プロローグ~Four years ago
地方都市、アルトアリス。
そこは【王国】の東端、いわゆる極東と呼ばれる場所に位置する山に囲まれた都市だった。そこは昔から鉱山都市として発展しており、特にアルトアリスでしか採れないと言われる鉱石がその町の産業を支えていた。その鉱石の名前は【可塑性水晶】、別名【透明な金属】とも呼ばれる鉱石である。その土地の地形がそれを作ったのか、それとも神様がいたずらで隠していたのか、金属のような光沢を持ち、水晶のような透明度を持つそれは、見た者を魅了する、まるでこの世のものとは思えない美しさを持っていた。
しかし、この町にある日災いが訪れた。
一夜にして町は滅亡した。
それは仕事がなくなったとか、住む場所が奪われたとか、そういうレベルの話では済まなかった。
町ひとつが原型をとどめることなく消え去ったのだ。
その原因は虫だった。それは蝗害だった。
シロガネムシと呼ばれる種類の昆虫が、突如空の色を変えてしまうほど大量発生し、アルトアリスの町を覆い尽くした。凶暴化したシロガネムシは作物だけでなく、石材、木材、金属に至るまで喰らい尽くし、最終的には人間すらもその対象になった。
やがて数時間もすると食べるものがなくなり、辺りはシロガネムシの死骸が地面の見えないほど覆い尽くした。その数推定六億匹。地面に積み重なった死骸の層は足首にまで達していた。
この日を境にアルトアリスとその周辺には誰も立ち入らなくなった。かろうじて生き延びることができたものは、故郷を離れるしかなく、周辺の地域へ移住して暮らすことを余儀なくされた。
この物語はその日を境に母親を失った少年と、その家族の物語。