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2-5

決闘は、トトリに連れられて町外れにある空き地で行われた。

エルマー、アキト、トトリ、テトラ、そしてリステリアの五人はそれぞれ準備運動を繰り返しながら開始の合図を待った。

見届け人はベルティアナと中継中のヘンリエッタ。

 ヘンリエッタが先ほど言い放ったリステリアに関する言葉が気がかりだったが、その言葉の真意は開戦後すぐに思い知らされることになった。

みんなが緊張する一瞬。

戦いの火蓋はベルティアナの一声と共に切って落とされた。

「はじめっ!」

 まず動いたのはリステリアだった。

 リステリアは大きく深呼吸すると、ゆっくりと目を閉じた。

そして、呟く。

「本気で行かせてもらいます!」

 カッと目を見開いたかと思うと、次の瞬間、文字通り彼女の目の色が変わっていた。それは燃えるような赤、いや、血のように真っ赤に染まった赤色の目だった。

 瞬間、リステリアが地面を蹴る。

大地は、ぐしゃっ、と沈み、風を切るようなつんざく音を響かせながら真っ直ぐ殺意をもって突進してきた。

 最初の標的はアキトだった。アキトはそれを避ける暇などなくそのまま衝撃を受ける。ぐちゃ、っという肋骨が沈み込む音が響くと同時に、彼の体は宙に浮き、リステリアが突っ込んできたそのままのスピードで今度はアキトがものすごい勢いで弾き飛ばされた。

「アキトッ!嘘……だろ」

 エルマーはあまりの急展開に頭が追い付かずそう叫んだ。しかし、彼はそんなことをしている暇などなかった。

 リステリアのその燃えるような、けれどもどこか冷たさを感じさせる瞳は次の標的としてエルマーの姿を捉えていた。彼女は、きゅっ、と方向転換を済ませると、今度は獣のように四足を使って加速した。

大地を駆けるその動作は、もはや人間のそれとは思えなかった。普通の人間の筋肉が彼女が見せているような動きに耐えられるはずがないのだ。だとしたら彼女の正体は……

 そんなことを思案しているうちに、リステリアの鋭い一撃はエルマーを捉え、彼を彼方へと吹っ飛ばしたのだった。

「第一、第二目標、共に排除を確認。標的を第三目標へと移します!」

「リステリア、上出来デス。今さら後悔しても遅いデスよ。私たちは本気なんデス。よ。勝負は勝負、勝たせてもらうデス!」

 リステリアは次の攻撃目標をトトリに変え、テトラは【鉱石魔法銃】の銃口をトトリに向けた。普段の【絶対防御】が使える彼女ならそんな状況はピンチでもなんでもなかったのだが、今の彼女はハンデで魔法の使用を禁止されている。それが彼女にとってどれ程戦力を削がれた状態なのか想像に難くない。

 トトリはリステリアと言う戦力未知数の敵を目の前にして冷や汗のようなものを流していた。その動揺の隙をつくようにリステリアはあっという間にトトリとの距離を詰めた。刹那、衝撃が走る。しかし、トトリは自身の驚異的な動体視力にものを言わせて、リステリアの攻撃をギリギリで受け流していた。

「痛ったいなあ、っていうかこんな動きが普通の女の子にできるとはどうしても私には思えないんだけど?あなた一体何者?」

「余裕なんかかましていていいんですか?あなたが負けたらあの人たちの家が無くなるんですよ?ハンデがあるとはいえ、せっかく十本柱の一人とお手合わせなんですから、がっかりさせないでくださいよ」

 先に攻撃を決めたのはリステリアだった。

 何が起きたか理解できないまま、次の瞬間にはトトリの体は宙を舞った。

あとから訪れる鈍い痛みを感じながら彼女は後悔した。彼女の驚異的な身体能力を考慮しておくべきだったと。まさかあの体勢から無理矢理体を捻って蹴りを繰り出すとは思わなかったのだ。直前で気付いて少しは衝撃を吸収できたものの、抑えきれなかったエネルギーは彼女の体を貫き、まるで放物線を描くように斜め後ろへ弾き飛ばされた。トトリは飛ばされている途中でテトラが【鉱石魔法銃】を使って彼女を捉えているのを視界の端で確認した。

「これでくたばれぇ、デス!」

「まずったぁ。魔法さえ使えればこんな状況ピンチでもなんでもないのにぃぃ!」

 まず、テトラは彼女に向かって一発の銃弾を放った。

 バンっ、という音を響かせると銃弾は真っ直ぐにトトリの元へ飛んでいく……とはいかず、宙を舞う彼女の動きに合わせて自動補正されて曲がって飛んで行った。  

魔力弾の主な特徴は二つある。

魔力のこもった弾である魔力弾には自動照準機能と威力調整機能がついている。この二つの機能は互いに相補の関係にあり、どんなに的から外れた弾であっても確実に相手を仕留めるが、自動補正された分、威力調整に割ける魔力は減り威力は落ちる。魔力弾の最大限の効果を発揮したいのなら、やはり自動照準には頼らずに撃つべきである。

 そんなことを知ってか知らずか、テトラは念のためにもう一発撃ち放つ。テトラの手元を離れた二発の銃弾は魔法の使えないトトリを襲う。

「こうなったら一か八かだ!」

 トトリは懐から護身用の短剣を取り出す。

 まず一発目は左側から襲来する。それを視界も不明瞭なままかろうじて捉えたトトリは一思いに短剣で叩き切る。ジャキっという短剣と銃弾が接触した金属音が響く。その瞬間、魔力弾に込められていた魔力が発動する。

それはただの小さな衝撃波だったがトトリの右手に無数の小さな切り傷を作り、短剣を弾き飛ばすには十分な威力だった。

 そして防ぐ手段を失ったトトリを襲うは二発目の銃弾。それは小さな悲鳴と共に彼女の右肩を貫いた。

「これで私たちのーーッ」

「完全勝利デス!」

 痛みのあまり、ちゃんとした着地体勢もとれなかったトトリは着地の衝撃で更なる痛みを味わうことになった。そんな彼女を取り囲むようにテトラとリステリアはやってきてトトリを見下ろす。しかし、二人を見上げるトトリの表情は……笑っていた。

「何を笑ってるデス」

「思い出したのよ。この戦闘はもともと五人で始めたものだってこと」

「何を言ってるデス。あの二人ならさっきもう……」

そしてリステリアは気づいた。背後に迫る二つの影の存在に。

「そうだ!俺たちを……」

「忘れてもらっちゃ、困る!」

 彼女たちを襲ったのは死角からの予想外の攻撃だった。トトリのピンチに陰から現れたのはやられたはずの二人、アキトとエルマーだった。その一撃は確かにリステリアとテトラを貫き、テトラは派手に飛んで行った。何とか持ちこたえたリステリアもダメージは少なくなかった。

「どうして?」

 リステリアは悔しそうに叫ぶ。

「俺たちの実力を見誤ったな?なあ兄貴?」

「そういうことだ。お前の攻撃、結構痛かったぜ」

 その言葉通り、二人の体はぼろぼろで、一部流血も見られる有様だった。しかし、確かに二人はリステリアの前に立っていた。弱者だと思っていた敵に見下される。これほどまでにリステリアのプライドを傷つける光景はなかった。

「ああぁぁぁぁあああーーッ!」

 リステリアは雄叫びを上げながら再び四足で大地を蹴り、一番近くにいたエルマーに渾身の一撃をぶつける。しかし、ダメージを与えられた感触は伝わってこなかった。代わりに感じるのは堅い何かに防がれたような感触。土埃が晴れ彼女の目に飛び込んできたのは、エルマーが半透明の武具で彼女の攻撃を塞いでいる光景だった。

「すまねえな。同じ攻撃は二度通用しねえよ。【クォーツシールド】、水晶盾とでも名付けようか」

「そうでした。あなたが【水晶魔術師】だということを失念していました」

 水晶盾を突破するのは無理だと判断したのか、リステリアは一旦距離を取り、テトラのいる場所まで下がった。しかし、それは次の作戦の布石でもあった。

「テトラさん。こうなったらあれを使って一気にかたをつけましょう」

「それが得策のようデスね。さっそく準備するデスよ」

 そう言って彼女が手にしたのは、彼女たちがエルマーの店を訪ねてきた時から持っていた大きなアタッシュケースだった。それを開け、中から取り出したのは、小さなリングだった。リステリアはそれを両手首と両足首、そして首の五箇所に取りつけた。そして、次にケースから取り出したのはなんと、機関銃だった。おそらく魔法銃の一種だろうが、先程のようなレトロな鉱石魔法銃ではない。おそらく最新型だろう。

「そちらが【水晶魔術師】なら、こちらは【魔法銃使い】を名乗らせていただくデスよ」

「おいおい本気かよ」

「私たちはどこまでも本気デスよ」

 そう言ってテトラは引き金を引いた。途端に銃弾の雨が辺りに降り注ぐ。

 エルマーは水晶盾を斜めに構え直し、なんとか耐え凌いでいた。アキトとトトリはそれを防ぐ術がないため、障害物に身を潜めるしかなかった。しかし、岩をも貫通するその威力、がりがりと削られていく光景を前にして、隠れ蓑がなくなるのも時間の問題だった。

しかし、ここからエルマーは彼女たちの本当の恐ろしさを知ることになる。なんと銃弾の雨の中リステリアが再び突進してきたのだ。

「なんで、銃弾が平気なんだよ!」

エルマーは彼女の攻撃を防ぎながら疑問をぶつけた。しかし、その答えはすぐにわかった。銃弾がリステリアだけを綺麗によけて飛んでいるのだ。彼女が先ほど身につけた小さなリング、それが目印になって軌道が補正されているのだ。

「私が近接戦闘、テトラさんが遠方援護。それが私たちの戦闘スタイルです!」

 そう言って彼女は背後に回り込んだ。銃弾を防ぐので精一杯なため、背後に回られたらどうしようもできなかった。脇腹に強い衝撃を受けエルマーは無様に転がりこんだ。

「次はあなたたちの番です」

 リステリアは残りの二人の方向へとゆっくりと歩みを進める。アキトとトトリは銃弾に当たらないように場所を移動しながらリステリアと応戦するしかなかった。

「これはまずいことになったな……」

「せめてどちらかの脅威を排除できれば楽なんですけどね。やはり身を隠しながら弾切れを待つしかないようです」

「そんなことしてたら、あの化け物の格好の餌になっちまう!」

「では、テトラさんの所に行って射撃をやめさせますか?この弾丸の雨の中を?」

 それはとてもじゃないが困難なことのように思えた。しかし、アキトは違った。

「なるほど。それは良い考えだ」

「はあ?あなたが怖いもの知らずだということは知っていますが、全ての銃弾をよけきるのは無理です。たどり着く前にあなたが倒れるのが関の山ですよ」

「だったら銃弾がない場所を突っ切ればいい」

「そんな場所、どこに?」

 アキトは得意げに上方向を指さした。

「空を飛んでいく」

 飛行魔法は確かに存在する。しかし、アキトはそんな魔法は使えないはずだ。トトリも魔法使用を禁止されている。しかし、アキトは空を飛ぶのだと言い切った。

「詳しく説明している時間はない!トトリ!俺を思いっきり上方向に投げ飛ばしてくれ!あとは俺が何とかする!」

「もう!どうなっても知らないんだからあ!」

 アキトはトトリに自分の身を預け、トトリはそれをさながら人間大砲のごとく打ち上げた。

「いっけぇ!」

 彼の読みは完璧だった。アキトはリステリアの上方を難なく通り抜け、テトラのもとへと一直線だった。彼女もアキトの存在に気づき、射線を上方修正したものの、惜しくも彼には届かなかった。このまま彼は任務を完了する……はずだった。

 しかし、ここでテトラは最終兵器を登場させた。なんとケースの中にはもう一つ武器が隠されていたのだった。

「くそ!一体どんだけ準備してきたんだあいつらは!」

 彼女が取り出したのは、【小型のホーミング爆弾】だった。テトラは持っていた機関銃を投げ捨てると、ケースの中のホーミング爆弾の全てをアキトに照準を合わせて、空中へと放ち自分は安全圏へと逃走した。

「残念でしたね。頑張りは認めますが、これであなたも終わりデス」

「ちくしょう!終わりにできるかよ!」

 それはアキトの最後の悪あがきだった。彼は右足でホーミング爆弾の一つを捉えるとそれを思いっきり蹴り飛ばしたのだ。もちろん、テトラの逃走方向へと向かって。

「な、なんデスと!」

テトラは予想外の反撃に情けない声を上げながら爆発四散した。アキトも一矢は報いたものの無事で済むはずはなく、こちらもしっかりとノックアウトされこの段階で脱落者は二名となった。


 一方で、掃射攻撃の脅威がなくなったトトリは、再びリステリアと対峙することとなった。

「よくもやってくれましたね。このままで済むとは思わないで下さいよ」

 そういって彼女はトトリに猛攻を仕掛けた。しかし、相手は戦闘のプロである。一度はリステリアの戦力を見誤って後れを取ったものの、二度目の失敗はあるはずがなかった。たとえ魔法の使用を禁止されていたとしても、トトリは強かった。

 一度は彼女の懐に入ったものの、逆にその勢いを利用されてリステリアは強力なカウンターを食らう羽目になった。その攻撃が予想以上に効いたのか、リステリアはしばらく地面にうずくまったままだった。

「もう降参したら?さっきより動きが鈍くなってる。きっとダメージが残ってるんでしょう?もう勝ち目はないよ」

「それでも、私には為さねばならないことがあるんです」

 リステリアはボロボロになりながらも、不屈の精神で立ち上がる。

「一体何があなたをそこまで駆り立てるの?」

「テトラさんに対する恩返しですよ。あなたさっき言いましたよね?私は人間なのかと。答えてあげますよ。私は普通の人間ではありません。少々特殊な魔法を使ってます。あなた方が私に向けた好奇の目、それは今まで何人もの人間に向けられてきました。特に科学者と呼ばれる人種には格好の研究材料だったのでしょう。死よりもおぞましいことを体験しましたよ。そんな私に救いの手を差し伸べてくれたのが、テトラさんとテトラさんのお母さんです。だから、私はこの身がどうなってでもテトラさんの夢を叶えてあげたい、いや、叶えなくちゃいけないんです!」

 リステリアは渾身の力を振り絞って拳を振りおろす。しかし、それはトトリが片手で防げるほどの弱弱しいものだった。

「あなたには理解できないでしょうね。でもあなたが負けを認めてくれるというのなら、好きなだけ話して聞かせましょう。あなたは今回の件ではもともと部外者です。あの家に対する愛着も皆無でしょうから、勝ちにこだわる理由もないはずです。さあ、どうしますか?」

「そうね、確かに私には無関係かもしれない。だから言われたとおりに負けを認めてもいい。でも、当事者同士の話し合いはちゃんと決着をつけなくちゃね」

 トトリの言っている意味が分からずに首をかしげていると、彼女は黙ってリステリアのう後方を指さした。

 そこには、エルマーが立っていた。

「いつの間に?」

「黙って話を聞いていれば、好き勝手言ってんじゃねえよ。俺はまだ負けてねえ」

「でもあなたも随分とボロボロじゃないですか。負けを認めた方が身のためですよ」

「俺は少々諦めが悪いんだ。俺は母さんから弟や妹を頼むと任された。だからこんなところで音を上げているわけにはいかない。俺は四年前のあの日に親を失った、家も失った。でも夢までは失ってない。必死に這い上がってここまで来たんだ。いつか店を開きたいって言う母さんの思いを受け継いだ妹の夢、いつか誰よりも強くなりたいって言った弟の夢、もっと勉強したい、学校に行きたいって言う夢だって俺は出来る限り叶えてきた。なぜならそれが天国の母さんを安心させる唯一の方法だと俺は信じてるからだ」

「残念ですがその夢もここで潰えるんです。なぜなら勝つのは私だから!」

「いいや、勝つのは俺だ!」

「あなたの水晶盾はさっき破壊したです。これ以上あなたを守る手立てはない!」

「それはどうかな」

エルマーは涼しげな顔でそう返すと、地面に両手を触れた。

「なあ、リステリア。水晶の材料って何か知ってるか?」

 リステリアは首をかしげる。そして彼はこう答えた。

「答えはケイ素だ。そしてケイ素は地殻中に大量に存在する。俺が【水晶魔術師】と呼ばれているのは【水晶盾】のような道具を作れるからだけじゃない。地面の中からケイ素成分を取り出して自在に武器にできる能力を持っているからだ。名付けて【水晶精製】。つまり地面の上にいる限り、俺は無限に武器を生産できるってことだ!」

 そう言ってエルマーが地面から手を離すと、現れたのは先程のものよりも一回り大きい大型の水晶盾だった。

「笑わせないで下さいよ。何かと思えばまた盾ですか?気づいてないなら教えてあげます。守ってばかりではいつまでも勝てないんですよ!」

「気づいてないのはそっちの方だ!盾が守るためだけの道具だと思ったら大間違いなんだよ!」

 次の瞬間、エルマーはその盾を持ち上げてなんと振り回し始めた。

「どこにそんな馬鹿力が……」

「お前の方だって、随分と動きが鈍くなったじゃないのか?そのリングをつけたままだと動きにくいんだろ?テトラはもういない。その無意味な装飾具を外したらどうだ?」

「そうですね、言われた通りにしてやりますよ。これのせいであなたの攻撃が当たったと言われるのも癪ですから」

 そうこぼしつつも、リステリアにとってそれを脅威と感じることはなかった。いくら動きが鈍くなったとはいえ、エルマーと対峙して優位に立てるだけの体力はまだまだ残っていたのだ。エルマーの攻撃をよけつつ、リステリアは少しずつ、でも確実に反撃を繰り返して、エルマーの体力を奪っていった。

 しかし、それもまたエルマーの作戦のうちだったのだ。

 しばらくすると、エルマーは動きを止める。

「はあ、はあ……もうどうしましたか?もう降参ですか?」

「そうだな。もうそろそろ準備が整う」

「何を言っているのです?」

「言いから真下を見て見ろよ?」

「真下?」

リステリアは言われた通りに下を見た。しかし、そこには何もない。

「お前が今立っている場所、そこは俺がさっきまで立っていた場所だ」

 リステリアが気づいた時には遅かった。エルマーは、起動せよ魔方陣、と叫ぶと地面にありったけの魔力を叩き込んだ。

次の瞬間、リステリアを眩しいくらいの光が包んで現れたのは彼女の動きを止めるには十分なほどの大きな【水晶の鎖】だった。リステリアはエルマーの策略にはまり見事に縛り付けられたのだった。

「どうだ。地面に縛り付けられる気分は?」

「ふん。こんなので動きを封じ込めたつもりですか?多少は驚きましたが、こんなもの私の力を持ってすれば、簡単に抜けられるんですよ」

「そうなのか。だったら早く決着をつけようか。この際に重要なのは数秒間だけじっとしていてくれることだけだからな」

 そう言って、エルマーがおもむろに手にしたのは、地面に転がっていた銃弾、それはあの機関銃の弾丸だった。

「そんな使い捨ての空っぽの弾丸を使って何ができますか?」

「魔力を込め直せば良いだけの話だ。それが魔法銃の特徴の一つだからな」

「でも、たとえ弾丸があっても銃身がなければ何の意味もないです!」

「忘れたのか?ないなら作ればいいだけの話だ!」

 エルマーはそう宣言すると地面に手を付けた。精製したのはテトラの持っていた鉱石魔法銃のような武器だった。ただし、違っているのは銃身がテトラのものに比べて長く、半透明であること。

「水晶精製……ですか」

「こいつの威力はお前はよく知っているだろ?俺はこれで確実にお前を仕留める。だからじっとしといてくれよ」

 その一言にさすがに慌てたのかリステリアは急いで鎖を壊し始めた。彼女が鎖から脱出するのとエルマーが銃弾を放ったのはほぼ同時だった。しかし、避けることはできてもその弾丸が追尾してくることはリステリアは知っていた。

「リングを外すように促したのも、このためだったんですね。でも甘い!」

リステリアはその驚異的な動体視力で弾丸の軌道を見極めると、左手を犠牲にして致命傷を防いだ……はずだった。しかし、彼の放った弾丸は着弾すると同時に眩い光を放った。

「これは……目くらまし!」

 あまりの眩さにリステリアの視界は奪われることとなった。その一瞬の隙をついて彼女の右側に回り込んだエルマーは仕込んでいたもう一つの弾丸で、彼女の頭を狙う。

「言っただろ?確実に仕留めるって」

それはリステリアの眉間を貫き、一瞬にして彼女の意識は吹き飛んだ。見事なヘッドショットだった。リステリアはくらくらと目を回してばたんと倒れこむ。

「やった……勝った……ぞ」

その後、勝利を確信して安心したのか、力の抜けきったエルマーはリステリアに重なるようにして倒れ込んだ。

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