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2-6

エルマーが目を覚ましたのは、それから三十分後のことだった。

目を開けると、ベルティアナは、エルマーの顔を覗き混んでいた。

「しょうがないなぁ。無茶し過ぎだよ」

多少は無茶をし過ぎたかもしれない。けれども得られた結果はエルマーが満足そうな表情を浮かべるには十分だった。

「本当にありがとね、エルにぃ」

エルマーに聞こえるかは定かではなかったが、ベルティアナは確かにそう呟いた。エルマーもしばらくしてそれに答えるように微笑んだのだが、戦闘不能の四人の手当てとその他色々な後始末に追われる彼女にはその笑みは届くことはなかった。


決闘の結果は、エルマーの勝利で終わった。しかし、彼は彼女たちに家を取り戻すのを諦めてくれとは素直には言えなかった。テトラ側にも色々な事情があることを知ったからだ。

「ヘンリエッタ先生。今回の件、もう少し穏便に済ませることはできなかったんですか?」

「真剣勝負で殴り合って初めてわかることだってあるもんさ」

「それは、ヘンリエッタ先生が昔やんちゃしてたからそんなことが言えるんですよ。もし負けてたらエルくんたちは家を失ってたかもしれないんですよ」

「そのことなら問題ない。だって私は勝った方の主張を認めると言ったか?私が言ったのは、勝負の結果を見て判断する、それだけだ。一言も勝敗のことは言っていない」

「な……それって最初から家を明け渡す気はなかったってことじゃないですか!」

「違う。そもそも、今回の件であの二人は分かり合えるはずだと私は信じているんだよ。なぜなら、今回の件の真実を私は知っているからだ。けれども、その真実は私の口から話すべきではないと思っている。きっとあの二人なら正しい道を見つけるさ。それよりもトトリ、後始末の方、よろしく頼むよ」

そう言い残してヘンリエッタは通信を切ったのだった。


エルマー達は負傷した傷を癒すため、家へと足を運んだ。

しかし、ここで一つ問題が起きていた。リステリアが一向に目覚めなかったのだ。

「なあ、もしかして俺があのときやり過ぎたせいなのか?」

「心配しなくて大丈夫デスよ。リステリアはとてつもない力が出せる分、回復が少し遅いんデス。あなたのせいではないデスよ」

それはきっと彼女が決闘中に話した身の上話と関係があるのだろう、とエルマーは思考を巡らせた。するとその様子に気づいたテトラは、隠す様子もなく口を開く。

「もうリステリア自身がバラしちゃった、ってことデスから話しますけど、彼女は普通の人間ではないデスよ」

テトラは目の前に横たわる彼女の頭を優しく撫でながらこう語り始める。

「リステリアは特殊な魔法使いで、代々【血】に関する研究を行ってきた一族の最後の生き残りデス。俗に【吸血鬼】などと呼ばれていた時期もあったそうデスが、その実情は、血液からその人の遺伝子情報を読み取ってその人のオリジナルの魔法を再現する技術、もしくはその機能を有する器官を体内に持っている魔法使いデス。まあ、私もリステリアとそんなに長いつきあいではないので、彼女が言っていることが本当かどうかはわからないデス。でも確かに言えることはリステリアはこんなに幼い容姿をしていながら、とてつもなく強いということデス」

エルマー自身も魔法に関する知識には精通している自信があったのだが、そのような魔法使いの話は聞いたことがなかった。もし彼女の話が本当なら、科学者たちの興味を惹いたというさっきの話も頷けるものではあった。ただ、リステリアが最後の生き残りだという言葉が示す意味を考えると、きっと良くないことが彼女の身の上に起きたことは容易に想像ができた。

「まあ、この能力のせいで彼女は決して幸せとは言えない人生を歩むことになるデス。知ってるデスか、この国ではかつて戦争に勝つためという名目で人体実験が躊躇なく行われていたんデス。もちろん、リステリアもその一人でした。でも、そんな彼女を救ったのが私のお母さんだったんデス。私のお母さんは科学者だったんデスよ。まあ、それも昔の話デスけど」

エルマーはその時、彼女の声のトーンが一段階落ちたのに気付いた。

母親の話になるとテトラの瞳は何だか悲しそうだった。

「科学者としての能力が高かった分、ヤバイ研究に関わっていたんでしょうね。お母さんは私をおじの所に預けて十年以上前に姿をくらましました。結局私に残されたものは、お母さんの写真が入ったこのペンダントと、お母さんが以前住んでいたこの家だけだったんです」

それはエルマーが想像していたよりもずっと重い話だった。

その話を聞いた上で彼女たちがどんな思いでこの家を明け渡せと言ったのか、自分達にそれを否定するだけの思い入れがこの家にあるのか、そう問われると簡単に天秤にかけていいような話ではないような気がした。

しかし、そんなエルマーの曇った表情を見て、テトラは告げる。

「ああでも、もう心配しないで下さい。もうこの家を力づくで奪うつもりはないデスから。私は本気で勝つつもりでいたんデス。そのためにこれだけの武器も揃えて、リステリアにもついてきてもらったデス。そこまで用意周到に準備して挑んでその上で私たちは負けたデス。もう諦めはついたデスよ。正直、私は何も知らない人達がこの家でのうのうと暮らしていることが我慢ならなかっただけデスから。私の思いを聞いてもらえただけでも私はもう満足デスよ」

そこまで言うとテトラは辺りを見渡し、座れる場所を見つけると深く腰を下ろした。

「ああ、でももう少しだけここに居るデスよ。リステリアと銃器の荷物を抱えて帰るのは無理デスので、リステリアが目を覚ますまで、デス」

「だったら、傷の手当てをさせてもらえるかな?傷だらけの姿で帰らせるのも申し訳ないし」

ベルティアナが店の奥から救急箱を持ってきて言った。

「大丈夫デスよ。気にしないで下さい」

「ダメだよ。エルにぃ、私たち向こうの部屋に行くから絶対に覗かないでね!」

そう言ってベルティアナはテトラを連れて部屋を移動した。

「髪もぼさぼさじゃん。結い直してあげる」

テトラの髪飾りに手を触れた時だった。途端にテトラの金髪が急速に髪が短くなった。その変化を間近で見たベルティアナ、は正直驚きを隠せなかった。

「はう……。ひどいです。せっかく完璧な変装だったのに……」

テトラは急にしおらしくなって肩を落とした。心なしか若干口調も変化している。

「驚かせてすみません。実はこれが本来の私の姿なんです。この髪飾りは【デジタルマルチウィッグ】と呼ばれるアイテムで、髪型を変えたり髪色を変えたりできる変装道具なんです。非売品ですから知らないと思いますけど」

「すごーい!こんなのあるんだ!私も欲しいな。女の子ならおしゃれに気を遣って当然だよね」

「話が分かる人がいてよかったデス」

テトラはすっかりベルティアナと打ち解けると、今度はおとなしく彼女に身をゆだねた。

「妹さんは恵まれてますね。あんなに頼れるお兄さんがいて」

「ベルティアナだよ。そう呼んで」

ベルティアナはそう言い返す。

「じゃあ、ベルティアナさん」

「何だかよそよそしいなあ。でもいいや。よろしくね、テトラちゃん」

改めて彼女を見ると、まず印象に残るのはその金色の髪だった。エルマーの髪色よりも鮮やかに、ベルティアナの髪よりもしなやかに。まるで周りの空間から浮いているようにも見えたテトラの髪に目を奪われた。

「うん?どうかしたデスか?」

テトラに指摘されて初めてベルティアナは金髪に見とれていたことに気付いた。

「いえいえ、何でもありません。ただ綺麗な髪だなって思って」

「あれ~?うらやましいんデスか?ふ~ん」

「別にそんなことないですよ!」

ベルティアナが若干の嫉妬交じりに呟くと、テトラはにかっと笑いを浮かべた。

「そういうあなたも特徴的な髪をしているデス。あなたの髪の上で尻尾みたいにぴょんぴょん揺れていてかわいいデスよ」

「尻尾って……。別に無理に褒めてくれなくてもいいですよ」

「もしかして自分の髪はお嫌いデスか?」

「嫌いなわけありません!この髪型は子供っぽいと思われるかもしれませんが、私は昔からこの髪型を気に入っているんです。エルにぃも可愛いって言ってくれるし」

そう説明すると、テトラはある考えが思いついたようで、途端に含みがあるような笑みを浮かべながら言った。

「わかったデス。もしかして妬いてるんデスか?お兄さんが私みたいな美人な女の子を連れてきたから」

「や、妬いてなんかいませんよ!エルにぃは女の子に優しすぎるから私がしっかり教育してやらないといけないと思って目を光らせているだけ」

そこでベルティアナはそう言って恥ずかしそうに口を閉じる。それを聞いたテトラは虚を突かれた顔を浮かべたあと、すぐに合点がいった表情になったのだった。

「ふふっ。本当にあなたはお兄さんが好きなんデスね。羨ましいデス」

「そうだよ。羨ましいでしょ」

「うーらーやーまーしーぃ。私にも頂戴」

「だーめー。ふふっ」

 傍から見ると、二人は仲の良い姉妹のようだった。


着替えを終えて部屋から出てくると、髪飾りを外してまるで別人のような様変わりをしたテトラは一同の注目を集めることとなった。

「誰だお前?」

「ひっどーい。テトラちゃんだよ。見てわからないの?」

「わからねえよ!」

テトラは得意げな表情を見せながら部屋を見渡した。その時、彼女はある写真に目を止めた。

「これって」

それはアルトアリスにいた頃、家族全員で撮った写真だった。

「それは家族写真だよ。真ん中に写っているのが母さん」

それを見るとなぜか彼女は涙を流し始めた。

「そういうことだったんですね」

「おいおいどうしたんだ?」

わけがわからず、エルマーもベルティアナも困り果てた。

彼女は手で涙を拭ってこう言った。

「取り乱してすみません。あなた達がこの写真を持ってるとは思ってなかったです。もう一度あなたたちに自己紹介しなければならないです」

そういって彼女はペンダントの写真を見せる。

「私の名前はテトラ。そして、おそらくあなたたちがお母さんと呼んでいる人物の、血縁者であり、一人娘です」

彼女は自分の首から下がっているペンダントの写真を見せた。

彼女が見せたペンダントの写真の中には、確かにエリーと思われる人物が写っていた。


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