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夢東一家  作者: ウタゲゴ
やっと異世界な第二章
18/27

18.二人を守れるくらいに

遅れましたが、近いうちに19.も投稿する予定です。どうぞおつきあいください。

「私じゃ、これが限界ですね...」


苦笑しながらクロは言った。クロは右足を半歩ほど前に出している体勢だった。このことから赤門は、クロが範囲テリトリーに近づこうとしていたのだと予想する。

そして、クロの後ろから薺も走ってやって来る。



***



赤門が部屋を出た後のことだ。


「赤門さん、いっちゃいましたね」

「まぁ、赤門はこういう空気慣れてないから」

「そう、なんですね。

言っておかないといけないことあったんですよね...」

「そっか...」

「ちょっといってきますね。すぐ戻ってきます」


そう言って部屋を出て行こうとするクロを、薺は慌てて引き止める。


「あー!待って!待ってー!!正直クロだけじゃ心配だから私も行くよ」

「心配、ですか?」

「そう。クロだけだと、タイミングの悪いときに赤門に近づいちゃって殺された、なんて嫌だからね」

「え...?」


少しだが、クロの顔が青くなる。


「いや、最悪の場合だよ?気をつければ特に問題ないけど、やっぱり心配なんだよ」

「わかりました。お願いします」


薺とクロも時間が遅いだけに、メイド長に断ってから庭に出た。


そして、薺の心配していたことが起きかけた。

赤門が木刀を両手に持って微動だにしない。つまり、1番タイミングの悪いときだ。

そんな赤門を見てクロが目の色を変えて、赤門に向かっていく。

薺は急いで追いかけるが、もちろん追いつくはずもない。


クロはこんな機会そうあるものではないと、赤門との実力の差を確かめようとした。だが、結果は比べることも無駄なように思えてしまうほどの差だった。

隙がない。それこそ蟻の1匹とて通れる隙がない。


クロは赤門との間に数mをあけて1度止まってしまった。範囲テリトリーに近づくだけで足が止まった。これ以上は無理だと自分でも理解している。だが、先へ進もうとする。

別に、クロは赤門より強くなりたい、という思いがあるわけではない。ただ、最強種にまでなったのに赤門に守られているだけ、というのが嫌だった。

もうクロはペットではないのだ。二人を守れるくらいの強さは手に入れたつもりだ。

だが、結局クロが前に進むことができたのは半歩のみだった。


赤門がこちらに気づいて範囲テリトリーを消す。

その行動に合わせてクロもここで諦める。


「私じゃ、これが限界ですね...」


最早このときのクロは苦笑が限界だった。

そして、クロの後ろから薺が走ってやって来る。


「はぁっ、はぁっ、わた、し、来た、意味、なくなった、じゃんか」


薺は肩で息をして、前かがみに身体をほぼ直角にして、両手を膝の上においてクロに文句を言う。


「ごめんなさい!つい衝動的に...」


薺はある程度息が整ってから言った。

そして、赤門は薺を心配して、薺の隣にいる。


「結局何事も無くてよかったけど、心配しちゃうから」

「はい、ごめんなさい」

「いや、もういいよ。

ところで、赤門に言いたいことがあったんでしょ?」

「はい、そうです。ただ、赤門さんにって言うよりも、お二人にですね。


私、明日の早朝ここを出ます。一旦私も、犬人さんのように仕事の報告に近いことをしてきます。明日の夕方には戻る予定です。行く場所は、私が領主を務めている『ホワイトラッド』というところです。いつか、ご案内しますね。


で、ですね...折角戻るのでお土産としてお二人に何か、この世界での装備をプレゼントできたらなと思いまして、何か希望はありますか?」


赤門と薺は目配せをして、二人の間に何があったのか、まずは薺が希望を言う。


「ありがとう。それなら、魔法とか魔術が使いやすくなるような道具が欲しいな。まぁ、所謂いわゆる魔法使いの杖にあたるものなんだけどね」

「デザインなんか、どうします?」

「んー、見た目より性能を重視してもらいたいな。あ、でも、持ちやすいので」

「わかりました。

では、赤門さんは?」

「どうしよ...こいつらあればいいけど、折角の娘からのプレゼントだしな...」


そう言いながら、赤門は木刀を軽く上下に振っている。


「剣でも斧でも槍でも、銃だって大丈夫ですよ?」

「なぁ、それなら、俺が用意した材料で作ってもらうってのはありか?」

「...?ええ、ありですよ」

「じゃー、その方向で頼む」

「それは、わかりましたけど、どの材料ですか?」

「今用意する」


そう言って赤門は空を見上げる。


「異界の見上げた夜空の星々よ、応えろ。星に願いを、星座に誓いを。

俺の武器の材料を願う。武器の制限を誓う。この誓いが果たされなければ、俺の両手両足...くれてやる」

「なっ!」


突然のことにクロは思わず声をあげてしまう。

その直後に赤門の足元に、二重の円と、点と線で表された天秤座が現れる。二重の円は1.4m程の直径で赤い色の光だが、点と線で表された天秤座のほうは金色の光で彩られている。


そして、その魔法陣のような光の上には、円の直径と同じか僅かに短い2本の棒がある。その棒はそれぞれ赤い色をしているが、同じ「赤」ではない。

一方は「唐紅」、他方は「真紅」と呼ばれる色だ。唐紅ないのほうが明るい色をしている。


この棒はまっすぐではない。まるで刀のように、それこそ木刀のように緩やか曲がっている。そして、その棒にはところどころ線が引かれており、どこをどう削れば良いのかを明確に示していた。


赤門はその棒を2本とも拾って、クロに渡す。


「じゃー、これで頼んだ」

「は、はい...

あの?赤門さん?」

「どうした?」

「どうしたも、こうしたも!赤門さん、体何ともないんですか...?」




これはクロが知っている範囲のことだが、

星に対して願いと誓いを立てるならば、代償はほとんどの場合発生しない。叶えようとする願いによっては発生するが、それほど重いものはない。

だが、星座はそうもいかない。願いがどんなものであっても確実に代償を伴う。それも、臓器が幾つか壊れるなどということは当たり前に起きる。その分やはり得られるモノも大きくはあるのだが。


どちらも一生のうちで使うことがない者がほとんどだ。そもそもの話、この願いと誓いを立てる「星々との契約」はヒト属しか使えない。


まず「星々との契約」とは、その者の守護星座に対して願いを言い、その願いを叶えてもらう代わりに、その願いに釣り合うかそれ以上の誓いを立てる。この願いと誓いが星、もしくは星座に受理されたとき、星座が願いを叶えてくれる。というものだ。


次に、「守護星座」についてだが、クロはほとんど知らない。

まずクロは、この「星々との契約」がどういう原理なのかを知らない。




「ああ、俺は別にどうということはない。心配してくれたのか?ありがとうよ」

「そ、そりゃ心配ですよ!」

「そうか、ありがとう。

まぁ、とにかく任せた」

「は、はい。

あっ、あと、明日も明後日も私はいないので、存分に街でデートしてくださいね!」


何かを思い出したような素振りを見せ、少々いたずらっぽくクロは言う。


「そうできたらいいんだがな」

「そうだね。なんかここ数日は色々忙しかったから」

「私が来たばっかりに、ごめんなさい」


今回のクロの謝り方は、そう負い目を感じているような雰囲気のものではなかった。それは薺の口調が、なんとも楽しそうな調子だったからだ。


「そんなことないよ。楽しいし、嬉しかったし!」

「はい!」

「んー、何はともあれ聞いてみるか?」

「そうですね、いいと思いますよ」

「なー!ナカジマさん、鳥使ってたナカジマさん」


そう、庭に多く生えている木の1本に向かって、赤門は声をかけた。

すると、その影から相変わらずのスーツ姿のナカジマが表れる。


「いやー、バレてましたかー?それも、鳥のことまで」


様々なことが知れてしまっている、という事実を前にしてもナカジマは笑っている。なんとも全体的に胡散臭い。


「鳥のことについては、まぁそうなのかなと思ってただけなんですけどね」

「それは私の失態ですね」


ナカジマは笑っている。笑顔の絶えない方、という印象がどうしても強くなってしまう。


「で、結局のところ、明日は俺と薺が街を歩きまわるような自由はあるんですか?」

「ええ、そうして頂いて大丈夫ですよ」

「そっか、そりゃ領主さんは忙しいよな。その立派な方に仕えていらっしゃられる方も」

「そんな、かいかぶりすぎですよ」

「こんな時間にまで、得体の知れない客人のために何人も何人も、ほんと皆さん大変ですね」

「そう言って頂けると、我々の苦労も報われるというものですよ」

「ま、ほんとに大変でしょうし、寝ますね。おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


同じように薺とクロも挨拶をして、赤門たち3人は屋敷へ戻っていった。言うまでもなく、ナカジマは終始笑顔だった。

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