魔族の危機
シオンは調べたいことがあり、コテナの近くの森を歩いていた。
(最近魔物が大人しい…。やっぱり前伯父さん…。)
どの種類の魔物も見かけても襲ってこず、真横を歩いてもチラッと見てくるだけで何もしてこない。コテナ住人の話では最近被害がゼロ。寧ろ従魔にできるようになったとも言っていた(従魔は本来魔物に近い生き物にしかできなかった)。
シオンはそのままコテナに帰った。
『フリーズ』はいつものようにギルド長に呼び出されていた。だが、今回の依頼はギルド長からではない。
「なんですって!?帝国が魔族に宣戦布告!?」
エリシアが叫ぶ。帝国というのは人間主義の国で獣族や魔族だけでなく、エルフやドワーフに対しても酷い差別をすることで有名な国である。そして、この世界で一番の大国である。
「ああ、元々少し前から武器を集めたり、異世界から勇者を召喚したりと怪しい噂が絶えなかったが、どうやら人間だけの世界に変えるつもりのようだな。帝国と魔族領は近いからな。まず手始めに…ということだろうな。」
「リオ…。」
エリシアが心配そうに呟く。
「そこまで勇者は強いんですか?」
世界を敵にまわすのだ。当然の疑問である。
「わからん…。情報では男二女二の四人いるらしい。だが、行動を起こすところから察するに普通の兵士では相手にならんのだろう。」
ガシャーン!
「面白そうな話してるわね。」
マリアが窓ガラスを割って入ってきた。
「普通に入ってこい!」
「はいはい、で?異世界からの勇者だっけ?その勇者ってのは、帝国の王に従順なの?」
「そうだな…、一応は命令通りに動いているようだな。」
「弱味を握られているとか?」
「無いな。報告では生き生きしていたそうだ。」
「…帝国の兵力は?」
「一億だ…。」
「「「「「一億!?」」」」」
「ふーん。」
(((((軽!?)))))
普通はふーんで済ませられるレベルではない。だが、マリアだから仕方ない。
(それにしても生き生きと…か。人の命をなんだと思ってんだ…!)
「魔族の兵力は…?」
「五十万程度だそうだ。」
(兵力差二百倍か。)
「これを機に一時的に獣族とエルフ、ドワーフや一部の人間と同盟を組もうとしてるんだが、上手くいっていない。」
「…魔族はどうなるんですか?」
「兵は送る…、だが、できるだけ多くの魔族を逃がすことを前提だ。戦いは極力避けるつもりだ。で、魔王からの依頼だが…」
「受けます!」
エリシアが答える。だが、
「関わるな…だそうだ。」
ギルド長はそう言った。
「えっ?」
「魔王は…死ぬつもりだ。前線で戦い、多くの魔族を逃がし、魔族の王である自分が討ち取られることでこの戦争を終わらせようとしているんだ。彼女が死んだところで帝国が止まるはずがないのに…!」
ギルド長は悔しそうに歯を食いしばる。が、すぐに治まった。
「だから、彼女より先に依頼を出す。魔族を助けてくれ!」
「はい!」
そう言って『フリーズ』は部屋を出ていった。