残されたもの
(うぁ、う。)
シオンは、悲鳴をあげそうになったが、声を漏らさないように手で口を押さえていた。
「残念だったな。お前の速さには、対策済みだ。俺を研究者と思って、キメラに意識しすぎたな。って聞こえてないか。」
「く、うぅ!」
アリスは、胸を押さえて呻き声をあげる。
「このまま、ほっといても死ぬな。俺は、忙しいんでな。精々苦しみながら、死ね。じゃあな。」
そう言って男は、去っていった。
(母さん!)
シオンは、急いでアリスを担ぐ。
(重い…、なんて言っていられない!)
「シ、オン、どう、してここに?」
「説明は後!早く治癒術士に見せないと!」
しかし、子供が大人を担いで運ぶ。それは、大変時間のかかる行為だった。そのため、それほど距離が離れていないにもかかわらず、村に着くのに2時間かかった。
フィオナの頭は、真っ白になっていた。シオンが血塗れのアリスを担いで帰ってきたのを見たからだ。
「何があったの!急いで治癒術士を!」
村の治癒術士が魔法をかけるが、
「これは、もう…」
「言うな!魔力を空にするぐらいかけるんだ!」
「も、う、いい、の。わた、しは、もう、助か、らないの、でしょう?」
(もう、喋らないで!弱っていく母さんなんて見たくない!)
「マリア、様を、ここ、に呼んで。」
「アリスさん…。」
マリアの治癒魔法でも駄目だった。傷口についてる黒い靄が回復の邪魔をしている。…アリスは、もう助からない。
「先日シオンの弟子入りを拒否しましたが、フィオナとシオンを弟子入りさせてくれませんか?」
アリスは聞き取りやすいように、苦しいのを我慢して話す。
(…もう命を削らないで。)
「わかりました、だからもう…。」
(喋らないで…。)
「それ、を聞い、て安、心した、わ。これ、でもう…、」
その後、アリスは、息を引き取った。