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前哨戦/滅びの使者は爆炎と共に

 地下に押し込められたので、時間の感覚があやふやになって来る。

 ここに入ってから、どれだけの時間が経っただろうか?

 それほど経ってはいないだろうが……


 20回目に角を曲がった時、光が見えた。

 俺とウルザは顔を見合わせ、そして歩き出した。

 先を見てみると、外へと続くアーチが見えた。

 ようやくたどり着いたか、俺は息を吐きアーチから外に出る。

 そこにはもう、全員が揃っていた。


「よう、クレイン! へへ、遅かったな。今回は俺の勝ち」

「マジかよ、俺たちがドベ? ったく、参ったな……」

「致し方あるまい。

 お前たちが潜ったのは、一番長くなるルートだったからのぅ」


 星の入ったケースを持って、老人が現れた。

 上から行けばすぐだったのだろうか。


「もっとも、全員合格じゃ。

 ほれほれ、さっさと地図を見せぃ。終わりが近いぞぉ」


 チェックポイント支給された星を受け取る。

 いまのところ、クリア条件を満たしているのは俺だけだろう。

 俺の仲間たちも、貴族たちも、不安そうに顔を見合わせている。


「この下には、平原が広がっているな……」


 海岸線までは斜面を下る道しかない。

 そして、その半ばにはおあつらえ向きな平原がある。

 折れ、砕けた柱が何本も転がっている。

 かつては祭壇か何かだったのだろうか。


「決着をつけるぞ。あの場ですべてを決する……」


 それだけ言って、ウルザは先に降りて行った。

 彼の仲間も不安げにそれに続く。


「これは……どうすればいいんでしょうか、皆さん……」

「どっちにしろ、俺たちには星が足りねえんだ! やるしかねえだろ!」

「あいつらを相手にする必要はないだろ。

 他にも星を持っている奴はまだ、いるはずだ」


 まさか全員が脱落したわけではあるまい。

 俺たちの前、あるいは後にここを通り抜けて来る者もいるだろう。

 少なくとも1つ、多ければ8つの星を持っている。

 そいつらから星を奪い取ることが出来れば、一気に逆転することが出来る。


「これ以上時間を掛けちゃいられねえ。そうだろう、クレイン?

 太陽が落ちるまでの間に船につかなきゃいけねえんだ。

 一秒だって待っちゃいられねえぜ!」


 マイトの言うことももっともだ。

 空は鈍色の雲に覆われており、時間を正確に計ることは出来ない。

 だが、こいつの本心はそんなところにはないだろう。


「お前、あいつと決着をつけたいだけだろ? 負けたのが悔しくて……」

「行かねえなら、俺一人だって行く。

 あいつにどこまで通用するか見てみてえんだよ」


 ニヤリと笑って、マイトは本当に斜面を下り始めた。

 俺は慌ててそれを止める。


「――全部なくしちまうかもしれないんだ!

 終わりになっちまうかもしれないんだぞ!

 つまらねえプライドのために、お前の夢全部捨てちまう気か!?」


 マイトは振り返り、不敵に笑った。

 何のてらい(・・・)もないとでも言わんばかりに。


「現実に邪魔されちまうような夢なら、そんなもん大したもんじゃねえ」


 そう言って、駆け出した。

 呆然としてしまったが、すぐに気を取り直す。


「っそ、さっさと追い掛けねえと……!

 あいつホントに一人でやるつもりだぞ!」


 俺は駆け出した。

 誰も付いてこなかったらどうしよう、と思ったが全員ついて来てくれた。

 こいつらも、マイトと同じことを考えているのだろうか?

 迷いだとか心残りがあっては、夢を叶えても意味はないと。

 自分だけが姑息なことを考えているようで、惨めな気持ちになってきた。


■本島サイド


 カルタは空を見上げた。

 そして、猛烈な吐き気に耐えた。やはり、慣れない。


「隊長、まだ水が苦手なんですか?

 そろそろ船に乗れるようになってもらわないと」

「いやー、無理無理。マルスちゃん頑張ってよ。僕は陸で頑張るからさぁ」

「あなたが陸で頑張っているところを見たことがないので、何とも言えません」


 この揺れと、潮の匂いが、カルタは苦手だった。

 本当ならばアクティア勤務なんて絶対に嫌だった。

 とはいえ、本国の派閥闘争に負けた彼に選択肢などなかったが。


「ダルクとエマニエル。

 二人は大五軍選抜試験参加者たちの中に紛れ、島へと向かった。

 しかし何を考えているのでしょう? 放棄されたあの島に何が?」


「さあ、生き返って来た死人の考えることだ。

 生者が考えても仕方ないかもしれない」


 とはいえ、相手はゾンビーだとか、そういうものではないだろう。

 民間伝承には死者が蘇り、襲い掛かってくる話がいくつもある。


 だが、現代魔法ではそんなことは出来ない。

 傷を癒すことすら、普通の人間には出来ない。

 ならば、彼らは死を装い生きていたということだ。

 しかも、何らかの邪悪な意図を持って活動している。


「一応第三軍には連絡しておいたけど……多分、無駄になるんだろうなぁ」

「いまは選抜試験で大忙しですから。応援が送られて来れば儲けものでしょう」

「腰が重いなぁ。まあ仕方がないか。別に怪しいところがあるわけじゃないし」


 選抜試験が行われている島に乱入していった時点で怪しいのだが。

 仕方ない。この程度で軍を動かせるほどアクティアは暇ではない。


 そしてこの試験をそこまで重要視していない。

 受かれば儲けもの、受からなければ後腐れなく切り捨てられる。

 ここに訪れている貴族の第二子、第三子というのはそういうものだ。

「隊長様ぁ。天候が大分悪くなってます。このままでは戻れるかどうか……」

「キミは戻っていていいよ。

 僕たちは向こうに留まっている船を使わせてもらうから。

 天候が悪いところを、無理させてすまないね。多めに包ませてもらったよ」


 船長は無作法にもその場で革袋の中身を検め、そして目を丸くした。


「ほ、本島と行き来するだけでこんなっ!

 だ、旦那、こんなにはいただけませんよ!」

「いいよ、貰っておいてくれ。

 どうせ使うこともなく、腐らせておくだけの金だから」


 カルタは手をひらひらと振って、島に足を踏み入れた。

 かつては先住民族で賑わっていたという島は、いまは閑散としている。

 第三軍が上陸した時には、一人として住人は残っていなかったという。

 果たしてそれは本当だろうか。二人には分からない。


 回収船に乗っていた人々に事情を説明。

 戻ってくるまで残っていてくれるよう約束を取り付けた。

 そして、二人は島の奥深くへと足を踏み入れて行った。

 曇天の空はゴロゴロと不機嫌に泣き、いまにも落ちてきそうだった。


「仮に二人がこの島に入って来たとして、その目的はいったい……」

「しっ。マルスちゃん、何か臭わないかい?

 これは……そう、血の臭いだと思う」


 カルタは犬のようにくんくんと鼻を鳴らし、森の中を迷いなく進んで行った。

 ここに足を踏み入れたことはないはず、マルスはそう思いながらも続いた。


 やがて、二人は開けた場所に出た。

 旧時代の建造物、その廃墟が何軒か立ち並んでいる。

 土手にはいくつも穴が開いている。

 恐らくは採掘坑の休憩所だったのだろう。


 血の匂いはここからする。

 二人は互いの死角をカバーしながら進んで行った。


 そして、建物の影にそれはあった。

 小さな血溜まり、そして萎んだ枯れ枝のような物体。

 それは、人の死体だった。

 頭部が残っているので、かろうじでそれが分かる。


「これはいったい……!

 この島で、殺人が行われていたということですか?」

「そうだろうね。見て、喉の骨に傷が付いている。

 鋭利な刃物で喉を突かれて、そして死んだんだ。

 でも、これはいったいどういうことだろう? まるで、血が……」


 そこでカルタは言葉を切った。

 そして、二人は合図もせず前後に跳んだ。


 直後、何かが頭上から落ちて来た。

 それは振り下ろした拳で地を穿ち、乾き切った死体をバラバラに砕いた。

 土煙が辺りに撒きあがり、衝撃波が周囲の木々を揺らした。


「お前……ダルク=イッシャー! 生きていたのか……!?」

「ほう、俺のことを知っているやつがいるのか? まあいい、死ねッ!」


 ダルクはバネのように跳ね、カルタに襲い掛かった。

 カルタは側転を打ち襲撃を回避。


 マルスが援護に入ろうとするが、横合いから妨害者が迫る。

 エマニエル=バーグマン。

 カトラスの連撃を、マルスは細剣で器用に弾く。


「なんだ、僕のことを覚えていないのか? ダルク?」

「知らんな! だが貴様はやるようだ、少しは俺を楽しませてほしい!」

「やっぱり僕のことを知らないのか、なるほど。だったら好都合だな……!」


 ダルクの背後で、不思議な現象が起こった。

 舞い上がった塵が収束し、刃を成したのだ。

 それは真っ直ぐダルクの背中に向かって飛んで行った。

 ダルクは直感的に危機を察知し、バック転を打ち回避。

 3連続バック転でカルタとの距離を取った。


「僕のことを本当に覚えていないのかい、ダルク?

 だとしたら寂しいな」


 カルタの言葉を無視して、ダルクは突進を仕掛けた。

 二振りの刃がダルクに向かって飛んでく。

 ダルクはスウェーでそれを回避。

 踏み込み放たれたカルタの飛び蹴りをも受け止めた。


 だが反撃に移ることは出来なかった。

 膝裏に刃がめり込んだからだ。


「ここまで自由に形を変えることが出来るのか……!」

「本物のダルク=イッシャーなら、この程度の攻撃避けきったさ!」


 着地し、もう一度カルタは跳んだ。

 そして反動を加えた回し蹴りをダルクの顎に叩きつける。

 ダルクは弾き飛ばされ、大きな音を立てて地面に落ちた。


 その傍らに、マルスと打ち合っていたエマニエルのカトラスが突き刺さった。

 マルスの細剣、その切っ先がエマニエルの喉にピタリと突きつけられた。


「これで終わりだ、ダルク。エマニエル。かつての仲間を殺すのは忍びない」

「かつての仲間……? ああ、なるほど。

 ということは貴様はかつて『拒絶の壁』に」


 『拒絶の壁』とは王国との『国境』に作られた大砦である。

 もっとも、攻め入って来る勢力など神話の昔に滅んでしまっているが。

 そこでかつて、彼は堕落に耽っていた。


「何の目的で、この島に入って来た?

 ここには軍事拠点も、金も、人もいない。

 わざわざ来るような場所ではないはずだろう?」

「ふん、いま貴様の言った通りよ。

 ここには人がいる、鬱屈とした思いを抱えた人が」


 エマニエルはせせら笑った。

 確かにここには貴族の子弟がいるが、しかし……


「何をしようと言うんだ? 彼らを人質に金をせしめようとでも?」

「直に分かる! 直にな。種は撒いた、あとは収穫の時を待つのみ!

 その場に我らがおれぬことは不幸であるが……致し方なし!

 ッハ、ッハッハッハ!」


 魔法特有の高い音を聞いた。

 だが、魔力は放出されていない。


「マズい、マルスちゃん離れろ! そいつ、自爆する気だ――!」


 マルスとカルタは同時に飛び、廃墟の窓に飛び込んだ。

 ダルクの哄笑が止んだかと思うと、彼の体が爆発した。

 己の体内で炸裂弾を解放したのだろう。


「ッ……! まさか自爆するとは。

 申し訳ありません、手抜かりでした」


 マルスは顔を上げ、エマニエルがいた場所を見た。

 もはや誰も残っていなかった。ダルクも含めて。

 あの爆発で二人とも死んでしまったのだろう、とカルタは思った。


「とにかく無事でよかったよ。しかし……」


 二人はいったい何をしようとしていたのか。

 そして、いったい何が起こるのか。

 彼は言っていた、種は撒かれたと。

 収穫の時は近いとも。何を表しているのだろうか。


 カルタは空を見上げた。鈍色の空が涙を流していた。


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