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1-2

家の中に入ると、不機嫌そうな表情で待ち構えていたベルティアナに出会った。

「エルにぃー。その女の人、だあれ?」

自分の兄がごろつきを退治しに行ったと思ったら、見知らぬ女性を連れて帰ってきたのだ。妹としてはどういう経緯でこういう状況になっているのか気にせずにはいられなかったのだろう。

問題の少女はびしっ、と敬礼をベルティアナに決めてみせる。

「王国特殊部隊所属、トトリ・ネイピアであります!そしてこちらが私の所有している【風】の天然装束、その守護精霊のポッチであります」

天然装束という言葉や守護精霊という言葉を聞いて彼女は顔を険しくした。

「精霊は戦うための道具じゃない。あなたがもしそういう考えの持ち主なら、私はあなたとは仲良くなれそうにありません」

そう言ってベルティアナはフロライトを手招きした。フロライトはポッチと呼ばれた精霊の周りを興味を示すようにぐるぐるとまわっていたが、しばらくするとベルティアナの手のひらの上におさまった。

 一方で、彼女の言葉に対してトトリは反論を行った。

「むむっ。私はこの仕事に誇りを持っているのです。エルマー殿。彼女は天然装束についての理解がないようなので、少々説明に時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「その必要はない。ベルティアナは精霊がどういう存在なのはよくわかっている。昔からずっと一緒に暮らしてきたからな」

エルマーはトトリにそう告げる。

「昔からずっと?」

 トトリが抱いたのはもっともな疑問だった。

 精霊という存在とエルマーたち人間との関わりの歴史はそう長くはない。王国が今の地位を築くに至った数十年前の大戦と時期を同じくして、精霊たちは人間の前に姿を現したとされる。もともと好戦的な性格の精霊が多かったのと、先の大戦で戦闘手段として投入された例もあって、精霊と言えば戦う為の道具だと認識している人も少なくない。

 その中であって、エルマー達と一緒に暮らしているフロライトという精霊は少し例外的だった。最初は母親が連れてきたのがきっかけで一つ屋根の下で暮らし始めたのだが、当然、その当時は子供だったせいもあって精霊という存在がどのように利用されていたかを彼らが知る由もなかった。そのため、精霊と言えば友達のようなもの、という認識が芽生えるのも当然なことで、そこがエルマー達がトトリの発言に対して違和感を覚えることの一つでもあったのだ。

「俺たちは小さい頃から精霊と一緒に暮らしてきた。それがこの国の中で珍しいことだということを知ったのは最近になってから。だからあんまり責めないでやってくれ。知らないで言ってるわけじゃない。むしろ俺たちのようなケースは精霊たちの生態を明らかにする上で貴重なデータになっているはずだ。必ずしも精霊は戦うための道具じゃないってね」

「理解したのです。では、もう一つ疑問なのですが、あなた達の精霊も私と同様【天然装束】の力を出せるのでしょうか?」

「それが……まったく。【天然装束】に関しては俺たちは見たことがない。そうだよな?」

 エルマーは同意を求めるようにベルティアナに視線を送り、彼女も頷いた。

【天然装束】というのは精霊が人間に力の一部を分け与えるための手段のようなもので、それを全身に纏って戦う姿から装束という名前がついた。

はっきり言って精霊については謎がまだ多い。

しかし、ただひとつ言えることは、天然装束はとても強力な兵器だと言うことである。

まず、現在の研究でわかっていることから言うと、天然装束は現在知られているどの魔法とも異なる魔力源で動いているということ。つまり、天然装束は人を選ばず、それを身に纏えば、本人の才能あるなしに関わらず、魔法を使えると言うことである。

そして、天然装束による戦闘スタイルは様々あり【通常種】と【変異種】の二つに分類できるということである。

そして、天然装束に関する事実としてもう一つ大事なことは、天然装束はその汎用性の高さと威力の強さから二十年前の戦争の戦況を大きく変化させたということである。

現在の【王国】があるのは王国がいち早く天然装束を戦争に投入したからにほかならない。天然装束を纏って戦う部隊、それが特殊部隊【十本柱】の元祖である。

その名が示す通り、王国は十体の精霊と、その精霊が分け与える計十着の天然装束を保有しており、それぞれを十人の魔法使いや戦士に託した。その結果、たった十人の部隊であったが、大きな戦果をあげ、今でも戦争を経験した者の中にはその名を聞いて震え上がる人は少なくない。

しかし、十本柱は戦争が終わったあと、一度解散している。

あまりにも強すぎるその力は王国自身にとっても危険と判断されたのだ。現在あるのは諜報や外交など目的に応じて再編された部隊で俗に二代目と呼ばれる。トトリはそんな十本柱の一人なのだ。

そして、戦争が終わって変わったことはもうひとつある。それは天然装束を解析し制御し量産することだった。王国が打ち立てた国家プロジェクト【人工装束計画】である。そして、その役割を担うのが王国公認の技術者たち、エルマー達を含む【装束設計士】なのであった。

一通りの話を終え、理解を得られたと感じたエルマーは本題に話しを戻した。

「ところで話は戻るけど、その……ネイピアさん?はどういう理由で俺を連行しようとしてたんだ?俺はてっきり乱闘騒ぎの件だと思ったんだけど」

「私がここに来た理由はヘンリエッタ先生がエルマー殿に一度お会いしたいとおっしゃっていたからなのです。エルマー殿は任命式が終わったあとすぐに姿を消してしまった故、こうしてわざわざ家までお迎えに馳せ参じた次第なのであります。ところで乱闘騒ぎとは何のことでなのでしょうか?家の前に散らかっていた男どもと何か関係がありますか?」

「いやいや関係ないよ!気にしないでくれ!」

「うーん……何か隠しているのがバレバレな反応ですが、まあいいのです。この際あまり追求しないのであります。それよりもこの人ちょっとお借りするのでありますよ」

「へ?」

 エルマーは半ば強引に腕を掴まれるとそのまま外に引きずりだされた。すると今度はトトリは上空の方を指さしてにっこりと笑った。忘れかけていたことだが、この少女は空からやって来たのだ。疑問に思ってエルマーはそのことを尋ねる。

「そういえばさっき空から降ってきたけど?」

「風に乗ってきたのであります。そっちの方が早いので」

「もしかして、帰るのも空から?」

「そう。今から飛んでいくのであります」

「ふーん。じゃあよろしく頼もうか」

エルマーはそう呟くと迷うことなく目の前の少女の体に手を回した。

「ひゃあ!どこ触ってるのでありますか!」

「だ、だって飛ぶんだろ?しっかりつかまってないと危ないじゃないか」

「ポッチが安全に飛ばしてくれるから大丈夫なのであります!いいから離れて!離れるのであります!」

「嫌だ。俺空飛ぶのに慣れてないし。怖いもん」

「何言ってるのでありますか!飛行魔法なんて魔法学院で習う基本魔法ですよ」

「俺学校に行ってないんだって。別に変なことをしようとか考えてないからモーマンタイ」

「モーマンタイじゃないのであります!」

トトリはエルマーをバシバシと叩いた。

「いいのか?急いでるんだろ?」

 結局、エルマーはトトリにおんぶされる形で目的地まで飛んでいった。着地するときに叩きつけるように投げ出されたのはトトリの気持ちの表れなのかも知れなかった。


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