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終幕/俺たちは何かを変えられる

 マイトに支えられ、俺は船に乗り込んだ。

 雨は晴れたが、時間はもう遅い。

 夜明けを待って出港することになった。

 ここからなら昼前には本土に辿り着くことが出来るだろう。


「やっ、お疲れさん。

 試験とは別の意味で、大変なことになっちゃったみたいだね」


 だらしない服装の男、カルタが柔和な笑みを浮かべ片手を上げた。

 まるで場末の酒場なんかにいる酔っ払いのようだった。

 これで第五騎士団隊長だというのだから驚きだ。


「カルタ……様とマルス様はどうしてこの島に?

 くる必要はなかったはずですが」


 痛みに顔をしかめながら、俺は訪ねた。

 ミンクに治療を施してもらったとは言え、完全に治っているわけではない。

 彼女も消耗しているので、あとは自然治癒に任せた。


「色々調べておきたいことがあってね。わざわざこっちに来たんだよ。

 ところで、何で僕を様付けするのに躊躇ったのにマルスちゃんはあっさり?

 まあいいけど……」


 全員が船室に集まったタイミングを見計らって、カルタは話し始めた。

 行きの時よりも人数が断然少なくなったせいか、やけに広く感じた。




「……ってな二人組が紛れんだ、って話を聞いてね。

 キミたちは遭遇しなかったかな?」

「多分したはずだぜ。ドームの外でそいつらと切り合ったんだ。

 なあ、クレイン?」

「ああ、砂浜でも会ったぜ。殺しに来たから、返り討ちにしてやったけどな」

「キミが? エマニエルを? 凄いね、彼は元正規の騎士なんだよ」


 道理で腕が立つと思った。

 本気の騎士と切り結んで、生きて帰れるとは幸運だった。


「彼はまだ生きているのかな? 生きているなら、ぜひ話を聞きたいんだが」

「無理じゃないですか?

 炸裂弾で自分をふっ飛ばしたんだ、生きているはずがない」


 そう言うと、カルタは落胆したような声とため息を吐いた。


「なんてこったい。王家転覆を狙う不埒な連中の尻尾を掴めると思ったんだが」

「王家転覆? そりゃいったい、どういうことなんですか?」

「うーん……ああ、そうだ。この刻印に見覚えはあるかい?」


 カルタが懐から取り出したのは、古めかしい羊皮紙だ。

 ところどころくすみ、黒ずんでいる。

 上下には判読出来ない文字が刻まれており、中心には甲虫のような図柄があった。

 いや、甲虫ではないのか? 鋭い棘のようなものがついた尻尾も書かれている。


「……以前見たことがある。『魔毒の蠍』とかいう連中のモチーフだったか?」


 『魔毒の蠍』?

 俺やマイトはもとより、他の連中も一様に首を傾げている。


「さすが。王家に属していると、色々なところから情報が入ってくるんだね」


 からかうようなニュアンスを込めて放たれた言葉。

 ウルザはカルタをジロリと睨む。


「おっと、悪い悪い。キミはお家が嫌いだったね」

「己のことはどうだっていいだろう。それより、これはいったい何だ?」


 ウルザはあからさまに苛立っていた。

 それをカルタは面白そうに見た。


「この刻印をダルク、エマニエルは持っていた。

 『魔毒の蠍』はこの国の貴族体勢そのものを潰そうっていう連中でね。

 今回の件は、その一環だったんじゃないか?」

「何のために?」

「実験のためじゃないかな。人を化け物に変えるために」


 俺以外の全員が、息を飲んだ。


「彼らが死んだいまとなっては、何をしたかは分からない。

 だが、人造生物を作る技術を応用したんじゃないかと思う。

 人の体を作り変え、化け物に変え、戦力として運用する」


 おぞましい計画だ。犠牲となったアナンも、こうなっては哀れだ。

 そこまで考えて、強烈な眠気が襲い掛かって来た。

 ベッドに腰かけ、横になる。


「大量出血と疲労のせいだろう。

 死ぬほどじゃないから大丈夫だとは思うが……」

「ホントかよ、それ。寝たら二度と起きられないとか洒落にならんぞ」

「安心しなさいな。

 僕は信じられなくても、キミの仲間のことは信じられるだろ?」


 辺りを見回した。

 マイト、ミンク、フェリック、ロウ、レインズ、モリア、シャナリア。

 そしてウルザ。仲間と言うには信頼も交流も足りない連中だが……


「だったら、安心して寝かせてもらうことにするよ……」


 俺は目を閉じた。

 すぐに闇が俺を覆い尽くした。そして……






 広場はざわついていた。

 無理もない、新設第五軍の叙勲式があるのだから。

 普段は解放されていないこの場所も、今日に限っては開かれている。

 人々は新たな騎士を囲み、酒を飲み、騒いでいる。

 騒動の種類は、いつもと違うかもしれないが。


「えー、大変な試練を乗り越え、キミたちは新たな一歩を踏み出すわけで……」


 領主、カイザル=アクティアの顔には、渋面が浮かんでいた。

 無理もない、普段は貴族だけで構成される叙勲式に平民が二人もいるのだから。

 ロウに至ってはよく分からない。


 それでも俺たちを迎え入れなければならなくなった理由。

 それは、この試験を合格したのがここにいる9人だけしかいないからだ。


 あの後、マルスさんが伝書鳩を送り島の惨状を報告した。

 上陸した第三軍が見たのは、死屍累々の状況。

 死なないはずの貴族たちが皆殺しにされていた。


 当然、俺たちに疑いの目が向けられた。

 だが、フェリックやウルザ、そして意外にもモリアの口添えがあった。

 俺たちは罪をなすりつけられずに済み、まだ生きていられている。


(アテが外れたな、ザマァみろ)


 第五軍入団試験の合格者は、貴族だけの予定だったのだろう。

 やはり(・・・)貴族は平民より優れている、民を守れるのは貴族しかいない。


 という具合で。だが、現実はそうはならなかった。

 実技試験で醜態をさらした時点で、方針を変えるべきだったのだ。

 演説を行うカイゼルを見ていると溜飲が下がって来る。


「えー、では、試練を潜り抜けたものたちに祝福を!」


 会場が湧き立ち、拍手が鳴り響く。

 さてさて、これから俺たちはいったいどうなるのか?

 万雷の拍手の中で、俺はそんなことをぼんやりと考えた。




「へっへっへ! 見たかよクレイン、あのオッサンの顔!」

「そうだなぁ、面白かったなぁ。

 でもこれからあいつが俺たちの上司になるんだぞ」


 テンションを上げるマイトの言葉を、俺は受け流しながら歩いた。


「なンだよクレイン! ノリ悪いなぁ、みんなもそう思うだろ?」

「相手がどのような人物だろうと、言動だろうと、任されたことをするだけだ」

「まったく、こんな野蛮な男があたしの同僚なんて……」


 レインズは俺たちのことなど目に入ってもいない、と言う風に言った。

 ご主人様以外の人間は目に入らないのだろう。

 対照的に、モリアの方からは俺たちへの侮蔑感がありありと見て取れた。

 プライドの高い御貴族様だから、仕方ないのかもしれないが。


「別にいいじゃん。こいつらケッコーやるから、面白そうだよ?」


 シャナリアは特にこれと言って感想のない、フラットな態度だった。

 とはいえ、こいつからはマイトと同じ匂いがする。バトルバカの匂いが。


「さあ、行こうぜ! 俺たちの栄光の未来がここから、開く……」


 角を曲がって詰め所へ。

 だがそれを目の前にして、マイトの開いた口が塞がらなくなった。

 そこに立っていたのは、みすぼらしい小屋だったからだ。


「おっ、声がすると思ったらその通りだったね。

 さ、みんな入って、入って」


 中からカルタが出て来て、俺たちを招き入れた。

 どうやら、見間違いでも気の迷いでもないようだ。

 俺たちは顔を見合わせ、建物の中へと入って行った。


 そこは、がらんとした空間だった。

 数脚の椅子があり、二つの机があり、それだけだった。

 中にはカルタとマルスが控えていた。


「ど、どうなってんですかカルタさん!

 こ、ここって第五騎士団のッ……!」

「そう、ようこそみんな。第五騎士補佐(・・)隊はキミたちを歓迎するよ」


 ああ、なるほど。そう言うことだったのか。

 ここまで来てやっと意味が分かった。


「俺たちは新設の第五騎士団を補(・・・・・・・・・・)佐する役目(・・・・・)だと」

「察しがいいじゃないか、クレインくん。その通りだよ」

「へっ……? や、待ってくれ。第五騎士団って、俺たちのことじゃ……」

「違うよ。第三軍を分割して新たに第五騎士団を設立したんだよ~」


 そう言うことになったのだろう。

 貴族が多ければ第五騎士団を設立し、そうでなければこうなる。

 つまり現段階において、俺たちは騎士ではない(・・・・・・)


「じょっ、冗談じゃない……!

 こんなのごめんよ、あたしは帰らせてもらうわ!」


 プライドの高いモリアは顔を真っ赤にして出て行こうとした。


「待て、モリア。ここから出て行った何になる?

 もはや戻る場所はない」


 モリアは唇をギュッと噛み締め、ウルザを睨んだ。

 彼女も彼女なりに、大きな事情を抱えているのだろうか?

 家にも帰れなくなるような事情があるのだろうか?


「まあまあ、考えようによっては天国だよ?

 第三軍の分割までにはまだ時間がかかる。

 だから僕たちに仕事が回されて来る事はない。

 ゆったりのんびり過ごすことが出来るよ」

「生憎と放蕩に耽る気はない。

 仕事をくれ、隊長。やり遂げてみせる」


 ウルザはカルタに詰め寄って行った。

 さすがに彼もたじろいでいる。


「そ、そんな……俺、騎士に、なれない、俺……塵……」


 放心状態に陥ったマイトを、ミンクとフェリックが支える。


「……そう。騎士じゃないんならあんたたちはあたしの下ってことよねぇ!」


 モリアもモリアで、『よかった』を探し出せたようだ。

 よかったね、クソッタレめ。


「腐る必要はない。ここでも出来ることはある、それを探すんだ」

「あ? いや、別に腐ってるわけじゃないさ。本気だったわけでも……」


 ロウの言葉に答えつつ、俺は考えた。

 本気だったわけでもない。

 そのはずだった。


 だが……

 めらめらと燃え上がる怒りの炎だけは、否定出来そうにない。


 そう、俺は確かに怒っている。

 貴族どもの傲慢さに。

 そして自分自身では何一つ変えられない無力さに。

 変えられないのだろうか?


 変えてみせる、ここで。

 人の嫌がることをするのは、誰よりも得意だった。

 だったらあいつらが嫌がることをして見せようじゃないか。


 誰よりも、何よりも、俺のために。


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