名前
「へぇー、一億の兵士を一瞬で…。」
偽女神ことアンは遠くから戦況を見ていたが、マリアの力に少し驚いていた。そのせいで、周りのことが疎かになっていた。
(『共鳴』!)
フィリスは元々伏兵の探索に乗り出していたが、思わぬ収穫が手に入った。『共鳴』で『フリーズ』全員に繋ぎ、情報を伝えた。
「…!ちっ!『負気剣』!」
アンはようやくフィリスの存在に気づいた。禍々しい黒のオーラがフィリスに向かって伸びていく。それをシオンが剣でエリシアが小手で守った。エリシアが指をならし、一瞬で連れてきたのだ。
「「あっ、貴方は(お前は)!えっ?」」
シオンとランドは全く同じタイミングで彼女に指を指していた。
「ランド、知ってるんですか?」
「ああ、あいつは小隊率いて俺の前世を殺した女だ。」
「奇遇ですね。僕の前世も彼女の裏切りが原因で殺されましたよ。」
「ああ、平和馬鹿の未熟神と魔族と和平などと余計なことを考えた間抜けな勇者の生まれ変わりね。生まれ変わってなお私の邪魔をして!」
シオンは内心驚いていた。彼女に神だと明かしていないのに知られていたからだ。それ以前に、
((あの女、何歳ですか(だよ)!))
年齢が既に人の域ではなかった。
「『スピリッツⅣ』…。」
「姉さん!?」
フィオナは何も籠っていない目でアンを見たかと思うといきなり突撃していった。当然だろう。彼女のせいで愛する者の命が亡くなったのだから。
「絶対!貴方だけは!世界に存在する精霊達よ。我にその力を分け与え、我が敵を消し飛ばせ!『精霊界』!」
「アハハハ、何それ?」
桃色の球体がアンに放たれる。が、片手で掴み、握りつぶした。フィオナは『スピリッツⅣ』を解いたかと思うと、
「『ジェネレーション』!」
隕石、吹雪、電気が流れた津波が襲い、白と黒の球体に閉じ込める。
「『精霊姫』!」
フィオナの突きが決まる…前にアンは球体が割り脱出した。
「あらあら?貴方、前世では精霊姫だったの?あのときは勝手に死んでくれて助かったわ。」
「貴女は…!」
「『限界魔砲』!」
「鬱陶しい!」
クリスの軽く手で弾いた。
「そんな…。」
「『剛力』!」
「『青龍』!」
魔力が籠った拳と脚がアンを襲うがそれも片手ずつで受け止められる。そして、そのまま投げ飛ばし、近くの岩に激突した。
「がっ!ゲホッ!ガホッ!くう!」
エリシアは何とか立ち上がるが左肩が折れ、フィリスは自分の魔石が揺れ気絶していた。
「消えろ!神造人間!」
「『盾突進』!」
アンがエリシアに向かって杖を構える。が、ランドの『盾突進』で妨害した。
「ちょろちょろと目障りな…!」
「『流星』!」
『透明』状態で背後に移動していたクリスが『流星』を決める。
「ぐぅ!貴様ら!」
((『人格融合』!))
「『ジェネレーション』!『魔力補充』!『魔力集合』!」
『魔力集合』は今では練習の末、一瞬で魔力を集められるようになっている。
「『魔力活性』!シオン、思いっきりいけ!背中には俺がいる!」
ランドが背中を押す。ランドもシオンもどうしても彼女が許せなかった。シオンは終わりの杖剣をアンは禍々しい杖を構える。
「『破滅閃光』!」
「『負世界』!」
禍々しい黒に覆われたものと黒く輝くものの二つの極太レーザーがぶつかる。
「いけ!いけ!くっ!あと少し…あと少しなのに!」
シオンが悔しそうに歯を食いしばる。
「時間が…、くそ!『延長』!」
『延長』は『人格融合』の時間を伸ばす練習の果てに覚えたもの。残念ながら『人格融合』のタイムは伸ばせなかったが、魂の状態を不完全な融合状態にすることで力が八割に落ちるものの、『ジェネレーション』を維持できるようになった。不完全な融合なので、声もシオンとシーナの二重になる。
「アハハハ、消えろ消えろ!」
「「負け…られ…ないんだよ!」」
しかし、少しずつアンの魔法がシオンの魔法を押し退けていき迫ってきていた。
((…もう…ダメだ…。))
「あのシン様、一つお聞きしたいことがあるのですが…。」
「ん?何、オルティ?」
「私の息子に名前はつけてくださらないのですか?」
「え~、だって一日五分しかあの姿でいられないし、め…」
面倒と言いかけたところで、何とか黙った。オルティは笑っている。だが、目の奥では戦闘体勢だった。
「…そうね、じゃあアレンで。」
「シン様?息子の話ですとそれは死人の名前らしいですよ?」
「どうせなら、馴染みのある方がいいでしょ。それに名前考えるの面倒だし。…はっ!」
シンは自分の失言に気付いたが遅かった。
「シン様のお気持ちが良くわかりました。ええ、それはもう。『縛』!」
オルティは数千年前の時の十倍、一万の『縛』でシンを縛った。
「胸が…!きつい…!…ほど…いて!」
「シン様、今から他界他界しましょうね?」
「字!字!」
「それとも、ママごとでもしますか?シン様が嫁役で婿役はゴブリン。プレイとして縛られているシン様をゴブリンが犯すんです。シン様は容姿は綺麗ですから、ゴブリンも気に入ると思いますよ?」
「目が笑っていない!?お願い、許してーーー!!」
「シン様、家族が増えるかもしれませんね?」
「心に決めている相手がいるから止めてーーー!!」
オルティが許してくれたのは、大量のゴブリンが目の前に現れ、本気で泣き始めた頃だった。
この瞬間、シオンの『ジェネレーション』状態の身体能力は神界にいるときと変わらなくなった。
『破滅閃光』は必ず魔力が空になるが、威力の調節は自由だ。ミラと戦ったときも反動を気にして足の骨が砕ける程度に加減していた。ランドが押してくれているからあのときよりも威力を出しているが、それでもまだ加減していた。
だが、シンが名前をつけてくれたおかげで、足が千切れる心配が無くなった。
「「…!?よくわからないけど、いける!はあーーー!!」」
シオンは威力を最大にした。