2.離れたくないのです
本文では数字のほとんどを漢数字としています。時間に関係するものは算用数字でしているのですが、読みづらいこともあるかもしれないのですがどうかご理解とご協力をお願いします。その使い分けには特に意味はなく、気分なのです。これからもよろしくお願いします
本当に突然で、強い風だった。赤門はパニックに陥らずに、こんなときこそ男の見せ所と、薺をかばうように抱き寄せた。ここまで強い風なのだから、何が飛ばされてくるのかわかったものではない。それに、窓は開けたままなために家の中が散らかっているかもしれないと考えると、とても腹が立った。風はすぐにやんだ。そして、赤門は思ったことをありのまま言う。
「俺と薺の月見を邪魔しやがって!!」
「それもあるけど、家の中が散らかってるかもとか気にしようよ」
どうやら赤門と同じように薺も家の中を気にしていたらしい。だが、そのことを気にする時間はとても短かった。何故なら家の中は風が吹く前と比べて特別気にしなければならないところなど見当たらなかったからだ。
赤門は考える。自分ができる精一杯の力で考える。
「あれだけの風なのに、なぜ何もなかったかのような状態なのか?」
「なぜ突然あれほど強い風が、他の家の窓や屋根を揺らす音一つたてずにここまで吹いてきたのか?」
「そもそも、風は本当に吹いたのか...?いや、薺も家のことを気にしていたことから考えても、風は少なくとも俺達二人周辺には吹いたはずだ」
疑問は尽きないが、一旦まずは他の家の様子を窺おうと外の方を見てみると、一枚の紙が通常では有り得ない軌道を描きながら、あからさまにここを目指して降ってくるではないか。
紙がちょうど赤門の目の前までくると、赤門は思わずその紙をとってしまった。下の方が破れてしまっているが、羊皮紙のようだ。そして、赤門がとると同時に文字が次々に羊皮紙にあらわれる。
「何て、かいてあるの?」
「よし、読むぞ...」
二人とも通常では有り得ないことが重なってしまったために目の前のことを一つ一つ理解することで精一杯であった。
夢東赤門様・薺様へ
観測主代理より
悩み大きし貴様ら夫婦に夢東薺の心臓を完治させるチャンスを与える。これから来る、この羊皮紙の続きをもった者の願いを叶えてやれ。願いと言っても、無理難題ではない。だが、貴様らにしか出来ないことだ。
本人に願いの内容を聞いてもいいが、その者の言動にはその願いが関わることにおいて制限がかかっているため無駄なことだ。そして、その者は貴様らの養子とする。期限は次に日付けが変わったときより30日間、どうその者と接するかは貴様らの自由、このチャンスを棒にふるも自由だ。例え失敗しても今までと何も変わらない。ただ、その者の願いが叶わぬだけだ。
「だ、そうで...」
「ここまで立て続けに変なことが起こることを考えると信じていいのかな...」
「信じるか、信じないか、それも自由っていうことじゃないか?」
「そう、だね...」
「まぁ、何にしても俺は全力でやるよ。薺のためだ」
「無理はしないでよね」
「と言っても、この件は俺達二人でなんとかするものなんじゃないか」
「そうだけど、赤門はこういうシチュエーションなだけに楽しんでない?」
「おっと、バレてたか」
赤門はそのことを悪く思っている様子など見せずに続ける。
「こんなにもおかしいことが目の前で起きてるんだ、ファンタジー好きにはたまらないってもんだろ!!」
「まぁ、赤門が楽しんでる姿を見るのは私も好きだし、ほどほどに頑張ろうか」
「おうよ!」
「で、そろそろ離して」
「やだ」
即答した。赤門は先ほどからずっと薺を抱きしめたままなだった。
「とりあえず、さっきはかばってくれてありがとう。もうそろそろ大丈夫だと思うから離して」
「んー...」
さてさて赤門は大いに困った。薺をあまり困らせたくはないが、困らせてみたくもあり、何より離れたくない。さてさてどうしたものかと考えていると、薺からこんな提案が。
「明日のお昼ご飯は私が作るから離れて」
この家においては赤門と薺が一週間交代でご飯を作ることになっている。
「了解した、お願いするよ」
名残惜しそうに言うと同時に赤門は離れることにした。これまた名残惜しそうに離れた。薺は「やっと離れた」と言わんばかりの表情で疲れた様子だ。その状態を承知の上で赤門には言っておきたいことがあった。真っ直ぐ薺の目を見て言う。
「薺、お前のことは俺が命をかけて、何があっても絶対守るから。愛してる」
そう言って、赤門は薺の唇に自分の唇を重ねた。薺は驚いた様子ではあったが抵抗はしなかった。
「ありがとう、頼りにしてる。私も愛してる」
薺は同じく真っ直ぐ赤門の目を見て、恥ずかしそうに言った。そこからすぐに下を向いてしまう。
そして、薺は同時に思った。この言葉は嘘偽りのない、今すぐにでも命をおとす覚悟のセリフなのだと。
何故なら赤門は、薺だけでなく誰に対しても嘘をつくことはない。隠し事をすることはあっても、出来ることはやるが、出来ないことは出来ないと言うからだ。
それに、赤門は誰が相手でも「絶対」と言う言葉を使わない。本人は「絶対がある世界なんてどんなにつまらないことか。きっとその世界はどんな世界よりも不幸な世界だ」という持論を持っている。
そんな中で「絶対」を使うといことは赤門はどんな状況でも自分を守ってくれるということだ。薺はそのことが嬉しくもあったが、悲しみが強い気がした。もし、赤門が薺をかばっていなくなってしまったら、薺は「絶対」を死んでも恨み続けるだろう。
そういったことを薺が考えているとは露知らず、赤門は薺のセリフが嬉しくて、嬉しくて顔のニヤケがとまらなかった。そして時折、傍から見れば気持ち悪い笑いが出ていた。
だが、薺は薺で満更でもないような表情をしていたのは、薺が下を向いていたから、赤門には見えていなかったということで内緒の話としよう。
そんなとき、赤門たちの家の春書店ではない方のインターホンがなった。赤門はその音を聞くと瞬時に時計に目を向けた。
「なるほど、そう言うことか...」
「どうしたの?」
「時計を見みてみな、今は0時00分」
「が、どうかしたの?」
「たった今から羊皮紙のチャンスというのが始まったということだよ」
「あ!じゃー、今インターホン鳴らしたのが、あの...」
「そういうことになる」
薺の「あの」というのは言うまでもないことだが、観測主代理で言うところの「その者」ということだ。
今回も、今回とて悩み悩んでここまでたどり着きました。キスシーンのところは自分でかいててとても恥ずかしかったですねw もう2度とかきたくないですけど、赤門君のことですのでどうなることか...8/18(19)
※本文修正しました。1/6