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暗闇の牢獄/彼はこの国を潰そうとしている

 脱落者たちを振り払い、俺たちは第三チェックポイントまで向かった。


「確認するぞ、このまま進んだら俺たちはポイント不足で脱落する。

 誰かから星を奪わにゃ、生きてここを脱出出来るかさえ分からない。

 それはいいな?」


 全員が頷いた。すべては第三ポイントを脱出してからだ。


「脱出したら、あいつらは一斉に襲い掛かって来るだろう。

 それを凌ぎ切り、砂浜まで行く。戦いを全部終わらせてな。

 敵が残っていたら難癖を付けられちまうだろう」

「ウルザとの決着を完全に付けりゃいいんだろ? 上等だぜ」


 マイトは拳を打ち付け合い、気合をアピールした。

 フェリックとミンクも取り敢えず納得。ロウはよく分からない。


 そこからしばらく歩いて行くと、何本もの石の柱が見えた。

 石畳の通路を挟み、等間隔に置かれた柱は、俺たちを誘導しているようだ。

 それに沿って進んで行くと、朽ち果てた建物と地下に伸びる階段があった。


「これは……下に降りて行け、ってことなんだろうか?」

「地図が示しているのはここだ。そう言うことなのだろう。用心しろ」


 ロウは構えを取り、慎重に階段を進んで行った。

 俺たちのことを守ってくれているのか。

 俺たちも彼女の後に続き、石段を降りて行く。

 両脇にはランプが掛けられており、灯りの心配はない。

 階段を降りたところは木組みの重々しい扉があった。


 扉を開くと、先客がいた。ウルザたちだ。

 静かな緊張感が俺たちの間に走った。


「おっと、こりゃ何とも。

 同時に違うチームが入って来るとは思わんかったのぅ」


 そこにいたのは、白髭の爺さんだった。

 もちろん、前の二人と同じような格好だ。

 一度見ているからさすがに驚かない。

 また叔父とか叔母とかそういう奴なんだろ?


「さて、それではテストを開始するとしよう。此度のテストは暗闇の牢獄」

「よく分からん名前だな。俺たちはいったい何をさせられるんだ?」


 部屋の奥には9つの扉があった。

 あの奥に入っていくことになるのか?


「これよりキミたちには暗闇の迷宮に入ってもらう。

 制限時間内に底を抜けられればクリア、抜けられなければ失格。

 実に単純なルールじゃろう?」

「なるほど」


 もしかしたら迷路内で遭遇して、交戦ということになるのかもしれない。


「いや、ここは二つのチーム、混合で迷宮に入ってもらおうかのぅ」


 しかし、爺さんはいきなりとんでもないことを言い出した。

 さすがに不満が噴出した。


「はぁ!? 何で平民なんかと一緒に行かないといけないワケ!?」

「そもそも俺たちで一緒に入って行くなんて無理だろ! 敵同士だぞ!」

「オメーら顔が似過ぎてて見分けがつかねえんだよ、爺さん!」


 口々に放たれた罵倒を、しかし老人はあっさりと受け流した。


「受け入れて貰えんならテストを始めるわけにはいかんなぁ……

 で、どうするんじゃ?」


 そう言われると俺たちに返す言葉はなくなる。

 内心にあった不満をすべて押し込める。


「組み分けはどうするんだよ。絶対決まらないと思うんだけど」

「それはお主らで決めぃ。ワシが口を出すのは面倒くさいんでな」


 こ、このクソジジイ……

 どうする、こんなところで時間を浪費するわけにはいかん。


「それじゃあそちらのお姉さま、私と一緒に行きませんこと?」

「……お姉さまと言うのは私のことか? 別に、構わんが」


 しかし、口火を切ったのはシャナリアと言う少女だった。

 彼女はロウを自ら誘った。

 了承を受けると、パッと花の咲いたような笑顔を作った。

 こんな顔が出来るのか。


「なら、あなたの方がマシね。ほら、そこのあんたよ」

「えっ、僕ですか? えーっと……アッ、ハイ。分かりました……」


 消去法でフェリックが選ばれた。

 ご愁傷様、フェリック。きっと苦労するだろう。


「ならあんた、一緒に行こうぜ。

 俺、あんたに聞いておきたいことがあるんだ」

「私、ですか。分かりました、ご一緒願います」


 マイトはレインズを誘った。待て、この流れは……


「ならば、お前は私とともに来い」


 ゴツい手が俺の前に差し出された。

 取れ、と言っているのだろうか。

 俺にそれを拒む権利も力も存在しない。

 俺はウルザの手を取った。

 即席のチーム、完成。


「あー、1人余ったか。

 じゃあどっか適当なところに入れてもらうんじゃな」


 余ったミンクは、結局マイトと一緒に行くことになった。

 それ以外割り振りが考えられなかった。

 他のどこに入れても、何となく火種になるような気がした。


「よーし、俺一番乗りィーッ!」


 ルールをよく理解していないマイトが飛び込んで行った。

 レインズとミンクは苦笑しながら続いて行く。

 俺たちも急がなくては。制限時間はそれほど長くない。


「ここを出るまでの間だけど、まあよろしくお願いします」

「かしこまることはない。

 出てからも、世話になるかもしれんからな」


 そりゃそうだ。

 俺たちは一番端にあった、9番目の扉を潜り迷宮に入った。




 扉を潜り、締めると、そこは完全な暗闇だった。

 地下らしい冷えた空気が肌を撫でる。


「暗闇の中を突き進んで行け、ってことか。こりゃどうにも……」


 壁に手を付き感触を確かめる。

 荒い煉瓦が組まれていた。かなり古そうだ。


 ウルザが手を付き出し、炎を出した。

 赤く燃える炎が辺りを照らし、全体像を露わにする。

 煉瓦にはひび割れが広がっており、いまにも崩れそうだ。

 慎重に進まねば。


 そんなことを考えていると、ウルザが腕を伸ばした。


「……あの、ウルザ様。いったい何をやっておられるんでしょうか?」

「見て分からぬか。炸裂弾で壁を破壊する。出口はどこかにあろう」


 どうやら冗談とかではなく、本気のようだ。

 俺は慌てて射線上に身を乗り出した。


「待って、待ってください!

 ほら、見てくださいここ崩れかかってるでしょ!?

 バカみたいに破壊力高い魔法使ったら、遺跡ごと生き埋めですよ!?」

「遺跡が崩落する前にここから脱出すればよかろう……」

「何でそんな生きるか死ぬかみたいなことしなきゃいけないんだよ!?」


 とにかくこいつをなだめなければ。

 俺は頭上に手を掲げ、小さな炎を生み出した。


「ほら、見てくださいウルザ様。風が流れているでしょう?

 周りは土か岩、空気が流れ込むわけはない。

 ってことは、これは出口から吹いている風ってことですよ」

「……ふむ、なるほど。それを手繰ってお前は外に出ようと言うのだな?」

「炸裂弾で一帯更地にするよりは消耗も少ないいい手だと思いますよ!?」


 内心で冷や汗をかきながら、俺はウルザに提案した。

 頼む、呑んでくれ。

 ウルザは少し考えるような仕草をして、炸裂弾を引っ込めた。

 俺は息を吐いた。


「では、行くぞ。こんなところで時間を食っているわけにはいかん」

「……了解しました、ウルザ様。

 俺もこんなところからはさっさと出たいっす」


 手元に小さな炎を出し、風の流れを確かめる。

 しかし、やはり魔法を使えないとここを突破するのは難しそうだ。

 指先を濡らして風を感じる、って手もありそうだが……

 やはり貴族優位の試練だ。この世界はどこまでも平民に厳しい。


 それからしばらく、俺たちは無言で進んで行った。

 と言うか、会話が出来るような雰囲気でも相手でもない。


 なにせ相手は王爵、この世界で五指に入るくらい偉い連中だ。

 新王国国王が最大の権力者であり、その血族たる王爵がその下。

 神から権能を賜った真貴族が続き、新興貴族がその下に入る。

 貴族の階級は細かく分けられているらしいが、興味はない。

 どうせ俺がその一角に入ることなんて出来ない。


 ともかく、相手はトップクラスの権力者。

 下手に機嫌を損ねれば文字通り首が飛ぶ。

 誰がこの男に文句を言うことが出来るというのか。


「……お前、名は何という?」

「!? クレイン=カシアス……しがない猟師の息子です」


 いきなり問いかけられて、跳び上がるほど驚いた。

 何故、俺の名前を?


「先の戦いでの作戦は、見事だった。まんまと嵌められたわ」

「……お褒め頂き、恐悦至極……と言うので、よろしいんでしたっけ?」

「敬語の使い方だの、そう言うのには期待していない。

 普通の喋り方でよい。実に見事な作戦であった……

 もっとも、己は好かぬ戦い方だがな」


 それは何となく思っていた。

 この男は権謀術数だとか、そういうものを嫌う。

 愚直なまでに己の信義、己の力を貫いている。

 形骸化した貴族の務めとやらを、この男は貫こうとしている。

 自分の力のみを頼るという意味では、マイトに近いかもしれない。


(……いや、やったなぁ。

 あいつに魔法使えたら、絶対さっきみたいなことやったな)


 根本的なところでは、似た者同士なのかもしれない。

 どちらも絶対認めないだろうが。


「どうしてお前は魔法を使うことが出来る?

 多くの場合、魔法は秘されているが」

「旅の吟遊詩人さんから教わったんです。

 いま思えば、あの人も貴族だったんですね」


 それから、俺たちはとりとめのない話をした。

 もっとも、ウルザが質問して俺が答えるというだけだが。

 命にかかわるようなトラップはいまのところ見当たらない。

 そろそろ暇になって来たところだ。

 ウルザが話しかけてくれて来たのはありがたかった。


「……こちらから質問してもよろしいでしょうか?」

「よかろう」

「どうして第五騎士団に?

 あなたの力なら、どんなところにだって行けたでしょう?」

「家の力でどんなところに行ったとしても、そんなものに意味はない」


 ……そうなのか?

 どこにも行けない俺としては、よく分からない感覚だ。

 力強くストイック、かと思っていたがお坊ちゃんなのかもしれない。

 どこに行くかではない、何をするのかが大事じゃないのか?

 俺はそう親父から言われてきた。


「この国は腐り切っている。

 神の威光を笠に着て、堕落した貴族たちが我欲に耽溺している。

 周辺に敵対国を持たぬから、まだこの国は保っている。

 だが、いずれは立ち行かなくなるだろう。

 そうは思わぬか、クレイン?」

「さあ、俺はあなたのように色々なことを考えられる立場にはありません」


 考えてもいないし、考えたくもない。

 国が何だと、そんな俺に関係のないことは頭の上で勝手にやってくれ。

 俺は穏やかな生活を送りたいだけなんだ。


「考えろ。考えねばお前は呑まれ消えるだけだ。この混沌とした世界にな」

「まぁ……考えておきますよ。なら、あなたの考えも聞いておきたい。

 それだけのことを考えているならば……

 あなたはこの国をどうするつもりなんですか?」

「潰す」


 ウルザはあっさりと言い切った。

 俺は息を飲んだ。この男は本気で言っているのか?


「堕落した貴族を粛正し、世界をあるべき姿に戻す。

 神によって与えられたこの大地を統治するに足る国を取り戻す。

 事を成すためには、強いものが必要だ」


 ウルザは立ち止まり、俺に手を差し出して来た。


「お前の力は、この国を正すために必要になるかもしれぬ」

「買い被りだ。俺には剣の才も、魔法の才もない。

 戦術を考えられる頭もなければ、応用を考える柔軟さもない。

 あんたが求めるような、そんな人間では断じてない」

「お前はお前の力を分かっていない。

 その力を研鑽すれば……必ずモノになる」


 俺は目を伏せ、そしてウルザの目を真っ直ぐ見つめた。


「それに力があったってお断わりだ。

 貴族の粛清なんてやったら、平穏は壊される。

 そんなことに手を貸すなんて、まっぴらごめんだね」


 啖呵を切ってしまってよかったのだろうか。

 そう思ったが、特に訂正する気にもならない。

 クルリとウルザに背を向け、俺は出口に向かって歩き出した。


 ウルザが薄く笑うのが聞こえた気がする。


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