表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

漆黒の意志/力を得ても変わらないもの

 ワケが分からん。いったいどうなっている?

 降り注ぐ雨によって、頭は嫌ってほど冷えている。

 それでも、眼前で巻き起こった現実を理解することが出来なかった。


「アナン……! 貴様、何をッ……!」

「言っただろう、手前が! 戦い、勝って、掴み取れって!

 俺は掴むんだよッ!」


 アナンは手首を捻り、傷口を抉ろうとした。

 だがその寸前で、ウルザは全身から炎を立ち上らせた。

 アナンは舌打ち、剣を引き抜き炎の柱から逃れて行った。


「ヌゥーッ……! まさか、このような狼藉を働くとは……!」


 ウルザは数歩前に歩き、そして膝を突き倒れた。

 傷口を押さえ、青い顔をする。

 ミンクは思わずその傍らに駆け寄った。

 そして、ウルザに対してヒーリングを開始する。


「いま、一番ポイントを持っているのは手前らだ。

 奪い取ってやるぜ……全部なぁっ!」


 アナンは剣を天高く上げた!

 すると、周囲で戦っていたものたちが一斉にそちらを見る。

 まるで示し合わせていたかのように俺たちに襲い掛かって来た!


「なにっ……! どうなってんだ、これは!」


 俺はモリアに施していた拘束を解除し、振り下ろされた剣を受け止めた。

 剣を振り下ろして来た女の顔を見る。

 それは、恐怖で染まった顔だった。


(おいおい、何ビビッてんだよお前ら。相手はアナンなんだぞ?)


 無理矢理女は剣を押し込んで来る。

 どうするか、と思っていたら後方から魔法矢が放たれ、彼女を打った。

 モリアが放った魔法矢、あれは俺を打つためのものだったのか?


 だが、そんなことを聞いている暇はない。

 次の戦士が斧を振り上げ、襲い掛かって来た。

 魔法矢で牽制しつつ、懐に飛び込み剣を叩きつける。


 モリアに向かって二人の剣士が突っ込んで行く。

 魔法矢を散らし、二人を倒そうとするが、しかし密度が足りない。

 無理矢理突っ込んで来る狂戦士を前にして、モリアの顔が恐怖に歪んだ。


(ったく、助けてやらなきゃならんのかね。まったく手間のかかる……)


 そう思ったが、その間にレインズが割り込んで来た。

 彼は剣と盾でそれぞれの攻撃を受け止め、弾き返した。

 そして一人と組み合う。もう一人はモリアの魔法矢で倒された。


(ま、俺が助ける義理も何もないんだけどな。どうなってるか……)


 敵の攻撃を捌き、魔法矢を周囲に旋回させる。

 これだけで、相手を牽制するには十分だ。

 相手がこっちに怯んでいる間に、俺は当たりを観察した。


 モリアとレインズの二人は大丈夫だろう。

 魔法使いの隙を剣士が上手いことカバーしている。


 ミンクはウルザの治療に専念している。

 群がる貴族崩れやゴロツキどもを、マイトが鎧袖一触なぎ払っている。

 ウルザも戦力にならないわけではない、あそこは大丈夫。


 心配だったのはフェリックだが、あっちもあっちでうまく立ち回っている。

 ロウとシャナリアが派手に敵をなぎ倒す傍ら、二人を上手く援護している。

 あれなら適度に目立たず、それでいて戦果を挙げることが出来る。


(さてと、現状浮いているのは俺だけか。さて、どこを助けに――)


 考えているところで、殴られた。

 そして、吹き飛ばされ土手をゴロゴロ転がった。


 下が砂浜で、そして斜面が草むらでよかった。そ

 うでなければ死んでいただろう。


「よう、クズ! 元気にしてやがったか、クズが!」

「ドーモ、アナン様。

 ちょっと会わないうちに雰囲気変わったんじゃないの?」


 ワンセンテンスにクズを二つぶっ込んで来るとは思わなかった。

 いい教育を受けているはずなのに、ボキャブラリー貧困すぎる。


 アナンは剣を振りかざし、そして地を蹴った。

 凄まじい加速、今までのアナンにこんなことは出来なかっただろう。

 剣を立て受け止める、だがその膂力に押し返される。

 開いた胴に蹴りが叩き込まれ、俺は吹っ飛ばされた。


(ってえ、ホントこの前とは別人だな……

 いったいなにがあったんだ、こいつ)


 精神的にはまるで変わっていないが、魔力も筋力も別人のようだ。

 何より、あいつの瞳。確かに、ドブのように濁った瞳だった。

 だが、あそこまで闇色をしていたか?


「手前にはどうしようもならねえ実力の差ってやつを教えてやるよ!

 絶望して死ね!」

「感じ飽きてっからよぉー、もっと面白いの教えてくれよ。

 手前の泣きっ面とかな!」


 接近戦はマズい。バックステップを打ち後退、魔法矢を生成し放った。

 アナンは嘲笑を浮かべながらシールドを展開した。

 彼の体全体を覆うほど巨大なシールド。

 だが、それは俺の放った魔法矢すべてを受け止め、なお形を保っていた。


(シールドの出力も桁違いだな。っていうか、完全に受け止められるとはな)


 アナンは俺に手を向けた。その掌に、魔法矢が生まれた。

 俺は驚愕した、あまりにもデカい。

 俺の倍近いの魔力を持っているのだろう。

 アナンはそれを俺に向けて放った。


 側転を打ち避け、避けきれぬものをシールドで受け止めようとした。

 だが、シールドは数発を受けただけで砕けた。

 散らしたとはいえ凄まじい衝撃が俺を襲った。


「がはっ……! クソ、マジでどうなってんだよ……!?」


 魔法の打ち合いでも、勝てない。

 アナンは地を蹴り、俺に向かって迫る。

 足下の砂浜が、爆発するように弾けた。

 砂煙を上げ迫るアナンは、俺の腹を蹴った。

 シールドで止めるが、無視出来ないダメージが肉体に蓄積する!


「っは……ハハハ! 格の違いってやつを理解したかよ、クズ!」


 俺を蹴りながら恍惚とした表情を浮かべ、アナンは俺の襟首を掴んだ。

 そして、あっさりと持ち上げる。

 人間一人を吊り上げられるって、どういう筋力してんだよ……!


「地べた這いつくばって俺に赦しを請えよ、クズ。

 そんなもんじゃ許してやらねえけどな。

 俺は真貴族、アナン=クロフトスなんだ!

 俺に逆らったことを、後悔させてやる!

 骨の髄まで後悔を染みつかせて、それで殺してやるよ!

 オラッ、アアッ!?」


 アナンは俺の首を掴み、無理くり正面を向けようとして来る。

 下手に逆らうと折れそうだ、仕方があるまい。

 俺はアナンが満足するような言葉を吐いてやることにした。


「……大変申し訳ありませんでした、アナン様。

 俺は大変なことをしてしまいました」

「そうだ、お前は大変なことをしたんだ!

 自覚を持って死ねってんだよ!」


「――手前のような間抜けに謝っちまいました!」


 アナンに見えないように魔法を展開、フレアを顔面に叩きつけた。

 アナンは目と耳を潰され悲鳴を上げた。

 その隙に、俺はアナンの胸を蹴って拘束から脱出した。


「二度も同じ手に掛かってんじゃねえよ、アホ。

 クズとアホ、どっちがマシだろうな?」

「手前……俺を舐めるんじゃねえ! 俺を舐める奴は全員ぶっ殺す!」


 アナンは右手を俺に向け、魔法矢を放とうとした。

 だが、次なる一手は既に放っている。

 アナンの手首に、俺の()は当たった。

 魔法矢は軌道を逸らされ消えて行った。


「これは……風の魔法か……!?」


 狼狽するアナン目掛けて跳躍、全体重を掛け両足でキックを放った。

 身体強化をすべて両足に割り振ることは忘れない。

 加速と筋力強化を受けた一撃を、シールドは止めきれない。

 胸に叩き込まれた両足が、今度はアナンを吹き飛ばし、押し倒した。


「クソッ……真貴族の俺を足蹴にするなどと……!」


 俺は素早く立ち上がったが、アナンは無理だった。

 なぜなら、立ち上がろうとしたところで腕を取られたからだ。


 アナンは驚き、そちらを見る。

 腕を拘束する、土の枷が嵌められていた。

 着地と同時にスネアを撃っておいて正解だった。


 拘束を破壊し、立ち上がろうとするアナン。

 その後頭部に、思いっきり鉄刀を振り下ろした。

 鈍い音がして、アナンの悲鳴が上がった。

 この期に及んで、手加減だのなんだのをしてはいられない。


 してはいられないはずだが、アナンの頭は無事だった。

 もちろん頭が割れ、血が噴き出してはいる。

 だが、本当ならもっと酷い惨状になるはずだった。


「このッ……この、この俺の頭を! ふざけんな、ふざけんなクズが!」


 二撃目は通用しないだろうな、と思い後退した。

 俺がさっきまでいたところを魔法矢が通過していく。

 アナンは立ち上がり、俺を睨んだ。俺は右手に魔法矢を生成する。


「効かねえって、言ってんだろうがクズッ!」


 アナンは射線を予想し、頭部にシールドを張った。

 逆に俺を射抜かんと、カウンターの矢を用意する。

 だからアナンは、俺の蹴りをまともに受けた。


「ゲホッ……!」


 シールドを張っていない部分に攻撃を受け、アナンは咳き込む。

 魔法矢も消滅する。剣を振り払い、アナンの頬を打った。

 血飛沫をあげ悲鳴を上げるが、倒すのが狙いではない。

 たたらを踏み、視線が一瞬外れればよかった。

 その隙に、俺はアナンの背後に回る。


 右腕をアナンの喉に絡め、思いっきり締めた。

 アナンは悲鳴を上げ呻くが、上手く抵抗出来ていないようだ。

 首を絞められ、思考が鈍ってきているのだろう。

 そもそも、アナンは突発的な事態に弱い気がする。

 あの時も、そうだった。


 アナンの四肢から、徐々に力が抜けていく。

 これなら行ける、そう思った。


「いかんな、それは。気絶させてはいかん。

 こいつには起きていてもらわねばならん」


 横合いから突然殴られた。

 アナンを放さないようにしていたつもりだったが、さすがに力が抜けた。

 アナンは俺の体を突き飛ばし、砂浜の上をゴロゴロと転がった。

 雨に濡れた砂が体に纏わりついて気持ち悪い。

 立ち上がり、俺は襲撃者を見た。


「よしよし、ギリギリで何とかなったな。あのままでは困るんでな」


 そこには、痩身の男がいた。カトラスを持った男が。


「お前ら……また立って俺の前に現れるとは驚きだぜ」

「ん……? ああ、お前はそうか。

 ドームの近くにいた。すっかり忘れていた」


 油断ならぬ気配を漂わせながら、カトラスの男はそこに佇んでいた。

 アナンなどとは比べ物にならないほどの使い手。

 俺はなるべく隙を見せないようにして対峙した。


 背後で悲鳴が上がった。アナンの悲鳴だ。

 痛みと絶望に耐えているような声だった。


「お前ら……いったいアナンに何しやがった!

 あいつをどうするつもりだ!」

「なに、ここで死ぬキミたちには関係ない。

 まあ、死ぬ前に見れるだろう」


 アナンの体が、黒く染まった。

 炭の塊のような物体になり、動かなくなった。


「キミたちが見たことがないものをな」


 そして、アナンは漆黒の奔流へと変わり、天へと昇って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ