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3-3

定例会は大宮殿に付属した王立研究所の会議室内で行われる。

多くの研究所は学術研究都市リフォルミスに設置されているのだが、この王立研究所だけは国王直属の機関であり、研究している内容や所属している人間などの秘匿性が高い。そこに属する研究員の肩書は特殊研究員ということになり、一般の民間の研究者と違い表に出ることは滅多にない。


エルマーが会場についた頃には既に半分以上の席が埋まっていた。

彼がこの場に呼ばれるのは初めてだったため、しばらくは奇異な目で見られた(彼の派手すぎる外見のせいでもあったかもしれない)。そんな視線を感じながら、彼は恐る恐る指定された席へと向かう。

さすがは王立研究所というだけあって、内装は豪勢であった。大きな会場の中央には派手な装飾の施された円卓がドシンと置かれており、それを取り囲むように等間隔に九つの席が設けてあった。彼はその中の一つに着席する。

エルマーはやっとの思いで一息つくと、隣に目をやる。

彼の左隣には淡い銀色の髪の端正な顔立ちの少女が座っていた(少女という表現が正しいかどうかはわからない。何しろエルマーが最年少ということは必然的に彼女は年上ということなのだから)。続いて右側の席を確認するが、そこは空席だった。

しばらくすると、バタンとドアを開ける音と同時に部屋の中は静まり返る。

ドアから入ってきたその人物を確認すると、その場にいた全員が直立で起立し、悠然と歩くその人物を目で追った。その男は王国の第二王子であるアスラル・オルディアンその人だった。アスラルはエルマーの隣を通過する際、彼をじっと見つめて静かな口調でこう告げた。

「やあ、久しぶりだね。いつもより一人多いと聞いていたが君だったか。歓迎するよ」

任命式の時は感じなかったが、改めて考えると第二王子の風格というのは、まだ若輩者だったエルマーを委縮させるのには十分なものだった。まともな返事を返せないまま黙っていると、アルラルは気にする様子もなく立ち去っていった。用意された席にアスラルが着席すると、それを合図にするかのように一同は椅子を戻した。

代わりに一人の男が立ち上がる。

「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。本日議長を務めさせて頂く、ユリウス・ファーレンハイトと申します。定例会を始める前にいくつか注意事項を行います」

三賢人の一人であるユリウスは、また【神の手】の異名を持ち、王国でもっとも有名な人物の一人に数えられる。エルマーも直接会うのはこの日が初めてだった。すらっとした長身で、その整った顔には目尻から頬の下あたりにかけて刺青(というか一種の紋章のようにも見える模様)が見て取れた。

「まず、本日、エンザ・ハンバート氏は特殊部隊での任務と重なっているということなので欠席です。その代わりといってはなんですが、本日はエルマー・アルテット氏をお呼びしております。ご存知かと思いますが、彼は先日設計士に任命されたばかりで研究時間も長くありません。ですので本日は報告というよりこの場に慣れてもらうための見学と考えて下さい。事後報告となってしまって申し訳ありません」

彼の言葉でやっとエルマーの感じた違和感の正体がわかった。他の人たちは今日エルマーが出席するということを知らなかったのだ。そういうことならまるで部外者を見るような排他的な雰囲気だったのにも納得が行く。

「では時間も少々過ぎておりますので、早速、定例会を始めさせて頂きます」

ユリウスは自分の時計を確認したあとにそう宣言した。


プログラムは概ね以下のように進んだ。

装束設計士は研究計画書を提出しているので、自分の研究が計画通りに進んでいるか否かを報告する。その上で、自分の研究内容の詳細な報告を行うのだ。時折、アスラルが口を挟んで発表が中断されることがあったが、相手が第二王子ということもあり、誰も不満などは漏らさなかった。ただ、エルマーが質問したときは露骨に見下したような感情を見せる発表者もいた(彼はアスラルと違ってきちんと用意された質疑応答の時間に尋ねたにもかかわらずだ。そういうことも含めてまだ自分は認められてないという印象を受けた)。

最初はユリウス・ファーレンハイトの発表から始まり、オーウェン・ハロウィーン、アルバート・ベインブリッジと三賢人の発表と続いて午前中のプログラムは終了した。午後のプログラムが開始されるまで一時間の休憩時間を挟むことになり、各々区切りをつけて会議室を退席して行く中、エルマーは気付いたら会議室に取り残されていた。

しかし、最後の一人ではなかった。彼の左隣に物音ひとつ立てずにじっとしている少女が一人。名前はハクア・アイステルトというエルマーに次ぐ若年の設計士だった。彼女は先程までしていなかったはずのメガネのようなものを装着し、空中のある一点をひたすら見つめている。興味を持ったエルマーが話しかけるとワンテンポ遅れて反応し、周りを見渡す動作を始めた。そして周りに誰もいないことがわかると、明らかに迷惑そうな顔でボソボソと答えた。

「私に話し掛けましたか?」

「君以外にこの部屋には誰もいないと思うんだけど」

「ええ、私もそう思います」

彼女は独特な雰囲気を持つ人だった。自分が会話の対象だとわかると装着していたメガネを外して胸ポケットにしまった。

「初めまして、ハクアと申します。あなたの名前は確かエルマー・アルテット。そう記憶しています。年齢は確か十九。若いですね。でも、女の子と仲良くなりたいのなら、他所でやって下さい。私はそう言うのにあまり興味はありませんから。だからあなたを失望させるだけだと思います。幸いにもこの場にはリリィさんという女性もいます。望むのならそちらに声をかけてはいかがですか?」

「リリィって誰だ?」

エルマーが尋ねると、ハクアは首を少し傾けて答える。

「ああ、あなたはご存じないかもしれませんね。会議にはもう一人女の人がいたと思います。彼女の名前がリリィです。レオナ博士のご息女で代理人です。レオナ博士は表にはあまり出てこない人なので。正式な装束設計士の中で女性は私だけです。でも彼女も優秀なのは間違いありません。年齢もあの娘の方が若いです。それになにより、彼女の方があなたの望むものを持っています」

「俺の望むもの?」

「あなたは女性の胸部に興味があるのではないのですか?先程も私の胸ばかりを見ていたので」

「違う!違うってば!俺はただ胸ポケットにしまったそのメガネを見ていただけだ!胸部に目をやっていたのは事実かもしれないが、決して君の胸に興味があったわけではない!勘違いしないでくれ」

「そうなの?」

そう言ってハクアは両手で自分の胸を押さえる動作をした。そして、胸ポケットのメガネを取り出すと見せつけるようにエルマーの目の前に持ってきた。

「これは【ARFM】。Augmented Reality Flow Managerの略。わかりやすく言うと、外部記憶装置みたいなもの。あなたの思っているような視力を矯正する装置ではない、と一応訂正しておきます」

「えーあーるえふえむ?外部記憶装置?」

エルマーは彼女の発した単語を繰り返した。

「そう。私には完全記憶能力というものが備わっています。しかし、見たものをそのまま記憶してしまうこの能力にはデメリットがあります。私は、情報を整理したり、特徴ごとに分類したり、法則性を見つけて未知のことを予測したりという類のことが苦手なのです。だから、多量の情報に触れた時は【ARFM】の力を使って記憶を整理する必要があります」

そこで彼女の話は一旦途切れた。

気にするほどではないが、先程からハクアの話し方には独特の間があることに彼は気付いた。会話もやけに短文に区切って話している。彼女の癖なのか、それとも単に口下手なのかはわからなかったが、変に会話が途切れてしまった以上、エルマーの方から話題を振るしかなかった。

「それにしても、今日の会議の内容、難しくてよくわかんなかったですよね?」

「そんなことはありません。アルバート博士は、最先端の装置を導入して本格的に天然装束の解析に力を入れ始めたみたいで、研究成果の中には今までの理論を裏付けるような証拠もいくつかあって、興味深かったし、天然装束の潜在能力の高さにも驚かされた。オーウェン博士は、魔力石研究の第一人者ということもあって、人工装束に搭載できる高性能な魔力石をいかに小型化できるかについての発表していて、その内容は実に意欲的だと感じた」

すると先程までの会話がまるで嘘だったみたいにハクアは急に饒舌に話し始めた。驚くエルマーを気にすることなく彼女は黙々としゃべり続ける。

「それに、ユリウス先生は……」

しかし、そこでハクアは不自然に固まった。

どうやらその視線はエルマーの背後に向けられているようだった。

「私がどうかしたのかな?」

そう言って会議室に入ってきたのはユリウス・ファーレンハイト本人だった。

「いえ、何でもありません。気になさらないで下さい、ユリウス先生」

「また他人を困らせるような事でもしたのかい?」

「私は何もしてません」

それはどうかな、という顔で今度はエルマーの顔を見た。

「ハクアのことで何か不快な思いをさせたのなら、私の方から謝ろう。彼女はかつての私の教え子だったんだよ。だから私は彼女とは長い付き合いなんだけど、ハクアは昔からあんな感じの娘でね」

それを聞いてハクアの不服そうな表情を見せたのを横目にユリウスは続けた。

「彼女は基本的に他人に協力的な態度は示さない。多分他人に興味がないんだと思うよ。それじゃダメだと何回か言って聞かせてるんだけどね。自分は研究者だからって言って聞かないんだ。確かに、自分の研究に没頭する姿勢は研究者としてはいいんだろうけど、一人の女性としてはどうなのかなって思うことはあるかな」

それ以上はハクア気に障ったようで、彼女はわざとらしく大きな音をたてると、ユリウスの方に向き直ってじーっと見つめ抗議の視線を送った。

「ユリウス先生、勝手な憶測で話を進められると困ります。私は他人に興味がないとは言った覚えがありません。人付き合いがちょっと苦手なだけです。前から言ってるじゃないですか。それに彼とは比較的仲良くしてると思ってます」

「え?」

それは初耳だった。思い返してみれば最初は胸を凝視していると勘違いされていたし、【ARFM】の話も会議内容の話もハクアの方が一方的に話しているだけだった。彼女と仲良くしたいのは事実だったが、今の状態を仲良くなったというのとはちょっと違う気がした。

そんなエルマーの雰囲気を感じ取ったのか、ハクアは声色を変えて尋ねる。

「え?もしかして違いました?初対面の人とこんなに長く話したのは初めてだから私てっきり」

「いえいえ、全然違わないです!俺達すっかり仲良しですよ!」

エルマーがそうフォローすると落ち込んでいたハクアは少し元気を取り戻したようだった。

「とにかく、あんまり困らせたらだめだよ。ハクアにとっては数少ない後輩の一人なんだから」

「大丈夫です。問題ありません」

「もしかして怒ってる?」

「怒ってません」

表情には出していなかったが、彼女の気が立っていることはエルマーの目から見ても明らかだった。ユリウスはそんな彼女の態度を見て、これ以上不毛な争いはしたくない、という様子で足早に会場をあとにした。ユリウスが姿を消したのを確認すると、彼女は安堵したように大きな溜息をついた。

そんな彼女の様子を窺うようにエルマーが視線を送ると、彼女は過剰にびくっと反応して、口をパクパクと動かしながら独り言のように呟いた。

「あの、その。さっきはごめんなさい。あなたに不快感を与えてしまったのなら謝ります。私は他人とコミュニケーションをとるのが少々苦手らしく、努力はしてるんですけど、私が意図したものと違う印象を相手に与えてしまうことが多々あるようです。だから決してあなたのことが嫌いとかそういうことじゃないんです」

「大丈夫気にしてないですよ」

「それなら良かったです」

ハクアは終始エルマーと目を合わすことはなかったが、それは単なる照れ隠しで、本当は彼女なりに精一杯努力しているのかも知れないと心の中でこっそりと考えた。それからまたしばらく沈黙が続いたあと、ハクアは再び小さな声で呟いた。

「あと、これから頑張ってください。私も若い頃はプレッシャーに弱くて研究とかうまくいかなかったものですから。うまくいくといいですね」

それだけ言い残すと、ハクアもユリウスの後を追うようにそそくさと会場をあとにした。彼女の言葉は確かにわかりにくかったが、本当に彼女は自己表現が苦手なだけの女の子なのかもしれない。そう思うとエルマーは彼女に好感すら覚え、彼女が願ったように自分も研究者として力をつけて行こうと思ったのだった。


午後になった。

最初の発表者は、まだ幼さを顔に残した少女からだった。彼女が装束設計士の変人、レオナ・クラウチの娘だということはハクアから聞いていたので知っていたが、その立ち振る舞いは実に大人びていてとてもシロエやクロノと同い年には見えなかった。

「レオナ博士の代理で参りました、リリィです。本日は博士から資料を預かっていますので、それに沿って発表したいと思っております。では……」

彼女の発表は実に理路整然としたものだった。エルマーも配られた資料に目を通したが、書かれてある内容を理解するにはどうにも時間がかかった。レオナ博士が医学に精通しているという事前情報の通り、書いてある内容は天然装束についてというより【人間の体内構造と魔力の親和性】という医学に関するものだった。

リリィは発表を終えると再び会釈をして席に戻る。そして、五分間の交代時間の後、席を立ったのはエルマーの左隣の少女だった。リリィの次はハクアとなっていた。

「ハクア・アイステルトです。資料の二ページ目を見てください……」

ハクアはエルマーと話している時とはまた違った表情を見せる。やはりハクアは研究のことをしゃべらせると比較的饒舌になるらしい。発表の内容は主に生物化学に関するもの。おそらく彼女の専門分野だろう。一通りのスピーチを終えると彼女は満足げな表情を浮かべて、質疑応答もそつなくこなすと軽やかな足取りでエルマーの隣に戻ってきた。

「おつかれさま」

「ありがとう。これくらいのことならもう慣れている。問題ない」

ハクアはそう言って再び笑って見せた。

ハクアの発表も終わり、あとは最後の発表者を残すのみとなった。

最後の発表者はシオン・エトワール。ヘンリエッタが警戒するように言っていた人物の一人でもあった。どうやら彼で最後を飾るというのは本人たっての希望らしく、相当な自信家であることがうかがえた。

若手研究者のエースと言われる彼の発表に注目が集まる。

「改めまして。シオン・エトワールです。本日、僕が今日この場で発表する内容は人工装束を作る研究に一石を投じることになるでしょう」

彼の発表はそんな言葉から始まった。

「昔から人工装束の研究においては一つの大きな壁が存在しました。それは天然装束に含まれる魔力の密度の問題です。オーウェン博士が魔力石を作って以来、この国の暮らしは大きく変わりました。けれども、魔力石に使われている規格の魔力密度で人工装束を作ろうとすると、少なくとも天然装束の十倍以上の体積が必要となります。それでは兵器として意味がありません」

彼の身振り手振りは大きく、聞いている者の期待を煽るものだった。

「しかし、その悩みも今日で終わりになるでしょう。僕の研究所では人工装束を作る過程で避けることのできないこの難題をある画期的な方法で解決しました。それが魔力の無線送信システムです」

無線送信システム、その言葉を聞いてエルマーは昔に呼んだ文献の記憶を思い返していた。確か、アイデア自体は前からあったはずだ。それを今さら持ち出してきたということは、おそらく何らかの技術革新があったのだろうと推測できた。エルマーは一層興味を持って彼の話に耳を傾ける。

「この技術を応用すれば、天然装束以上の魔力を持って人工装束を動かすことができます。そうなると人工装束は単なるアシストツールを超えて、メインウェポンとして機能することになります」

「けれども、実用化に足る無線送信技術の確立なんて、まだ先の未来の話じゃないのか。そんなこと昔から言われている。それとももしや、その技術が確立された未来というのが、今だと君は言いたいのかな?」

そう言葉を発したのは、アスラルだった。

「その通りです、陛下。詳しくはまだ言えませんが、僕の研究所の持っている無線送信技術はすでに実用化レベルにまで達しています」

その言葉に驚きを隠せなかったのはアスラルだけではなかった。そしてそれはシオンが望んでいた反応そのものであり、それを確認すると、彼は最高に誇った顔でスクリーンに彼の持っている技術の集大成と言えるものを映し出した。

「紹介しましょう、これ僕の研究所が総力をあげて作り上げた、自律型戦闘用アンドロイド【ポラリス】です」

見た目は天然装束のデザインを模したものだったが、決定的に違うのは、それが装着用の兵器ではなく、それ単体ですでに人型を為しているという点だった。それはまさに無人兵器そのものだった。

「もちろんこれは先行発表に過ぎません。コストの面なども含めて課題が少々残っているので、今後の研究でそこら辺は解決していきたいと考えています。けれども断言しましょう。そう遠くない未来に全ての問題はクリアされ、このポラリスがこの国の歴史を変えることを」

そう言い残してシオンは壇上を降りた。

これで予定されていた全てのプログラムは全て終了したが、やはり一番衝撃を与えたのはシオンの発表だった。そのことはエルマーだけではなく、その場にいた人全ての共通認識のようで、会の最後にアスラルがそのことに触れたことからも伺える。

そして、会議が終わってエルマーが帰ろうとしていたときだった。エルマーが扉を出るより先にシオンが彼のもとを訪れた。

「何か用ですか?」

そしてシオンはエルマーにある提案を申し入れた。

「君、僕の研究所で働いてみる気はないかい?」

それは驚くべき提案だった。エルマーがしばらく考えあぐねていると畳み掛けるように彼は追加の提案をしてきた。

「もちろん待遇の面は心配しなくていい。報酬も研究環境も最高の準備ができている。不満があればすぐにでも検討しよう」

エトワール家の研究所といえば誰もが入りたがる場所である。そんなところの研究員として採用されるということは、それこそ普通の研究員にとっては願ってもない話であろう。

けれども、エルマーは違った。

ヘンリエッタの忠告のこともあったが、何より家族に迷惑をかけるほど研究に没頭する気はなかったのだ。だから研究所は自宅に作ったし、そこ以外で働く気は更々なかった。

「提案はありがたいんですけど、お断りします」

「そうか、ならせめてこれから一緒に食事でもどうだろうか?お互いの研究理念についてぜひ話し合いたい」

「今日はちょっと。それとも俺の家に来ますか?そしたら一緒に食事もできますし」

エルマーの提案にシオンは少々困ったような顔をした。エルマーは断るものだと思っていたが、最終的にシオンは同意し二人はアルテット家で一緒に食事をとることになった。エルマーはその場でベルティアナに一本連絡を入れた後、シオンを連れてその場を後にしようとした。しかし、シオンとは別の誰かに去り際に急に服を掴まれ動きを止められた。

「ちょっと待って」

呼び止めたのはハクアだった。その様子を眺めていたシオンは一言断りを入れる。

「別に急ぐ必要はないよ。僕も一旦研究所に戻りたいし後で君の家に合流するよ」

そう言ってシオンは王国研究所を後にした。一方で、ハクアはエルマーの服を掴んだままシオンが立ち去るまでじっとしていた。何か言いたいことでもあるのだろうかと思ったが、結局、手渡されたのは紙切れ一枚だった。

「これ、私の名刺。せっかく仲良くなれたんだから、何かあったら連絡ちょうだい。協力できることがあるかもしれないし。ほら、私、先輩だから」

「あ、うん……ありがとう」

それを聞いてハクアは微かに笑って軽く頷くと、そそくさと扉から出て行った。

相変わらず、彼女は研究以外のことは苦手なんだなと感じる出来事だった。

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