげなかったことだ。赤門は心の中で彼を賞賛した。
だが、男はそこで右足から体制が崩れた。最早立つこともままならない。
赤門はこれ以上男は戦えないと判断し、炎の魔法を消した。炎は先ほどまで勢いよく燃え盛っていたにも関わらず、その場の草も周辺の草も全く燃えていない。
男は独り言をこぼした。
「生きることを諦めたつもりはなかったけど、流石にこれは無理だったよ───」
そして、男は右手の親指と中指で輪を作り、それを口元に持って行って指笛を...
赤門はそれを見て首を落としにかかる。
男は指笛を吹いた。赤門は一歩間に合わず、吹いた直後に『椿』で男の首を、何の迷いもなく落とした。
そして、その場から全速力で離れた。男の首から血が噴き出るからではない。むしろ、全く出ないに近いほどに出ていない。
「耳を塞げ!」
赤門は離れると同時にクロと薺に向かって叫んだ。木刀2本をまたも空中に留まらせることで、赤門は両手をフリーにした。そして、赤門はすぐさま薺の視界を、抱きしめることで塞いだ。そこから、クロの視界も手で遮った。
薺は言われた通りに両手で両耳を塞いだ。
ハイエナの群れが一斉に男の死体に群がり、食い散らかす。辺りが男の血で赤く染まっていく。
クロの耳はとてもよく聞こえる。目に見えなくとも、何が起きているかは簡単にイメージできてしまうほどには耳がいい。それが災いした。
だが、『南の世界』はどこに行っても戦場なことが多い。だから、クロとしても慣れていないわけではなかった。
故にクロは他のことを考え、音はそんなに気にならなかった。
クロは、赤門が男の首を落としたときのことを考えていた。彼女は『椿』も『楓』も軽く振らせてもらったときの音を覚えていた。そして、そこにある事実に理解が追いついていなかった。
赤門が男の首を落としたときの『椿』が風を切る音は、まさにクロが軽く振ったときとほぼ同じ音だった。だが、赤門が『椿』と『楓』を囮にして脚の骨を砕いたときは、もっと別の音がしていた。
赤門は獅子座の硬質化を使わずに、彼の首を落としたということだ。つまり、赤い色と形が綺麗なただの木刀で、赤門は他人の首を落としたということだ。
今になって思えば最初にハイエナたちと交戦したときも、あの木刀の音からして、赤門はレオの力を使わずにハイエナたちを殺していたことになる。
その場にいた誰もが、赤門は薺の視界を塞ぎながらも自分は横目で男の死体が食い荒らされる様を見ているかのように思われただろう。
だが、実際にはその光景を視界の中心に置きながらも、別の光景を注視していた。
男の死体の近くに、今まではいなかった少年と少女が満面の笑みをうかべている。歳は一見して、12か3くらいに思われる。どちらも赤門たちがトルシスと最初にあったときのような真っ白い服を着ている。少年たちを見ているだけなら微笑ましいと言われるような光景だが、その会話の内容と背景はまさに真逆のそれだった。
少年が少女に話かける。
「お姉様、やっと死んだね!」
「ええ、やっと死んだ」
「僕もう我慢できなくて、手を出しそうになっちゃってたよー」
「あら、そうなの?実は私もそうだったのよ」
「ほんと、そのお兄さんには感謝だね!」
「そうだね。でも、あのヒト心臓が...」
少女はそこまで言ってくすくす笑いだした。少年もたまらず、くすくす笑い始めた。
その少年たちは満足したのか、笑いおえると光の玉のようなものをそれぞれ下から両手で大事そうに支えて、天に昇っていくように消えていった。
死体の近くで満面の笑みを浮かべる彼らこそ、天使と呼ばれる者達だ。
赤門はその事実を知らないが、それでも関わってはいけないものということはすぐに理解した。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!天使はあんな感じの方向でいこうと思ってます。
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