死闘/新たな可能性
爆発と衝撃で視界を塞ぎ、優位に立つ。
考えていたのはその程度だった。
「なにっ……足場がっ!?」
だが、まさか地盤がこんなに脆いとは思わなかった。
炸裂弾を叩き込んだ足下が砕け、俺とカトラスの男を飲み込んだ。
しかも、落下が結構長い。
男の腹を蹴って距離を取り、エアクッションを発動。
落下の衝撃を相殺し、何とか二本の足で地面に降り立った。
「っそ……! この島に来てから、驚かされることばかりだ!」
足元には石畳が敷き詰められており、頭上には屋根がある。
かつては地上にあった神殿が何らかの理由で埋もれてしまったのだろう。
だが、落ち着かない空間だ。理由は柱にある。
天井を支える太い石の柱は、波打ち、ねじ曲がっている。
一つとして真っ直ぐのものが存在しないのだ。
「よもや生きている間に、海魔様式の建造物を見ることが出来るとはな……」
カトラスの男は何の魔法も使っていなかったはずだ。
だが、猫のようなしなやかさで鮮やかに着地。
エアクッションを使ったはずの俺よりも、消耗が少なく見える。
「海魔様式だと? バカな、海魔族なんてもの存在するはずが……」
「残念ながら存在するのだよ。これは、その生きた史跡だ。
かつて海魔族は繁栄を誇り、海を支配した。
だが、それは神王国の許容できるものではなかった。
だから、滅ぼされた。これは彼らの墓標であり、恨みの集積である。
まあ、そんなことはいい」
カトラスを構え、男は駆け出した。
魔法矢を生成し放つが、しかし男はそれを止める。
(どういう反射神経すりゃ出来んだよ、飛んで来る矢を止めるとか!)
「剣と魔法のスイッチ型か。
面白い技を持っているが……所詮は小技の類よ!」
男は矢を受け流し、あっさりと俺の間合いに入った。
そして剣を振りかざした。一撃目を受け止めるが、思いのほか軽い。
フェイントだったのだ、本命の二撃目が俺の脇腹を抉った。
痛みに呻きながらあらかじめ設置しておいた魔法矢を操作。
左右から攻撃する。
だが、カトラスの男はそれをも予期していたのだろう。
上半身を傾けそれを避ける。
追い打ちに振り下ろした鉄刀は横合いから叩かれ流された。
無防備な俺の首筋目掛けて、男はカトラスを突き出した。
ギリギリのところで首を振り避けるが、浅く切られた。
ゴロゴロと回転し、再び男と距離を取った。
マズい、やはりこいつは強い……!
「その程度の技を持ったものは、何度も殺して来た。
積み重ねたキャリアの差だ」
「チッ、そんな技を持っているのに……
どうしてこんなことをするんだよ、あんたは!
それだけの力がありゃ、何だって出来るだろう!
どうしてこんな離れ小島まで来やがった!
あいつを化け物にするのが、あんたのやりたいことなのかよ!」
カトラス男は俺を嘲笑うように鼻を鳴らし、再び踏み込んで来た。
内心に動揺の一つも見られない、口撃作戦はあっさりと失敗した。
魔法矢と剣でカトラス男を牽制し、近寄らせないようにした。
だが、奴はあっさりとそれを掻い潜って来た。
リーチの差をものともしない体術。
鉄刀は薄皮一枚のところで避けられ、魔法矢はシールドで止められる。
逆にこちらは男の攻撃を捌き切れず、小さな傷がいくつも出来た。
舌打ちし、アースドライブを発動。
男との間に壁を作り、無理矢理引き剥がした。
「特異なスタイルだが、中途半端とも言える。
魔法出間合いを取り、剣で相手の攻撃を捌く。
接近戦においては魔法が足を引っ張り。
遠距離戦は剣が邪魔する。
どちらにも意識を割きながら勝てるほど、俺は甘くないぞ」
「ああ、打ち合って来てよく分かったよ。
あんた、俺の手に余る相手だな……!」
どうすればいい? どうすれば勝てる?
少なくとも勝利のヴィジョンはまったく浮かんでこない。
だが、こいつを押さえなければ上は立ち行かなくなるだろう。
俺ではあの化け物と戦えない。
みんなには化け物との戦いに集中してもらわねば。
ふぅ、と息を吐き、三度目の打ち合いをする覚悟を決めた。
こちらにあって相手にないもの、それは魔法だ。
魔法を主軸にして戦って行けば、勝利を掴めるはずだ。
「魔法を使いこなせば俺に勝てると、そう考えているな?」
「ッ……!? どうやればあんたに勝てるかなんて分からねえよ!」
ニィ、と頬を歪め、自信たっぷりに男は言った。
その通りのことを考えていたので、見透かされたような気になる。
落ち着け、俺。ウソとハッタリは俺の十八番じゃねえか。
だったら、他人のウソに飲まれるような真似はするな……!
剣の切っ先を男に向け牽制、魔法矢で攻撃を仕掛ける。
男はカトラスを振り払い、矢を弾くがしかしそれは想定の範囲内だ。
その間に、半分だけ残しておいた魔法矢に魔力を込める。
この島に来て色々な強者を見た。
それでも俺が勝っていると思っている部分がある。
魔法操作の精密さ、そして魔力操作の上手さだ。
残った矢に更なる魔力を込める。
断続的に放たれる矢に対応するので、敵は手一杯になっている。
男はカトラスを振り下ろし、俺を真っ二つに断ち切ろうとしてきた。
俺はそれを鉄刀で受け止めた。
凄まじい膂力の仕込まれそうになりながらも、俺は攻撃を放つ!
「魔力充填だろう? やろうとしていることはだいたい分かる……!」
だが、魔力を充填した矢はあっさりと避けられた。
男が切り結んだ剣を軸にして側転を打ったからだ。
ぐるりと男の体が一回転、彼は魔法矢を避けつつ俺の背後に回った。
反対に、俺は切り札を失い、更に上から押し付けられまともに動けない。
渾身の力を振り絞り、前に倒れ込んだ。
だが間に合わず、背中を切られた。
「があぁぁーっ!」
「よく避けた。
背骨ごと胴を真っ二つにしてやるつもりだったんだが……
まあいいか。どちらにしろキミは終わりだ。
キミが得意なところで攻めて来るのは分かっていたからね。
で、次からはどうやって俺に得意を押し付ける気なんだ?」
ニヤリと笑い、男はカトラスについた血を拭った。
よろよろと立ち上がるが、しかし。
(っそ、切られるって滅茶苦茶痛いんだな……!
右腕、もう使い物にならねえ)
横目でチラリと右腕を見る。
肩甲骨の辺りから切り裂かれているため、俺からは見えない。
だが傷口は酷いことになっているのだろう。
指を握ろうとすると鋭い痛みが走る。
(安請け合い、するんじゃなかったな。ロウに任せておけばよかった)
顔面にもいくつか傷が付いている。
目に血が入るような傷はないが、滅茶苦茶痛い。
抉られた脇腹がジクジク痛む。
内臓などは傷ついていないだろうが、出血がひどすぎる。
このまま放っておけばすぐ動けなくなる。
その前に殺されるだろうが。
(クソ、考えろ俺。どうすればあいつに勝てる?
あいつに一矢報いることが出来る?)
残念ながら、打開策は一つも浮かんでこなかった。
俺の頭はこんなに固かったか? いや、そうではない。
相手が強すぎてどうしようもならないのだ。
自分の得意なところで勝負しても、まったく相手にならない。
もっと、俺に力があれば……マイトのような力があれば!
ミンクのような、ウルザのような魔法の力があれば!
そして、それは天恵の如く俺の頭に降って来た。
これなら、行けるか?
「まだ諦める気がないのかね? そろそろ俺も飽いて来たんだが」
「つれないことを言うなよオッサン。
まだ始まったばかりじゃねえか。お前も、俺も!」
剣を構え、駆け出す。
片腕で振れるように訓練しておいてよかった、まだ全力で戦える。
右手に魔法矢を生み出し、発射。
男の防御を誘発しつつ袈裟掛けに切りかかる。
「何度同じことをしても無駄だということが分からないか――!?」
魔法矢を弾き飛ばし、俺の斬撃を避ける。
だが、男の胸に一筋の赤が刻まれた。
「バカな、小僧。いったい何をした? 確実に避けたはずだぞ!」
「教えるワケねえだろうが、バカ! 続けていくぜ、オッサン!」
俺は後退する男を追い、跳ぶ。
俺の足を刈り取らんとして、男はカトラスを振り上げる。
だが、それは俺の誘いだ。
直前にシールドを足下に生成、蹴る。
男の斬撃はシールドに阻まれ届かず、俺は反動で後方に跳ぶ。
穴から注いだ雨粒が俺を濡らした。
「飛んだり跳ねたりするのが好きなようだな。
だが、それでは俺には勝てんぞ!」
手首をくるりと回転させ、剣を振り回し男は俺を威圧した。
俺は冷静にそれを見る。
カトラスの男が駆け出し、腰の入った刺突を繰り出してくる。
その直前で俺は剣を振る。
剣のリーチは、こっちの方が長い。だが、届かない。
男は嘲るようにこちらを見るが、しかし狙い通りだ。
男の目にそれが当たり、彼はそれに驚き目を閉じた。
一瞬の隙、だが俺にとっては十分すぎる隙。
剣をかわし、男の顔面に拳を叩き込んだ。
男の体が吹き飛び枯れ木のように転がった。
「何をした……!?
まさか、この俺が、お前のようなガキに倒されるなど……」
「分かんねえなら分かんねえでいいぜ、オッサン。
あんたは俺に殺されるんだ!」
剣を大上段に構え、転がったオッサンに向けて振り下ろした。
オッサンはゴロゴロと転がりそれを避けるが、無駄だ。
打った場所が蠢き、石の棘がオッサンに襲い掛かった!
「グエェェェーッ!?
まさか、貴様刀身に魔法を纏わせて……!?」
さすがにここまでやれば分かるか。
ウルズの剣技を参考にしてやってみたが、なかなかうまく行った。
風の魔法を纏わせ相手を切りつけ、水の魔法を纏わせ飛沫を目に飛ばす。
地の魔法をぶつけ、空振りしたと油断させ襲う。
これが俺の新しい戦い方。
武装強化と魔法とのバランスが重要だ。
崩れれば剣はなまくらになり、魔法は用を成さなくなる。
両方が揃わなければ相手を騙し、倒すことは出来ない。
「見事な才能……!
俺が喉から手が出るほど欲しがったものを、お前は!」
刀身に炎を纏わせ、男を切りつけた。
石の棘は男の利き腕を貫き、剣を弾き飛ばしていた。
もはや俺を邪魔するものはない。
袈裟切りに剣を振り下ろし、男を焼く。
「……ッハッハ、ハハハハハ! 見事、お見事なり!
なかなか楽しかったぞ――!」
男の口から光が漏れる。
それだけではない、全身の穴から。
まさか、この男!
全身をシールドで覆った。次の瞬間、男が爆発した。
体内で炸裂弾を発動させて!
「クソ……魔法が使えるなら、最初から使っておけってんだ……」
戦いが終わると、痛みが襲い掛かって来た。
倒れそうになるが、そうはいかない。
上ではまだ戦いが続いているのだ。
何も出来なくても、それでも行かねばなるまい。
俺は地上に戻った。




