負の歴史
『フリーズ』は隊長であろう一人のエルフに世界樹まで案内された。
「ようこそ、世界樹へ。」
世界樹の目の前までたどり着くと一人の女性が待っていた。だが、目の前にいるのに不思議と気配が希薄だった。
「お前が俺の目を奪ったやつという解釈でいいのか?」
「貴方に力を与えた者という認識にしてほしいんだけど。あっ、名前無いからナナシとでも呼んで。」
「もういいよ、それで…。どうせ目は返ってこないんだろ?で、話なんだが、」
「あのアンとかいうやつでしょ?わかってるわ。説明してあげる。その前に座って。」
全員に近くにある切り株に座るように促した。
「さてさて、どこから説明したものか。負って何かわかる?」
「憎悪や怒りといった良くない感情が形になったもの…ですか?」
「察しがいいわね。正解よ。じゃあ、その負の歴史を説明するわね。」
だが、すぐには話さなかった。どう説明するか整理しているのだろう。
「…よし!まず、世界樹の役目は自然の神のような存在で生物に必要な食物と酸素をつくる役割を持っている。それともう一つ役目があるの。」
「創造神から話は聞いた。世界を守ってるんだろ?何かからはわからないが。」
「その何かが負、なのよ。昔は世界樹がその負を浄化していった。増えるより減らす方が早かった。でもね、負っていうのは生物がいればいるほど増えやすくなるの。蜘蛛だって巣を壊されれば怒る、家を壊されたのと同義だから。蟻だって人に仲間を踏まれれば憎悪する。そういった生物達は年々増えていった。次第に減らすより増える方が多くなった。そして、ある日その負は自我を持った。」
「それがアンですか?」
「違うわ。あれは分身のようなもの。その自我を持ったもの、アンノウンとでも呼びましょうか?アンノウンは感情系の神と同じように感情が力になるの。アンノウンは力を集めるために分身達を造った。その一人がアン。分身達は世界を争いで包み込み、そこから力を集めることを計画した。最初は分身達の力は弱かった。だから、少人数しか操れなかった。でも、それで十分だった。何故なら上に立つ者を操ればよかったのだから。そして、自分達をその側近に位置付ければ、もうそれで戦争大国。まあ、帝国の場合は軽く煽るだけで操るまでも無かったようだけど。はあ、それにしても狂ったように笑うってことは相当、力を集めてしまっているんでしょうね…。」
そこまで聞いてクリスはあることに気づいた。
「…ねぇ、それってそのアンノウンを倒しても無駄ってこと?負は生物から生まれていて、世界樹が浄化していくより早く増えるんでしょ?」
「今は…ね、漸く世界樹も成長期に入ったみたいなの。これで今までとは比べ物にならないほど多く浄化していける。でも、そのためには一度アンノウンを倒さないといけないわ。」
「一度?」
「貴方達に師匠がいるでしょ?彼女の前世はアンノウンと戦って弱らせてくれたの。ただ、彼女も重傷でその戦いの後に亡くなってしまったけど。それで、彼女の魂にあるおまじないをかけたの。無意識に新たな戦士を集めるように。操っているようで心苦しかったけどね…。それで、貴方達が集まった。」
「…何で、俺に目を埋め込んだんだ?」
「貴方は援護魔法が得意でしょ?それに私の力を合わせれば、援護魔法がかかっている者に地力が足りていればアンノウンを倒せるようになる。アンノウンは普通にやっても倒せないのよ。身をもって知ったでしょ?」
アレン状態のシオンの魔法でも、心臓と脳を潰しても平気だったアンを思い出す。
「これから近いうちにアンノウンと戦う日が来る。その前に力を削ぐために分身達を倒してほしいの。それができれば後は本体のアンノウンを倒すだけ。でも、恐らく今までで一番強いわ。神が集まっても勝てるかどうか…。」
「じ、じゃあ、さらに全人類を一致団結させて一緒に戦えばいいじゃねぇか!そうすれば…」
「間に合うかしら…、いやそれ以前にそんなことできるのかしら?確かにそれができれば一番だけど、シオンはどう思う?…シオン!?」
「ゲホッ!?…ど、どう、して?」
ミラの昆がシオンの胸を貫いていた。