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最期の一日/滅びへの序曲

 疲労と不安のせいであまり良く眠れなかった。

 泣いても笑っても最終日、なら笑っていたい。

 俺以外の面々は既に起きており、待たせる形になってしまった。


「悪い、行こうぜ。第三チェックポイントはここからすぐだ」

「ええ、真っ直ぐ行けばすぐつけると思います。ただ……」


 ミンクは不安げに言った。

 ロウが周囲を注意深く見つめている。

 何となく気配は感じていたが、しかし。


「かなり強引に攻めて来るな。それだけ向こうも切羽詰まってるわけか」

「こっちはテストを潜り抜けて星を持っているだろう(・・・・・)と思われているわけだからな。

 向こうだって必死になるだろうさ」


 俺が持っている6個の星を奪えば相当なアドバンテージになるだろう。

 第二チェックポイントは5対5のチームマッチ。

 大雑把な計算だが半分が星を取り落すことになる。

 この島から出られるのは、20人くらいになってしまったわけだ。


「さーて、強引に突破するしかないな。鍛錬の成果、期待してるぜ?」

「言われるまでもねえよ、クレイン。

 そっちこそ……やられねえように気を付けろ!」


 俺はフェリックの体を抱え、マイトはミンクを抱え、跳んだ。

 直後、廃屋が爆発!


 投げ込まれた火炎弾の連打によるものだ!

 炸裂弾(ボムブラスト)、着弾と同時に爆発するタイプの火炎魔法だ。

 魔法使いが少なくとも5人はいる。


 フェリックの体を離し、窓らしき場所から外に飛び出す。

 マイトも同時にそうした。


 叢が動き、人が顔を出すが、それはフェイク。

 本命は窓の影に隠れていた短刀持ちだ。

 俺にナイフを突き込もうとして来るが、それは読めていた。

 旋回させてあった魔法矢がナイフを弾き、残った弾が男の体を打った。


 視線をマイトの方に向ける。奴は軽く地面を踏み込んだ。

 それだけで地面が爆発したように弾けた。

 凄まじい加速を伴いマイトは突進していく!


 肩口から大柄な男にぶつかる。

 それだけで相手は吹っ飛んで行き、森の中に消えた。

 剣を振るうたび、相手の剣が折れた。


「すっげ、あんなのとやり合うなんて流石にごめんだな」


 叢から薄汚れた衣服を纏った女が飛び出し、襲い掛かって来た。

 女が放った刺突を受け止め、組み合う。

 凄まじい悪臭がするが、そうも言ってはいられない。


(少なくともボムブラストを撃ってきた魔法使いがいる。

 さてと、どこだ?)


 炸裂弾は固い弾殻で炎を閉じ込め、着弾と同時に解き放つ魔法だ。

 射程距離はせいぜい10mかそこら、必ず近くにいるはず。

 そして仲間を同時に撃つような真似はすまい。


 などと考えていた俺が甘かった。

 空中から再び炸裂弾が降り注いで来たのだ。


 舌打ちし、俺は敢えて体勢を崩した。

 寝転び、女が俺の上に覆いかぶさって来た。

 そしてその背に炸裂弾が撃ち込まれる!

 左右に打ち込まれた弾はシールドを広げて防いだ。


 炸裂弾の直撃を喰らって煤けた女を横にどけ、立ち上がる。

 絶え間なく、山なりの軌道を取って炸裂弾が放たれる。

 叢に隠れたあいつらを見つけ出すのは不可能だ。

 どちらにしろあいつらは星を持っていない、時間の無駄だ。

 シールドを広げ後退。


「マイト、時間の無駄だ!

 さっさと先のチェックポイントまで進むぞ!」

「あ? でもこいつらが鬱陶しすぎる! ここで倒しておかないと!」

「どうせ後でも嫌ってくらいやり合うことになるんだ!

 それに奴らを見つけられん!」


 諦めてくれると思ったが、マイトは逆に獰猛な笑みを作って言った。


「見つからない? だったら見つけられりゃいいんだろ、クレイン!」


 なに、と言った瞬間、マイトが飛び上がった。

 俺のようにシールドを作ったわけではない、単純な脚力で。

 脚部に身体強化の力を収束し、10m以上飛び上がったのだ。

 敵は泡を食ったことだろう。

 乱雑な迎撃魔法が繰り出されるが、すべて弾き返される。


「見ぃーつぅーけぇーたぁっ!」


 マイトは建物の壁を蹴り、更に跳躍。

 ああ、クソ。追わなきゃならないか。


「ミンク、フェリック!

 適当でいい、森の中に矢をぶち込んでくれ!」


 二人の放った魔法の矢が森の中に打ち込まれた。

 俺はなるべくマイトの軌道を追うようにして跳んだ。


 身体強化を使い壁をよじ登り、更に跳ぶ。

 足場がなかったのでシールドを蹴り再跳躍。

 森の中にいた魔法使いと目が合った。


 迎撃を放とうとするが、その前にミンクの放った魔法の矢が降り注ぐ。

 シールドを頭上に展開するそいつに剣を叩きつける。


「クソッ、こいつら……ただの平民のくせに! 星を、星を寄越せ!」


 意外にも、そこにいたのは貴族だった。

 いや、意外でもないか。

 俺が例外なだけで、魔法を習うことが出来るのは貴族様だけだ。

 大方こいつらがゴロツキどもをそそのかして、尖兵にしたんだろう。

 じゃなけりゃ見捨てるような真似が出来るはずがない。


 隠れていた魔法使いは計5人。近接戦闘は苦手なようだ。

 俺が1人、マイトが2人をすでに倒しており、もう1人も時間の問題。

 俺は逆に飛び最後の1人に切りかかった。


 首筋を目掛けて鉄刀を叩きつける。

 だが、それは集中シールドによって防がれた。


 相手は髭面の男で、それなりに年嵩のいった男だ。

 男は冷静に剣を受け止めると、逆の手でマジックアローを展開した。

 だが、俺は次の手をすでに打っていた。右手に魔力を収束させる。


 魔法特有の高い音を聞き、間に合わないと踏んだのだろう。

 男はもう片方の腕でシールドを展開。

 だが俺は予想を裏切り、拳を握り込み腹に叩きつけた。

 まったく予期していなかった攻撃を受け、男がくの字に折れる。

 その後頭部に剣の柄を叩き込んでやった。


「バカが、俺が魔法を使うといつ言ったんだ?」


 魔法を使うと見せかけて、パンチをすると見せかけて。

 これが俺のスタイルだ。

 単純な剣技ではマイトに勝てず、魔法の技術ではミンクに勝てない。

 総合力じゃ絶対にウルザには及ばないだろう。

 だったら俺は、俺の戦い方を貫いて行かなければならない。


 見ると、マイトは既に3人の魔法使いをノしていた。


「どうだ、クレイン。俺の方が早かったぞ」

「バカ言え、マイト。俺の方がスマートだった」

「二人とも甘い」


 いきなり声をかけられ、俺たちは震えた。

 そこにはロウがいた。


「お前……そういや見ないと思ったけど、こんなところにいたのか!?」

「お前たちが対応策を持っていないようなら、対応するつもりだった」


 それだけ言って、ロウは去って行った。

 呼び止める暇もなかった。


「わ、分からねえ……あいつだけは、本当に分からねえ」

「こっちのこと、審査でもしてるつもりか?」


 あいつの自由だ、だが何となく気に入らない。

 少なくとも一緒に活動をしている以上、協力し合っていきたい。

 だが、あいつにはその意図がないように思える。


 とはいえ、言っても仕方がない。

 進むだけだ。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 男たちが意識を取り戻したのは、10分は経った後のことだった。

 すでにクレインたちは遠くに逃げ、もはや追いつけぬ。

 貴族の少年が地団太を踏み、男を罵倒した。


「どうしてくれんだよ、あんた! このままじゃ俺たち……!」


 彼らは先の対戦で負けた方の貴族だ。

 通常平民と貴族のマッチが成されるが、そう出来ない時もある。

 そうなると、家柄の悪い貴族の方が負けることになる。

 もし勝ったとしたら、その時は死ぬよりも辛い目に遭うことになる。


「こいつらから星を奪わなきゃ俺たち騎士になれないんだぞ!

 どうすりゃいいんだ!」

「黙れ! 喚きたいのは勝手だがなあ、私だって同じ気持ちなんだ!」


 リーダーである髭面の貴族は追い詰められていた。

 他の面々は、若い。そばかすのある少女、あどけなさを残した少年。

 どれだけ年を取っていても、20より上ではないだろう。

 彼だけは違う。残された道はそれほど多くない。


 家の庇護が受けられない以上、騎士にならねば生きていけない。

 第四軍の定員がいっぱいになったと聞いた時、目の前が真っ暗になった。

 第一軍、第二軍は腕ではなくコネで配置が決まる。

 残された道はここしかなかった。


「このテストに命を賭けていたのは私だって一緒だ!

 奴らを殺してでも……」

「ほう? その意志があるんなら……お前、まだ見込みがあるな」


 ぞっとするような冷たい感触を、彼らは覚えた。

 反射的にそちらに振り向き、彼らはその姿を見た。

 見慣れた真貴族の男、アナン=クロフトスがそこにいた。


(な、なんだこいつ……ほ、本当にアナンなのか? まるで別人……)


 アナンの姿は、彼らの目には禍々しく映った。

 注意深く観察していれば気付いただろう。

 彼の目が紺碧ではなく漆黒に染まっていたことに。

 彼に手には銀色に輝く長剣が握られており、刀身は血濡れている。

 大量の返り血を浴びながらも、彼は笑っていた。


「その、血は……いったい誰を、何を殺したんだ。アナン、様」

「そこら辺に転がっている平民(ゴミ)だ。何か問題が……あったかな?」


 アナンはさも楽しそうに、ケラケラと笑った。

 一様にみな体を震わせた。


「ゴミを掃除して、世界を綺麗にする。手前ら、俺に忠誠を誓え(・・・・・・・)……!」

「なっ……! ふ、ふざけるのは止してもらおうアナン! 我々は――」


 最後まで髭面の男が発声することは出来なかった。

 アナンに喉を突かれたからだ。


 手首を返し、剣を振り払う。

 アナンはあっさりと男の首を切り落とした。

 少年少女は悲鳴を上げるが、事態はそれだけに留まらなかった。


 男の死体はすぐにシワシワになって萎んで行ったのだ。

 まるで体の中にある水分を、すべて吸い取られたかのように。


 男の血が剣を遡り、アナンの胸元へと向かって行った。

 そして、胸元の宝石に吸い込まれた。

 宝石は禍々しい輝きを放ち、血を吸い取った。


「フゥーッ……さて、いいか。

 俺の下につかねえ奴はこうなる。分かったか?」


 少年少女はコクリコクリと、糸の切れた人形のように頷いた。

 アナンはそれを満足げに見た。


 胸元の宝石が妖しく拍動したのに、彼は最期まで気付かなかった。


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