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二日目の夜/努力が出来るとは限らない

 3日という時間設定は絶妙だ。

 まともに歩けば一日と少しで辿り着くだろう。

 だが人造生物や参加者たちとの戦闘で、思いのほか時間を取られる。


 夜襲を仕掛けて来ないのは幸いだ。

 夜は化け物どもの動きが活性化するので、余程のバカでなければ動かない。

 動くバカの悲鳴がそこかしこから聞こえてくるのは、まあ仕方がない。


 放棄された建物の影に陣地を構築し、そこで休むことにした。

 屋根が落ち、壁もところどころが崩れている。

 何かの戦いがあったのかもしれない。


「泣いても笑ってもあと一日……日が昇って沈むまでですから、えっと……」


「いまはちょうど、太陽が昇ってから沈むまでの周期が同じになるからな。

 きっかり半日ってところだ。悔いの残らないようにやって行こうぜ」


 欠伸を一つして、俺は壁に背を預けた。

 見張りはロウがやってくれている、彼女なら任せても問題はないだろう。

 相変わらず自分のことを語ろうとしないが、実力だけは信じられる。

 下手をすればウルザにだって勝っていたかもしれない。


 ロウはクールだが、対照的にマイトは鬱陶しいほどにしょげている。

 ウルザとまともに打ち合っただけでは物足りないらしい。

 俺なら二、三度死んでいるはずだ。


「あんまり落ち込むなよ、マイト。お前はよくやってくれた」

「……そうだ、魔法だ」

「はぁ?」

「俺があのデカブツに負けた理由!

 魔法が使えねえから俺は負けたんだ!

 クソ、こうしちゃいられねえぞ、クレイン!

 さっさと魔法使えるようになってあいつを倒す!」


 またなんか妙な確信をもってるな、こいつ。


「落ち着けよ、マイト。

 ガキの頃さんざんやって何も出来なかったの忘れたか?」

「いーや出来る! いまの俺なら出来る!

 きっと出来る! 見てろよコラ!」


 マイトは腕を突き出し、血管が浮かぶほどなんかの力を掌に込めた。

 もちろん、やる気とか想像力でどうにかなるほど魔法は甘くない。


「……クソ! なぜだ! なぜ俺には魔法が使えないんだーッ!」

「バカだからだよ……」


 俺が言っていることは必ずしもすべて間違ってはいない。

 人間はすべて魔力を持っているが、使いこなせるかとは別だ。

 そのためには自然法則を学び、理解する必要がある。

 魔法によって変えてしまった後(・・・・・・・・)を計算する頭が必要になる。

 マイトはその辺りのことを怠ってきたから、魔法を使うことが出来ないのだ。


「くっ……くそぉっ……魔法使いなんて大嫌いだぁ……」


 魔法が使えない自分を改めて突き付けられたせいか、マイトは泣き出した。

 ウルザに負けたのがよっぽど悔しかったのだろう。

 ここまで本気になれるのは羨ましいが、しかし出来ないことは仕方ない。


 うな垂れるマイトにフェリックが寄って来た。


「落ち込むことなんてありません、マイトさん。ただ使い方が悪いだけです」

「放っておいてくれ……俺はどうせ魔法も使えない魔力なしなんだ」

「そんなことありませんよ。

 マイトさんは素晴らしい魔法の才能を持っていると思います。

 ただ、その才能が素晴らし過ぎて使い方が分からないんだと思います」


 訳が分からない、と言う顔でマイトはフェリックを見上げた。


「きっとマイトさんは内在する魔力が大きすぎるんです。

 だから魔力の調整が出来なくて、体が放出することを拒んでいる。

 下手をすれば自分を吹き飛ばしてしまうから」

「……そんなにデカい魔力持ってんのか、こいつ?」

「そうでなければあんなに高い身体能力は説明がつきませんよ」


 確かにマイトはすさまじい身体能力を持っているが、それがいったい?


「原理としては身体(フィジカル)強化(エンチャント)と同じです。

 マイトさんの肉体に内在する魔力が、身体能力を強化しているんです。

 それも無意識のうちに」

「マジかよ……シールドの一枚も張れないマイトが……」


 凄い誇らしげな目で俺のことを見て来るので、鬱陶しいことこの上ない。

 フェリックは少し考え、マイトに対して語り掛けた。


「エンチャントの使い方から復習してみませんか?

 使いこなすことが出来れば、もっと強くなれます。

 ウルザさんにだってきっと勝てるでしょう」

「あいつに勝てる……あいつに勝てる……よし、やってやらぁ!」


 マイトは勢いよく立ち上がり、フェリックと一緒に外に出て行った。


「あいつ、いったい何しようってんだ?

 よく分かんねえなあ、二人とも……」

「気になるなら見に行ったらいいじゃないですか」

「気になるけど見に行きたくないんだ。その……分かるだろう?」


 あんまりよく分からない、という風にミンクは小首を傾げた。

 俺はため息を吐いた、そうだよな、分からないよな。


 ずっとあいつと一緒にやって来て、あいつと一緒に成長して来た。

 剣の腕以外じゃあいつに負けるとは思ってもみなかった。

 けど、もしあいつが本当に魔法まで使えるようになったら、俺は……

 あいつに勝てるのだろうか?


(……勝てねえかもしれねえけど、出来ることは増やしておいた方がいい)


 俺はザゼンを組んだ。

 以前吟遊詩人の先生から教えてもらった精神集中のための姿勢だ。

 やってみるとなるほど、その通りだと分かる。


 思考が研ぎ澄まされ、いままで見えなかったものが見えて来る。

 そして、目を閉じ両手に意識を集中させる。

 魔力の球体が生成されるのが分かった。

 マジックアローを生成し、軌道を設定。俺の周りを旋回させた。


「わっ、器用ですねクレインさん。それに、何だか綺麗です」


 綺麗か。

 確かに、青白い光を放つ魔力矢は見ようによっては美しい。


「自分の体から5mくらいまでなら、結構自由に動かせるんだけどな。

 そこから先はダメ。コントロールを失って真っ直ぐ飛んで行っちまう。

 射程距離は最大で30m、そこから先は極端に威力が落ちる。

 一瞬で作れるのはこれくらい。十年鍛えて来たんだけどさ」

「マジックアローの射程距離と威力は、込められる魔力で変わりますからね」


 それは遠回しに俺の魔力が弱いと言いたいのか?

 そうではないだろう、ただこの子の才能を考えるとこの言葉は毒になる。

 出来る奴ってのは無意識に人を傷つけるからな。


「属性魔法は使えるんですか?」

「ああ、地水火風四属性は取り敢えず。威力は見ての通りだけどな」


 俺はマジックアローを分解し、続けて火球を生み出した。

 握り拳よりも少し大きい程度の火球、これが俺の最大出力。


 それを分解して、つむじ風を生み出す。

 目視されないのが利点だが、結構魔力を食う。


 風は雲へと変わり、雨を降らし、水球を作った。

 それを地面に落とすと、70cmくらいの土柱が盛り上がった。


「四属性全部を使いこなせる人って、珍しいですよ。誰に習ったんですか?」

「旅の吟遊詩人。俺たちは先生って呼んでた。思えばおかしな人だったよ」


 高貴な身なりをしているのに、とても気さくだった。

 冷静な哲人のようでいて、子供のように無邪気な人だった。

 誰も知らないことを教えてくれたが、誰でも知っていることに驚いた。

 そして、誰にも知られないうちに姿を消した。


「読み書きも計算も、剣術も魔法も、先生から教わった。

 マイトは自分に合わせて技を改良した。

 俺は先生の真似をするので精いっぱいだったよ」

「分かります。どこか型と言うか、洗練された感じがありますからね」


 そう言ってもらえると嬉しいが、どうにも。

 俺にはオリジナリティがないのだ。

 強いていうなら、魔法と剣を合わせた戦い方が俺のオリジナルか?

 でも出来る奴は大勢いる。


「属性魔法は変換効率が悪いだけだと思います。

 作り終えた後のことを計算し切れていないのかも。

 いい師匠がいれば、きっと伸びますよ」

「そりゃいいね。もののついでで悪いんだが、ミンク。

 回復魔法を教えてくれないか?」


 さすがにそれは想像もしていなかったのか、ミンクは目を丸くした。


「でも、王族にしか使えない魔法なんですよ?

 失礼ですが、クレインさんは」

「そりゃ俺は王族じゃないさ。でも、分からないだろ?

 魔法を独占するためにそう言っているだけかもしれない。

 もしかしたら俺にも使えるかもしれない。頼むよ」


 俺は両手をこすり合わせ、ミンクに頭を下げた。

 彼女は、少し迷った。


「……分かりました。でも、出来るかどうか保証は出来ませんよ」

「分かってる。それでも教えて欲しいんだ。出来なきゃそれでいい」


 戦っていくなら、そうでなくても、回復魔法は大きな力になる。

 ミンクは自分がお爺さんから教わった理論を教えてくれた。

 ところどころ虫食いになっているが、そこは解釈で誤魔化した。

 もはや彼女の一部になっており、覚えていないのだろう。


 そんなことをしているうちに、やたらとハイテンションマイトが戻って来た。


「よっ! なにやってんだ?」

「待ってる間暇だから俺も魔法を習ってた。そっちこそどうなんだよ?」


 俺の言葉に、マイトは親指を立てて答えた。

 ちゃんと口で答えろ。


「凄いですねー、マイトさん。すぐにコツを掴まれましたよ」

「ありがとよ、フェリック。これならあいつにも勝つことが出来る!」


 ……ホントか?

 ちょっと気になって来た。だが、それより傷の方が気になった。


「結構ボロボロになってるな。そんな激しい練習をしたのか?」

「ええ、僕は止めておこうって言ったんですけど……」

「何も飛んでこないんじゃヌル過ぎて練習にならねえよ。

 だから、フェリックにマジックアローを撃ってもらった。

 それを避けてるうちに、ピンと来たわけ」


 よく分からんな、相変わらず。

 これで成果が上がるんだからおかしい。


「ちょっと待ってろ、マイト。俺も習ったことを試してみたい」


 俺はマイトに手をかざし、精神を集中した。

 回復魔法とは修復(・・)ではなく、復元(・・)だ。

 傷を癒すのではなく、傷を負う前の状態に戻す。

 回復魔法とは時間と空間に作用する魔法だとミンクは言っていた。

 だからこそ、少数の人間にしか使えない。


 魔力が掌に収束し、マイトの体に注ぎ込まれて行くのが分かる。

 俺の中から生命力がごっそり吸い取られて行くような感覚があった。

 五秒と保たず俺は音を上げた。


「ハァッ、ハァッ……! どうだ、マイト。治ったか?」

「……薄皮一枚とか、かさぶた一枚とか、そんな感じ」


 限られた人間にしか使えない、と言われていた理由がよく分かった。

 あまりにも魔力の変換効率が悪すぎるのだ。

 擦過傷一つを癒すのも重労働になるだろう。


「かぁーっ、ダメか! やっぱ上手く行かねえや。やめ、やめ」

「ちょっと待っててくださいね、マイトさん。すぐに治します」


 もうちょっと何とかなるかと思っていたのだが、現実は厳しい。

 まあいい、使い物にならないということが分かっただけでも。


「取り敢えず、寝かせてもらうわ。さっきので魔力使い過ぎた……」

「おう! 明日見て驚けよ、クレイン! 俺の成長ぶりをな!」


 一夜で成長されちゃたまんねえよ。

 だが、そう思っていると急成長するのがマイトだ。

 期待と不安に胸を締め付けられながら、俺は眠りについた。


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