争奪戦/俺は最初に倒されそう
ロウ=ツィルの飛び入り参加は認められた。
これで5対5、数の上では互角だ。
「でもこれで条件が五分五分になっただけ……
いやダルクがいるからまだなお悪い。どうする、どうやって勝つ。
どうやらりゃいいんだよこれは……」
つい最近まで、勝てなくてもいいと思っていた。
別に騎士になりたい、なんて夢があったわけじゃない。
現実に打ちのめされるのは、初めてじゃない。
負けたってどうってことはない、そのはずだった。
それでも、いまは勝ちたいと思っていた。
どういう変化が起こったのか、自分でもよく分からない。
少しばかり勝ち上がれたから、欲が出て来たのか?
それとも貴族どもの横暴に、今更ながら我慢出来なくなったか?
それともあいつらの夢を応援したくなったのか?
すべてかもしれない。
自分の力がどこまで通用するのかという欲望。
偉そうにしている奴を上から押さえつける快感。
夢を持つものたちを助けたいという希望。
だから負けるわけにはいかない。
「そんなに思いつめることねえだろ、クレイン。
気楽に行こうぜ、気楽にな」
お気楽な相棒が俺の肩を叩いた。
そこには、何の気負いも見られなかった。
誰よりも夢を信じているはずなのに。
「勝てるか、負けるかは分かりません。
でも、全力でやってみましょう。クレインさん」
ミンクは少し不安を滲ませた笑顔を俺に向け、励ましてくれた。
「大丈夫、勝てますよ。僕も精一杯、お手伝いしますから」
フェリックは貴族とは思えない、柔和な笑みを俺に向けてくれた。
みんな、俺を励ましてくれている。
だったら、負けるわけにはいかない。
「状況分かってねえな、お前ら。
勝てるようにしなきゃいけねえんだ。やるぞ」
俺は自分を鼓舞するために、拳を打ち付け合った。
そうとも、負けて当たり前。だが一矢報いたい。
あいつらの思い通りにはさせないって、さっき思ったばかりだ。
誰に表明したわけではない、だが自分の思いを自分で裏切りたくはなかった。
と、そんな風に決起している俺たちを、ロウ=ツィルは覚めた目で見ていた。
「……ところであんた、この戦いに勝つための手とか思いつきます?」
「私は考えることには向いていないからな。ただ戦い、そして倒すだけだ」
吹雪でも吹いて来そうなほどクールな口ぶりだった。
いっそこちらとのコミュニケーションを否定していると思えるほどに。
いや、実際しているのかもしれないが。
「倒したいなら、あんたが出来ることを教えてくれ。
手が思いつくかもしれないからな」
ロウ=ツィルは目を伏せ、そして俺たちに近付いて来た。
微妙な緊張感が漂う。
「私は隠れ、奇襲を行うのが得意だ。これまではずっとそうして来た」
それは実技テストを見たので知っている。
気配さえ感じさせないのは先ほど見ての通り。
いままで出会ってこなかったタイプの戦士だ。
「その力は役に立つかもな。舞台となるのは死角の多い街だから」
改めて、俺はフィールドを見た。
廃墟と化して久しい、雑草や蔓草が繁茂した街が見えた。
建造物自体はしっかりしており、原形をとどめているものがほとんどだ。
上から見た限りでは左右対称な街づくりが印象的だ。
中心には広場があり、空位の台座と噴水跡が見て取れた。
そこから十字路が広がっている。
街は縦に100m、横に40mほど。
等間隔に建物が置かれているので、隠れる場所には事欠かない。
「こっから戦うなら……そうだな。マイト、一対一でウルザを押さえろ」
「任せろクレイン。押さえるだけじゃなくて、倒しても構わねえんだろ?」
「無理だから押さえるだけにしとけ。絶対に無理だ。勝とうとは思うなよ」
俺はマイトを説得するふりをして煽った。
こいつは人の言うことと逆のことがしたくなる性質なのだ。
やれと言われればやらない、やるなと言われればやる。
特に戦うなと言われるのが大嫌いだ。
案の定、マイトはブチ切れた。
「っんなワケねーだろうが! 楽勝だし!?
後で吠え面かくんじゃねえぞ!?」
カンカンになり、マイトは大股で村の中央に向けて歩いて行った。
試合の開始地点は中央広場。
最初の一撃を凌げるか、凌げないかで話が変わって来る。
「だ、大丈夫なんでしょうかマイトさん? お、怒ってますけど」
「大丈夫、大丈夫。キレてるくらいがうまく行く。
それよりこっから先が大事だ」
真正面から戦ってダルクに競り勝てるヴィジョンが浮かばない。
だが、最強の駒にして最強の将を一人で押さえてくれるなら。
「あいつが押さえている間の話だ。色々やってもらうことになるぜ」
銅鑼の音が高らかに鳴り響き、集合が命じられた。
広場にはキレたマイトがすでに立っていた。
大股で立ち相手を睨んでいる。
俺たちはその横に並んだ。
右端に俺、その次にマイト、ロウ。ミンクとフェリックが続いた。
この布陣こそがベストだ。
続けて、相手チームが出て来た。
大柄なウルザは既に剣を抜いており、鞘に赤い旗が差されている。
赤毛の男は剣と盾を持ち、金髪の女は杖を持つ。
ガキは短剣を二本弄び、アナンは俺たちを睨み剣の柄に手を掛けている。
やる気満々、って感じだ。
「そう言えば、ロウ。あんたは武器を持たないのか?」
「……この五体こそが武器だ。得物など不要」
相変わらずクールな受け答えだ。
腕にはアームガードを巻いている、あれに魔力を込めるのか?
もう少し話したかったが、老人の咳払いが聞こえた。
「それでは、この角笛の音が聞こえた時より戦いは始まる。
制限時間は……なしじゃ」
どちらかが負けるまで続くってことか。
分かりやすくていいな、反吐が出るほど。
老人はゆっくりと歩き、白線の外まで出て行った。
そして角笛を口元に当てる。
その瞬間、ウルザの魔力が爆発的に膨れ上がった。
彼の姿が陽炎めいて揺らめいて見えた。
錯覚ではない、実際に陽炎が発生しているのだ。
どこから? ウルザの体から。
彼の体表を、赤々とした炎が包み込んだ。
緑色の瞳が赤く輝き、燃えた。
どういう魔力、どういう魔法の使い方をしているんだ?
考えても分からない力……!
角笛の音が鳴り響いた。
それと同時に、ウルザは剣を振り上げた。
脇に控えていた仲間たちはバラバラな位置に飛んだ。
自分たちも危ない、ということだろう。
避けろ、と叫びシールドを展開。
ミンクが防御を固め、フェリックが避けるまでは見た。
それから先はダメだった。
赤い炎が俺の視界をすべて覆い尽くし、舐め取った。




