油断
シオンは気づいていた。ミラが度々つけていたのを。だから、シオンは毎日気を抜かず、いつでも戦えるように気を引き締めていた。
シオンはアンのような何者かが人を快く思っていない神々をも間接的に利用し地上を荒らしているのではないかと考えていた。そして、ナナシの説明で確信に変わった。ミラも当然聞いていただろうと思っていた。ミラが自分を狙うのは人が嫌いで自分が人に生まれ変わっているからだと思い、つい気を抜いてしまった。
だが、ミラはその隙を逃さずシオンの胸を貫いた。
「ミラ…!は、なしを、聞いて、なかった、んですか?僕が、死んだのも、神々の、心を、人から、遠ざけ、地上を、混乱の渦に、巻き込むため、だったと、いうくらい想像が、つくでしょう?」
「ええ、だからもう人を憎んでないわよ?私はただ、以前の関係に戻りたいだけ…、…!」
「『スピリッツⅣ』!シオンから離れなさい!」
フィオナの突撃を昆をシオンから引き抜くと同時に回避した。
(彼女があのときの女神なの?あのときはまだ女神を名乗っていなかったけど…。)
フィオナは『スピリッツⅣ』を解きながら、彼女の成長に驚く。
「ゲホッ、ゲホッ!」
シオンは神衣に魔力を流す。すると穴が開いた部分が塞がっていく。神衣の効果は自動修復。魔力の消費量が少し多目だが、気を抜かず魔力を流していればミラの昆が衣ごと胸を貫くよりも早く衣が修復していき、普通の打撃が入った程度にしかダメージが入らなかったはずだった。
(…本当に…油断しました。)
「『治癒』!」
ランドの治癒魔法で胸に開いた穴が塞がっていく。その光景にナナシがきょとんとしている。何故神がシオンを狙っているのかわからないのだろう。
シオンがランドにアイコンタクトを送る。内容は『姉さんを僕に近づけないでください!』だった。シオンは両膝をつき、肩を抱えて震えている。まるで何かを我慢しているような雰囲気だった。そこでランドはミラの昆で何の感情を植え付けられたのか察しがついたが、当のフィオナがシオンに近づいてしまった。
「シオン、大丈夫!?」
フィオナがシオンのもとに心配そうに駆け寄ってくる。
「はあ、はあ、姉さん!早く離れて!」
「離れられるわけがないでしょ!…むぐ!?」
シオンはフィオナを抱き締め唇を奪った。舌も絡め、簡易空間魔法で自分の手をフィオナの胸元に繋げ、抱き締めたまま胸を鷲掴みにする。
ミラの昆で植え付けられたのは、フィオナに対する恋愛感情。ただでさえ、最近の自分の恋愛感情を抑えきれていなかったのに、さらに追加され理性が飛んでいた。
フィオナは、頭の中が真っ白になっていた。
(あれ?私、今何してるんだっけ?)
「ラブラブね。もとの関係に戻ったら負けないわよ、精霊姫。そのまま二人仲良く苦しませず殺してあげる。『心波動』!」
「『空間転移』!」
エリシアが咄嗟に『心波動』を空間の中に取り込み、出口をつくり返す。ミラは昆で軽く弾いた。
「邪魔をしないで!」
「『魔弾』!『魔弾』!『魔弾』!エリシア!早く二人を引き離して!」
クリスが魔法で牽制し、距離を取らせる。
「くっ!んっ!ダメ!全然離れない!空間魔法もシオンが無効化してる!」
シオンの本能が姉さんは絶対に離さない!とばかりに力が入っており、無意識にエリシアの魔法も無効化していた。ただし、理性が全て飛んでいたわけではない。本来なら今以上のことをしかねなかったのだが、僅かに残っている理性で何とか踏みとどまっていた。
そんななか、意外な人物が現れた。
「シオン?ルナ先輩がカンカンに怒ってたけど何かした?えっ?何、この状況?」